第4話 星界の鍵
「綺麗な鍵だな」
床から拾い上げ、まずは見た目を確認する。
金地に美しく精緻な紋様が彫られていて、握り部分にはカットが施された大粒の蒼い宝石が嵌められている。
「鑑定っと」
《星界の鍵》クラス:Ⅴ 品質:優
・星々の力そのもので作られた鍵。破壊不可。【一界一城の主】を発動出来る。一度装備すると発動者が登録され、以後変更は出来なくなる。
【一界一城の主】クラス:Ⅴ
・装備スキル。スキル発動を願い、出現した鍵を空間に差し込み捻る事で異界を生成する。中の広さや環境はクラス:Ⅴ、品質:優に依存する。発動者及び発動者の所有する物品のみ移動可能。
「家ですらなかった!」
家よりももっと凄い場所へ行ける鍵だった。
「異界かぁ」
入れるのが本当に俺だけなら、何かあった時はそこへ避難出来る。
森の中でのサバイバルも覚悟していたから安全地帯は本当に助かる。
ちなみにここはダンジョンだから住むのは無理だ。
モンスターが出る可能性アリってそりゃ事故物件ですよ。
「よし、とりあえずダンジョンを出よう」
「にゃん」
俺の言葉を理解したのか、ラジエルはふよふよと浮きつつ元来た道を戻り始めた。
俺もついて行くために立ち上がる。
「鑑定玉と星界の鍵は鞄に入れておくか」
中にはポケットがいくつかあるから、それぞれ別の場所に入れる。
「他は何もない、よな?」
最後に周りをもう一度確認してから部屋を出た。
♢
無事に滝壺まで戻ってきた。
ラジエルは途中で浮くことに飽きたのか、俺の腕の中で丸くなっている。
「これからどうするかな」
近くに水場があるのは助かるが、野生動物が寄ってくるかもしれない。
「先に鍵を試してみるか」
滝壺から離れると広場の草地に腰を下ろす。
胡坐をかいてそこにラジエルを乗せた。
「にゃん」
ラジエルは一度開いた目をすぐに閉じてまた寝始める。
「さ、どこだったかなっと」
片手でラジエルを撫でながら、鞄の中を探ると鍵を取り出す。
「あったあった」
その鍵を握ると装備するよう意識する。
「多分これでいいはず」
すると鍵は徐々に青い光の粒へと変換され、空中で玉になった。
その光の玉は何故か俺の方へ飛んで来る。
「うおっ!?」
反射的に手で払ったのに触れない。
その勢いのままに胸へと勝手に吸い込まれていった。
「何だったんだ今の」
自分の胸を触ってみる。
特に変わりはなさそうだ。
「これで登録出来たって事か?」
鞄から鑑定玉を取り出すと自分の腕を見る。
星渡 巡
年齢:18歳
種族:異世界人
職業:旅人
SP:100/100
MP:0
固有スキル:【まどう図書館(貸出中)】
通常スキル:
装備スキル:【鑑定】【一界一城の主】
装備スキル欄に【一界一城の主】がある。
どうやら上手く行ったみたいだ。
俺は次にスキルを使うよう意識してみる。
すると手の中にいきなり鍵が現れた。
「おお!」
次は鍵が消えるよう念じてみる。
すると念じた瞬間、持っていた鍵は消えた。
「これは凄い」
ステータスを見ながらだから分かった。
鍵を持っていても消していても装備スキルは変わらない。
常に装備している状態を維持している。
「便利だな。これで鍵をなくさなくて済むぞ」
鍵を出すのを止め、そのまま画面を確認していく。
「まずMPが0なのはラジエルを呼び出したからだな」
これは分かる。
「まどう図書館の表示が変わってる」
【まどう図書館】の貸出中の部分を鑑定してみる。
【まどう図書館】
・蔵書一覧
第一冊目:宇宙猫の書(貸出中)
「これは……」
宇宙猫。宇宙猫かぁ。
「どういうこと?」
「にゃーん」
「はっ!? 俺が宇宙猫になってどうする」
しばらく固まっていたらしい。
胡座の中で丸くなっていたラジエルが心配そうに見上げてくる。
「ごめん、ちょっと驚いて」
「にゃん」
それならいいとばかりに一声鳴くと、ラジエルはまた丸くなった。
「これ以上説明は出てこないのか」
宇宙猫の書を鑑定しても何も表示されない。
試しにラジエル自身を鑑定してみても同じだった。
「うーん」
俺はステータス画面に戻るとスキルの説明をもう一度確認した。
【まどう図書館】
・固有スキル。スキル発動を願うことでランダムに本を一冊手に入れる。発動には100MPが必要。本の種類によって様々な恩恵が受けられ、一度手に入れた本は【まどう図書館】に収められる。収められた本はMPを消費せずに貸出・返却が可能。
そもそも宇宙猫の書による恩恵とは何だろう。
鑑定上は特に変わりはなさそうだし、体感で何かが変わった感じもしない。
白い短毛の撫で心地は最高、黒い翼もサラサラしていて気持ちいい。
例を挙げるとするならそういった撫で心地や爽やかで落ち着く匂いが思い付く。
背後に宇宙が見えたりするのも恩恵か?
馬鹿な事を考えている自覚はあるし、多分違うはず。
「何か目に見えない恩恵なのかもな」
気付くと俺の手はラジエルを撫でている。
「まあ仕方ないな」
まずはこの世界で生き残ること。
恩恵の事は少しずつ理解していくしかない。
「使うか、鍵」
使おうと意識したからか手の中に鍵が現れる。
まだ異界の中を確認してないからな。
ラジエルには申し訳ないが一旦浮いててもらおう。
「開門!」
掛け声と共に目の前の空間に鍵を差し込み捻る。
すると鍵が消え、目の前に俺がすっぽり入る大きさの黒い渦が現れた。
「これが入り口か」
色んな方向からその渦を観察する。
あ、横から見ると薄いんだ。
「入っても大丈夫だよな?」
手を伸ばし渦に触れる。
特に感触もなければ熱いも冷たいもない。
思い切って腕を渦の中に入れてみると、何の抵抗もなく肘辺りまで入った。
そのまま身体全部は入れずに、何度か腕を出したり入れたりして異常がないことを確認する。
「にゃ」
ラジエルはしばらくそんな俺の姿を見ていたが、一鳴きすると渦の中に飛び込んでいった。
「あっ!」
止める間もなくラジエルの身体は向こう側へ行ってしまった。
ラジエルはこういう時思い切りがいいよな。
「もしくは俺が考えすぎか……」
急いで渦の中へ入る事にする。
渦を通り抜ける瞬間は緊張で目を瞑りながら――。




