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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ


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第43話 星降る宙、水心の刻

 星が瞬く宙を見上げていた。

 駆け出していくのは流れ星。

 見守るのは蒼い月。

 草が寄り添う音、愛を囁く虫の音。 

 心音は互いの水面を静かに揺らしている。

 

「綺麗だな」

「綺麗ね」


 ここは南門から出た先にある丘だ。

 マァ曰く、街の人には人気のデートスポットらしい。

 今日は周囲に人影もなく、二人だけの世界が広がっていた。


「私ね、嬉しいの」

「え?」


 俺達は手を繋いでいる。

 初めて出会ったあの時のように。


「メグルに出会えて」

「うん」


 それは俺もだ。


「旅に出てすぐは一人でも大丈夫だと思っていたわ」


 マァは一人で国を飛び出してきた。


「結局それは理想でしかなくて……実際は全然違ったわね」


 確かに、盗賊に襲われてから今まで本当に色々とあったな。

 

「あの時メグルが助けてくれたから、今の私があるの」


 思えば出会いは偶然だった。

 あの時何かが違っていれば、こうして二人でいる未来もなかっただろう。


「本当にありがとう」


 マァはそう言って俺に頭を下げた。


「こちらこそだ」


 俺も頭を下げる。

 言葉も文化も分からないこの世界で、マァこそが俺の人生の道標だった。


「楽しかったわ」

「ああ、楽しい時間だった」


 俺達は頭を上げるとお互いに笑い合う。


「ここに来れてよかった」

「俺もだ」


 流れ星がいくつもいくつも現れては去っていく。

 こんな時間がいつまでも続けばいいのに。



「帰らないといけないんだよな?」


 しばらくして俺は切り出した。

 もちろん宿にではない、自分の国にだ。


「ええ」


 ……実際にそうだと心に来るものがあるな。


「本当はね、学校に行く予定だったの」

「そっか」

「学ぶのは好きだし行くのはいい。だけど……」


 マァは言葉に詰まる。


「だけど?」


 俺は続きを促した。

 マァは深く息を吸い、吐き出すと言う。


「だけど、それは婚約者に会うためでもあるの」

「婚約者……」


 俺はいきなり出てきた言葉に固まる。


「ええ、婚約者よ。見た事もないけど」


 マァは顔を伏せると続ける。


「親が勝手に決めた相手なの。同い年らしいから入学も一緒ね」

「そっか……」


 俺はそれしか言えない。

 顔が強張っていくのが自分でも分かる。


「入学したらその相手としばらく過ごさないといけない」


 同じクラスになるかは分からないけど、少なくとも卒業までは同じ場所で学ぶはずだ。

 関わらないようにするのはほぼ不可能だろう。


「私はそれが嫌だった。自分の相手は自分で見つけたいし」


 俺の方に視線を向けると続ける。


「だから私は家族に黙ってこの国へ逃げたの」


 家族の誰も知らない場所へ、か。


「もちろん自分の力を試したくてというのも嘘じゃないわ」


 初めて森で会ったときに聞いたな。

 だから村から出てきたとか。


「でも一番の理由は婚約者との事なの」


 言い終えたマァは俺をただ見つめている。


「話してくれてありがとう」


 出来れば話したくない内容だっただろうから。


「マァを助けた時から少し違和感はあった」


 最初は盗賊から助けるために必死だったし、深入りしない様に気を付けていた。

 でも一緒に過ごす時間が長くなるにつれて違和感は確信に変わった。


「だから、お嬢様だってのは今更だ」


 マァはマァだ。

 それでいい。


「ただ、婚約者がいるのは予想してなかったな」


 俺は苦笑するしかない。

 その姿を見てマァが俯いてしまった。


「ごめん、マァを責めたつもりはないよ」


 俺はマァの肩に手を乗せる。

 彼女が傷つかない様に優しく。


「自分の気持ちをちゃんと行動で示せたのは凄い」


 俺が同じ立場だったら行動出来たかどうか。

 でもそこには大事なものが抜けている……。


「ただ家族は凄く心配してると思う」


 マァは勢いよく顔を上げる。

 開いた瞳はまん丸で宙に浮かぶ月のようだ。


「大切な娘がいきなりいなくなったら、家族は死に物狂いで探すはずだ」


 俺は家族と離れてしまった。

 どれだけ会いたいと願っても。

 どれだけ世界を探しても。

 もう見つかる事はない。

 だから……。


「だから、きちんと家族に伝えるべきだ」


 婚約者と会うのは嫌だ、自分の相手は自分で見つけるって。

 マァを大事にしているなら思いは必ず伝わるはずだ。


「そうね、黙って出てきてしまったし……」

「じゃあちゃんと帰らないと」

「でもメグルはどうするの?」


 マァは半歩こちらに近づく。

 瞳にはもうお互いしか映らない。


「……」


 俺はどうしたらいいんだろう。

 助けてくれる家族はいない。

 言葉も分からない。

 ハッズもマァに懐いているし、彼女について行くだろう。

 俺にはラジエルと共にこの世界を歩き続ける以外に道はない。


「俺は……」


 マァはちゃんと話してくれた。

 今度は俺の番だ。


「俺の事、聞いてくれるかな?」


 勇気を出して俺も伝えよう。


「いいわ、言ってみなさい」


 マァは優しい瞳で俺を見る。


「ああ、そもそも俺は……」


 俺はこの世界に来た経緯を語った。

 今まで話さなかった俺の種族や固有スキルも。

 大学生として生きていくはずだった未来も。

 永遠の別れになってしまった家族の事も。

 一晩で失ったものと得てしまったものの全て、その全てを……。


「辛かったわね」


 気付けばマァに抱きしめられていた。


「そうね、私の家族と同じようにあなたの家族もきっと心配しているわ」


 俺は彼女に縋ってしまう。

 今まで抑えていたものが奥底から溢れて止まらない。


「せめてメグルの無事だけでも伝えられたらいいのに」


 いつの間にか立場が逆転している。

 三歳も年上なのに情けない。

 でも、マァは温かい。

 俺はその安心感に甘えてしまう。


「ほら、泣かないの。あなたはちゃんとここで生きてる。それに希望は捨てちゃダメよ」


 マァが俺の頭を撫でながら言う。

 この世界にはスキルやダンジョン、解明されていない謎が沢山ある。

 その中に元の世界に戻れる方法があるかもしれない、と。


「そうだな……ありがとう」


 俺はマァから離れると涙を拭った。


「いいえ、私も頼られて嬉しいわ」

「そう言ってもらえると助かるよ」


 俺はどうにか笑う事が出来たと思う。


「それにまだ――」

「え?」

「何でもないわ」


 マァは話を切ると俺を見上げてくる。


「それより確認したいことがあるの」

「何?」

「男女でお揃いの指輪を着ける意味、メグルの世界ではどうなのかしら」


 確かに俺がいた世界では特別な意味があった。

 着けているなら少なくともそういう関係だと周りは見てくる。

 ダンジョンで見つけて以降、マァから指輪についての話は特にされなかった。

 周りに言ってくる人もいなかったし、お揃い以上に意味はないんだと思っていた。


「そう、特別な意味があるのね」


 俺の沈黙を肯定と受け取ったマァは頷く。

 その反応はもしかして。


「も・ち・ろ・ん私達の世界でも特別な意味があるわよ?」


 マァは悪戯っ子のような笑顔を浮かべると言った。


「それって……」

「ええ、それはね」


 俺の心臓が激しく脈打ち始めた。

 これじゃ丘で鳴く虫の音も聞こえない。

 落ち着こうと深呼吸をした俺を見てマァは言った。


「『  』よ」


 流れ星は光り続ける。

 まるで進むべき未来を自らの全てで照らすように――。

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