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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ


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第42話 故国からの迎えと純粋なデート

「そろそろ家を借りたいな」


 俺はラジエルを撫でながら言った。

 今は部屋でしか皆で過ごせないけど、家ならラジエルやハッズものびのび生活出来るんじゃないか。

 収支を考えれば、家を借りる事は出来ると思う。


「そうね、ただ報酬のいい依頼が減ってきてるのよね」

「それなぁ」


 この国、グロリアス王国において俺達がいるオブリビオンはそこまで大きな街じゃない。

 ランク2に上がってからなるだけ報酬の高いものを選んで受けてきた。

 だけど、最近はそういう依頼も少なくなっている。

 ダンジョンに関する依頼を達成したとはいえ、ランク3に上がるにはまだまだ時間が掛かりそうだし、これ以上ここで割のいい依頼を受け続けるのは難しいだろう。


「そろそろ次の街に向かう事を考えるべきね」


 そう言ってマァは俺を見る。


「出来ればここより大きい街の方がいいんだよな?」

「ええ、栄えている場所の方が依頼の数も報酬も全然違うから」


 思えば俺は大学に入ったら一人暮らしをする予定だった。出来れば下宿先の近くでバイトをしたくて求人検索をした事もある。

 行く予定だった場所の発展具合は俺の住んでいた村とは大違いで、下宿先の周りには色々な求人があった。

 逆に俺の実家周りを検索したときは泣いたよ。こんなに違うのかってさ。


「……大丈夫?」


 遠くを見つめて動かなくなった俺をマァが覗き込む。


「ああ、大丈夫だよ。ちょっと昔を思い出してさ」

「ならいいんだけど……」

「ごめんごめん、それで移動の話だったな」


 俺は頭を振り、現実を見る。

 この世界に来てからもう三ヶ月以上が経っている。向こうでの生活を考える時期はとうに過ぎてしまった。本当はすぐにでも戻って両親や妹を安心させてやりたいけど、今のところ叶いそうもない。

 マァと今後の話を詰めていく。こうして新たに出来た縁もあるし、前向きに考えよう。部屋で一緒に過ごしているラジエルやマァやハッズ、たまに斡旋所で話をするランジさんやシーマさん。この世界に飛ばされなければ出会えなかった人達もいるんだ。

 気付けばラジエルから爽やかな香りが漂ってきた。

 落ち着く香りに包まれながら、俺はこの世界に来てからの出会いについて改めて考えていた。



「見つけましたよ、お嬢様」


 俺の隣を歩いていたマァが固まる。

 ここは北門へ続く大通りだ。人が行き交う中、その声は妙に俺の耳に残った。

 声が聞こえた先を見る。そこには金属の鎧を纏い、大きな盾を背負った女性が立っていた。

 俺はすぐに鑑定する。



ファーレス=サーデク

年齢:20歳

種族:精霊人

職業:盾使い

SP:30/30

通常スキル:【盾術】

装備スキル:【衝壁】



 マァと同じ精霊人で装備スキルがある。

 色んな人間を鑑定してきたから知っている。

 この街は普人が多くて装備スキルもない人が大半だ。

 鑑定結果とさっきの言葉も併せて考えると……。


「何でここにいるのかしら、ファーレス」


 マァは硬直から解けると女性を軽く睨む。


「お嬢様を連れ戻しに参りました」


 俺は予想を裏切らないその言葉に、ただただ立ち尽くしていた。



 大通りで話す内容でもないため、俺達は街で人気の食堂へ場所を移した。

 現在はテーブルを挟んでファーレスという女性と向かい合って座っている。


「どうしてここが分かったのかしら」

「賊の拠点から押収した物の中にお嬢様の持ち物がありました」


 マァはいつになく挑戦的だ。

 対するファーレスさんは表情をピクリとも動かさない。


「それで?」

「その中のハンカチ、その隅にはアナーカ家の紋章が入っています」

「……はぁ」


 マァはため息を吐いた。

 紋章が見つかると不味い事は知っていても、ハンカチの存在までは頭が回らなかったのかもしれない。


「それでこちらに照会がかかりました」

「……」

「そして拠点から近い村や街を探してここへ辿り着いたのです」


 注文していた料理がテーブルに届いた。

 いい匂いの筈なのに食欲はあまり湧かない。

 俺達は周りの喧騒から切り離され、まるで別世界の住人のようだ。


「温かい内に料理を食べましょ」


 そう言ってマァが手を合わせて食べ始める。

 俺もそれに続いた。

 ファーレスさんは俺達のそんな姿に首を傾げるとそのまま食べ始める。


「お嬢様、ご当主様は大変心配されておいでです」

「でしょうね」


 食事の手を止める事なく、話を続ける二人。

 俺は完全に蚊帳の外だ。


「私が派遣された意味はお分かりですね?」

「ええ、分かっているつもりよ」


 気付けば皿の上の料理はどんどん減っていく。

 味わう余裕はない。


「今すぐは心の整理もつかないと思います」


 三日待ちます。

 そう最後に告げると、食事を終えたファーレスさんは自分が滞在している宿を教え去っていった。



「……」

「……」


 き、気まずい。

 俺達は食堂から宿に帰ってきた。

 どう話を切り出したらいいか迷っている内にお互い無言になってしまった。


「ねぇ」

「うん?」


 マァが話し始める。


「知ってた? 私がそういう生まれだって」


 俺はどう答えるべきだろうか。

 初めて鑑定した時から家名があるのは知っていた。

 ただ、それを正直に言うべきか。


「ああ、知ってたよ」


 俺は正直に言う事を選んだ。

 別にそれで接し方が変わる訳じゃないしな。


「やっぱり」


 マァは分かっていたように頷くとため息を吐いた。


「そもそも鑑定があるんだから、私を見た時点で知っている筈よね」

「そうだな」


 まあ気付いてるか。


「時間を稼いだつもりだったのにな」


 マァは悲しそうに顔をゆがめると言う。


「仕方ないさ、見つかるのは時間の問題だったんだろ」

「ええ、でももう少し猶予はあると思ってた」


 もっと早く街を離れる決断をしていれば、何かが変わっていたかもしれない。


「ねぇ、メグル」

「うん?」

「ちょっとお願いがあるんだけど……」


 俺はそのお願いを叶える事にした。



「わぁ!」

「凄いな」


 俺達はデートをしている。

 勘違いされたものとは違う、腕を組んで歩く本物のデート。

 マァからのお願いとは、『本当に好き同士がするようなデートをしてみたい』だった。


「ねぇねぇ、これ観ていきましょうよ」

「そうだな、観ようか」


 街に有名な劇団が来ているらしい。

 演劇は観た事がないからどんなものか楽しみだ。

 

「面白かったわね!」

「ああ、面白かったな」


 劇が終わった余韻を感じつつ大通りを歩く。

 あの劇の登場人物って俺達に似てたな。

 襲われている所を助けて、一緒に日々を過ごして、そしてダンジョンを踏破する。


「次はあそこに行きましょ」


 マァの視線の先にはテラス席のあるレストランが建っている。

 あそこは女性人気が高いらしい。

 腕を引かれながら俺もついていく。マァも楽しそうだ。


「ランチ美味しかった!」

「美味しかったな」


 テラス席に案内された俺達は、ここが地球ならSNSへ上げるであろうお洒落なランチを頼んだ。

 周りに見られながらは照れ臭かったけど、マァと一緒に食べられてよかったと思う。


「次はあそこよ」


 そう言って見えてきたのは大きな建物だ。

 ここは前も来たことがあるな。


「雑貨屋か」


 色んなジャンルの品物が売っている。

 専門的ではないけど、ここに来れば大抵の物は安価で手に入る。

 俺達が使っているナイフとか、日用品を買い揃えるために来たことがあった。


「色々見て回りましょ」

「ああ」


 ここは品揃えが豊富だから、見ているだけでも楽しい。

 全てを見て回るなら一日では足りないくらいだ。

 俺達はその後も色んな場所を巡り、お互いにこの瞬間を目一杯楽しんだ。



 時間が過ぎるのは早い。

 気付けば夕方になっていた。

 遠く赤い光が目に眩しい。


「そろそろ帰るか……」

「そうね……」


 ラジエルとハッズは宿で留守番をしてくれている。

 食事や果物は昼の分まで置いてきたから、お腹が空いたら食べてくれているだろう。


「ねぇ、最後に行きたい所があるんだけどいい?」


 マァは俺を見上げて言った。

 瞳が少し濡れて見える。


「いいよ」


 俺はそう言って頭を撫でた。


「あっ……」


 マァは顔を伏せるとしばらくの間そのまま撫でられていた。


「じゃ、行こうか」


 このままでもいいんだけど、マァが行きたい場所を知りたい。


「うん」


 マァは夕日に照らされながら、大通りを俺の腕を引いて歩き始めた。

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