第41話 踏破の祝宴~食事と感謝と宇宙創造~
踏破が正式に認められた日の夜、俺達は宿屋レリジョンの客室でお祝いの会を開いていた。
「じゃあダンジョン踏破を祝して!」
「かんぱーい!」
「にゃーん」
「ちゅうー」
俺とマァは木のコップを持ち上げると軽く打ち合わせる。
ラジエルは黄色のお猪口に、ハッズは自分用の水入れにそれぞれ手を添えている。
中身を零さないようにそっとその器にコップで触れていく。
乾杯が一通り終わるとそれぞれ飲み始めた。
「ふぅ」
「美味しいわねー」
「にゃ」
「ちゅう」
机の上に視線を向ければ大量の料理や果物が所狭しと置かれている。
「この聖水もそうだけど、料理も凄いな」
俺はステーキ、焼き魚、サラダのどれから食べようか迷う。
「そうね、お祝いだって言ったら張り切って作ってくれたわ」
マァはそう言い、もう一口聖水を飲むとハッズの方を見た。
「ハッズはどれが食べたいの?」
「ちゅう」
「分かったわ。まず野菜から……」
マァはハッズの返事を聞くと、ボウルに盛られた野菜を小皿に取り分け始めた。
「俺も取り分けるか。ラジエルは何がいいんだ?」
俺はラジエルが指し示す物を赤い皿に取り分ける。
目の前に置かれた赤い皿に盛られた焼き魚を見つめ、ラジエルは目を輝かせる。
「私達は各々取りましょうか」
「ああ、好きに取ろう」
俺とマァは自分の分を取り始める。
「では、いただきます」
俺は手を合わせると皿に盛ったステーキを食べ始めた。
「そういえば、メグルってたまにそれやってるわよね」
マァは自分の皿へ焼き魚を取りながら言う。
「あっ! 出ちゃったか……」
俺は頭を掻いた。
「別に責めてるわけじゃないわ。ただ、どういった意味なのかなって」
マァは不思議そうにこちらを見た。
「んー、食材に対する感謝かな」
「ふーん」
「後は食材を育てた人とか料理をしてくれた人への感謝もある」
「素敵な考え方ね」
マァはメグルを見ると頷く。
「じゃあ私も、いただきます」
マァはそう言って手を合わせると食べ始めた。
「あはは、ありがとう」
俺も食べよう。
「でも何でたまにしかやらないの?」
マァは口の中の物をちゃんと飲み込んでから話す。
「周りの誰もしてなかったからさ。なるだけ目立たないようにってね」
俺も食事を飲み込むと言う。
郷に入りてはってのもあるけど。
「そう……これからは私も一緒にやるわ」
マァは真剣な目で俺を見る。
「いいの? 目立つと思うけど」
俺はマァの顔色を確認する。
俺としては嬉しいけど、マァを巻き込んでまでやろうとは思わない。
「いいの、一人でやるよりきっと楽しいわ」
「にゃん」
「ちゅう」
ラジエルとハッズも食事の手を止めて鳴いた。
「ほら、皆もやるって」
マァの視線が一瞬俺の左手へ向く。
「私達は仲間よ? 遠慮はいらないわ」
そう言ってマァは食事を続ける。
「そっか……そうだな。うん、ありがとう」
それからはのんびりと話したり食べたりが続いた。
ラジエルやハッズの分もちゃんとその都度皿に取り分けている。
そして気付けばあれだけあった料理は綺麗になくなっていた。
俺も含めて皆十分に食事を堪能出来たみたいだ。
「では食後のデザートを」
食事も終わり、机の上に残っているのは果物のみとなった。
俺は異界から採ってきた果物を前に説明を始める。
「まずはこれだな」
俺は並んだ皿の一つに目を向ける。
《異界の赤苺》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る赤色の苺。甘くて美味しい。
《異界の白苺》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る赤色の苺。甘くて美味しい。
赤色と白色のイチゴだ。
ちなみにつまみ食いはしていない。皆と一緒に楽しみたいからな。
俺は鑑定結果や食べ方を説明すると次の果物に移る。
「そして次はこれ」
《異界の橙甜瓜》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る橙色の甜瓜。甘くて美味しい。
机の上にドンと乗った姿は贈答品でお馴染みのメロンだ。
緑色の下地に白い網目模様がびっしり入っている。
鑑定結果で『橙色の~』となっているのは恐らく中身が橙色だからだろう。
「最後にこれだ」
俺は二人の視線を受ける中、異界の門を開く。
そして上半身を突っ込むと満を持してそれを取り出した。
《異界の光菴摩羅》クラス:Ⅳ 品質:優
・異界で極稀に採取出来る光り輝く菴摩羅。香り高く非常に甘くて美味しい。供物としての側面を持ち、マリーチへ捧げる事で光の力を借り受ける事が出来る。
果物で初めてのクラスⅣだ。
見た目は丸いタイプのマンゴーっぽい。光っていて色の方はよく分からないけど赤色だと思う。
俺がこれを見つけたとき、大きな木の上の方に一個しか生っていなかった。
ラジエルが飛べるから収穫出来たけど、普通なら収穫すら難しいはずだ。
マリーチや光の力というのが何かは分からないけど、お祝いだし今回は捧げずに食べようと思う。
「凄く光ってるわね」
「にゃん」
「ちゅう」
マァ達はその輝きに目を細める。
しばらく眺めているとマァは懐から小型のナイフを取り出した。
「それは私が切り分けるわ」
俺はその実をマァに渡す。だって凄い切りたそうにしてるんだよ。
中に大きな種があるかもしれないと言うと、マァは慎重に刃を入れ始めた。
それを横目に俺は残されたメロンの方を切り分ける。ちなみに俺が使うのもマァと同じで普通のナイフだ。
「ではいただきましょう」
「ああ」
「にゃ」
俺達は切り終わると手を合わせて食べ始める。
「美味い!」
「美味しいわ!」
「にゃん!」
「ちゅうぅ!」
イチゴもメロンも美味しい。
食べた事はないけど、日本の高級フルーツよりも美味しいんじゃないか。
ラジエルの背後にも順調に宇宙が漏れ出してきている。
「最後はこれだな」
「ええ」
光菴摩羅は一口サイズに切り分けられている。
皮を剝いたのに光が収まらない。果肉自体が光っているんだ。
「じゃあ一口っと」
皆に行き渡るように取り分けられたそれを口に入れる。
「おおぉぉぉ!!!」
ねっとりとした果肉が、溢れ出る果汁が、芳醇な香りと甘みをこれでもかと俺に叩き付けてくる。
「う、美味い……」
これは今まで食べた甘い物の中で一番美味い。間違いない。
マンゴーだけどマンゴーじゃない。マンゴーの規格には収まらない美味さだ。
俺は皆の反応も見ようと周りに視線を移した。
マァとハッズは口に入れたまま固まっている。目があり得ないくらい開いているから、今は触れずにそっとしておこう。きっと至福を味わっているんだ、うん。
そんな飛んでしまった一人と一匹から目を逸らすと、果物好きなラジエルを見る。
「טעים מאוד」
その口から何かの呟きが漏れた瞬間、俺の意識は宇宙に放り出された。
万物の創造に関する情報が濁流のように流れ込んでくる。
壮大な音楽と共に謎の言語が世界に響き渡る。
目まぐるしく切り替わる歴史を歩む。
複雑な計算式も見え始めた。
全てには意味が。
「——ハッ!?」
気が付くとラジエルはマンゴーを食べ終わっていた。
こちらを不思議そうな目で見ている。
自分の手元を見ると皿にあったはずの残りのマンゴーがない。
「自分で食べた……のか?」
宇宙に飛んでからの記憶が曖昧だ。
一口目は美味しかったし、きっと気付かない内に残りも食べたんだろう。
見ればマァやハッズも食べ終わっている。
視線はどこか遠くへ行っているようだけど、きっと美味しかったに違いない。
「ごちそうさまでした……」
「ごちそうさま……」
「にゃん」
「ちゅう……」
最後に皆でごちそうさまをして、お祝いの会は幕を閉じた。




