第40話 勝利の実感
「大丈夫っ!?」
「にゃん」
「ちゅう!」
皆がこちらに近づいてくる。
「大丈夫だ……」
俺は突きの体勢から戻ると皆の方へ振り返る。
よかった、誰も怪我してないな。
「実際に見ると凄いわね」
「にゃ」
「ちゅ」
ここが壊れないダンジョンの中で助かった。
足元に目を移すと、床は入った時と同じで綺麗なままだ。
「だよな」
俺は短剣を握る手を見る。微かに震えていた。
切り札、通用してよかった。
「周りへの被害が出るのがな」
「そうね」
マァは震える手を上から優しく握ると、俺に目線を合わせた。
「ん?」
「ありがとう」
マァは笑うと手を離し、俺を抱きしめてくる。
「……ああ」
俺は二発目の水龍も効かなかった時点で、切り札を切る決断をした。
初めて草原でモンスターと対峙した時には焦って頭にもなかったスキル。
倒せると思って使ったスキルだったけど、今更恐怖が込み上げてくる。大剣が自分に迫ってくる光景が頭から離れない。
俺はマァの体温と甘い匂いにすがるように抱き返す――。
♢
俺達はしばらくそのまま抱き合っていたけど、しばらくして我に返った。
お互いに顔を赤くすると急いで離れる。
「それにしてもボス部屋では宝箱が出ないんだな」
「出る場合もあるみたいよ。今回は違ったけど」
命の危険を感じただけに報酬がないのは寂しい。
「あの大剣とかはもらえそうな感じだったけどな」
「そうね。でもメグルも私も使わないだろうし、買い取り行きだったかも」
「それもそうか」
使わなくても買い取りで報酬が増えるんだからやっぱり何か欲しかったな。
部屋の中を見渡し、何もない事を確認すると急いでボス部屋から出る事にした。
俺達は歩きながら話す。先頭はラジエルだ。
入り口への道を覚えているのかスイスイと進んでいく。
「でもこれで踏破出来たし、帰ってゆっくり休みたい」
「そうね、地図を提出して中の事も伝えたら今日はもう休みましょ」
視線の先に出口が見えた。
外から差し込む光は思ったより赤くて、時刻は夕方くらいなんだろう。
「にゃん」
「ありがとう」
「ありがとうございました」
ラジエルは止まると、こちらを振り向いて鳴く。
俺達は労いの言葉を掛けるとラジエルをスキルに戻す。
そしてまた歩き始めた。
「———!」
入り口を出ると側で待機していた斡旋所の職員が声をかけてくる。
「ええ、お疲れさま」
俺は会釈のみだ。
流石にダンジョンから手を繋いで出てくる勇気はない。
「———?」
「ええ、そんなに広くなかったわ。踏破してきたの」
「——! ――――!」
職員は目を見開いて言った。多分驚いているんだと思う。
「それで報告は斡旋所に行けばいいかしら」
「———」
職員は申し訳なさそうな顔になると言った。
「分かったわ。じゃあ」
「——! ―――」
俺はまた会釈をするとマァと一緒に歩き出す。
職員の姿が遠くになるとマァは言った。
「あの人は交代の人員が来るまであそこから動けないから、二人で斡旋所に向かって欲しいって」
なるほど、踏破したとはいえ見張りは必要か。
「話せないのもどうにかしたいな」
「勉強してみる?」
マァはそう言ってウインクをしてきた。
「いや、もう少し落ち着いてからにする」
「そう? ま、気長にいきましょうか」
俺の顔を見たマァはそう言うと手を繋いでくる。
「……今は話す相手、他にいないよ?」
「いないからいいんじゃない」
俺達は夕陽に照らされた草原の中、街へと向かって歩く。
顔の赤さは夕陽に紛れて悟られる事はなかった。
♢
ダンジョン探索から三日後、俺達は斡旋所で報酬を受け取っていた。
俺達がダンジョンを出て行った後、追加の調査員が中に入りモンスターがいない事、宝箱がない事、地図の正確性については確認が取れていた。
そして今回、ダンジョンが力を失い朽ちてきた事で正式に踏破が認められた。
「ふぅ、よかった」
「ええ、そうね」
俺達は斡旋所の入り口へ歩きながら小声で話す。
「それにしても報酬いいな」
さっきカウンターで受け取った金額を思い出して言う。
「ダンジョン関連については国からの依頼だからね。命の危険もあるし妥当だと思うわ」
「言われてみれば確かに。今回も危ない場面はあったしな」
俺はボス戦を思い出しながら呟く。
あの土鬼の大きい奴……仮に大土鬼とするが、そいつの威圧感や強さは途中で出てきた土鬼とはまるで別物だった。
「ダンジョンの難易度がどの程度かは入ってみないと分からないし、何が出るかは運の要素もあるからただ危ないだけの場合もあるわ」
今回は宝箱があり、モンスターやボス部屋もあるタイプのダンジョンだったが、中にはモンスターのみでアイテムが出ない事もあるそうだ。
「そういうのに当たっても踏破してもらえるように報酬は高めみたい」
もしダンジョン攻略が自分にとって旨味がなくても、探索して情報を持って帰ってきてもらうだけでもいい。
そうすればその情報を元に他の踏破したい人に行ってもらう事も出来る。
「発見者に優先権はあるけど、自分では駄目だと思ったら早めに引き返せばいいの」
ちなみに何度も言うがモンスターを引き連れて出るのは御法度だ。
外に職員がいるとはいえ倒せるかは分からないし、そこで更に取り逃がしたとなれば被害が広がる。
敵わないと思う前に引き返すのが長生きのコツだろう。
「あのダンジョンが踏破認定されてよかったな」
「ええ、外に出ていたモンスターは一体だけだったのね」
もしくは他のモンスターは誰かに倒されたか、だな。
「ま、どちらにしても危機は去ったって事だ」
俺達は斡旋所を出て大通りを歩く。
宿に帰ったらラジエルとハッズも改めて労おう。
「ラジエルやハッズにも伝えないとな」
「お祝いに何か用意しましょう」
ラジエルは果物が好きだ。
そして果物を食べると背後に宇宙が溢れる事がある。多分味に驚いて出るんじゃないかな。
最初はマァ達も二度見してたけど、今はもう慣れたみたいだ。
ハッズは木の実と野菜だな。
特にナッツはお気に入りみたいだ。頬をパンパンにして少しずつ食べる。
「じゃあ俺は異界に行って果物を採ってくる」
まだ食べてない珍しいやつが見つかるといいな。
出来ればまたラジエルの宇宙を溢れさせてみたい。
「なら私は料理を見繕っておくわ。持ち帰りが可能なものを中心にね」
「分かった。後で俺の手が必要なら言ってくれ」
移動が難しいものでも俺の異界なら入れてしまえば楽だからな。
誰にも見られないように料理だけ移してしまえばいいだろう。
「ええ、まずは宿に戻って報告ね」
俺達は宿に戻るとベッドでくつろいでいたラジエルとハッズに報酬の件とダンジョン踏破のお祝いをする事を伝えた。
話を聞き終えた二匹はご機嫌な様子で歩いてくるとラジエルは俺の膝の上へ、ハッズはマァの掌へ乗った。
「おお、よしよし」
ベッドに腰掛けた状態で話していた俺はそのままラジエルを撫でる。
向かい側ではマァがハッズを撫でている。
「じゃあ暗くなる前にはここに戻ってこようか」
「ええ、そうしましょう」
俺達はしばらく部屋で過ごした後、それぞれの目的地へと向かった。
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