第3話 初めての宝箱
「やっと出られた!」
通路が入り組んでいてかなり長い距離を歩いてきた気がする。
少なくとも時間の感覚が分からなくなるくらいは歩いた。
「うーん」
外は森や岩山、谷が複雑に入り組んでいる場所みたいだ。
俺達はその岩山の中の一つ、かなり高い位置から周りを見ている。
目の前は崖になっていて、下には木々に飲み込まれた遺跡のような物がいくつか。
「眺めはいいけど……これからどうすれば」
ぐぅぅ~~
「にゃん」
俺のお腹の音を聞いたラジエルが一鳴きする。
「景色を眺めてる場合じゃないな」
食事もそうだがまず水を飲みたい。
後ろを振り返ると俺が出てきた通路があった。
岩肌をくり抜いて作られた通路は少し横から見ると、周りの木や岩のせいで入り口が隠れてしまう。
「草も茂ってるし人の行き来はなさそう」
結構歩いたのにモンスターが出なかった事を考えると遺跡だったのかも。
じゃああの人骨は?
「分からないな、でも遺跡ならワンチャン近くに水場がある?」
昔の人達が住んでいた場所なら、井戸は無理でも川とか泉とかはありそう。
「にゃん」
ラジエルが俺の腕の中からふわりと浮かぶと森の方へ飛んでいく。
「へ? ちょっと待って!」
俺は後を追いかける。
ラジエルは振り返る事もなく宙をすいーっと飛んでいった。
「森の中は危ない! っていうか飛べたの!?」
幸い小走りで追いかけられるスピードだったからよかった。
足元や周囲に注意しながら森の中に入ってしまったラジエルを追う。
「にゃ」
しばらくして、ラジエルがやっと止まるとこちらを振り返った。
「はぁ、はぁっ、いきなり飛んで行ってどうした。というか飛べたんなら教えてくれよ」
腕の中に抱き寄せるとそのまま撫でる。
「にゃ」
気持ちよさそうに撫でられている……何となくはぐらかされた気分だ。
「でも何でこんな所なんかに」
周囲を見渡すと完全に森の中だ。
特に何かあるわけでもなさそう。
ドドドドドッ
遠くから微かに何かの音が聞こえる。
「ん? もしかして水の音だったり?」
「にゃん」
「ちょっと行ってみようか」
その音が聞こえる方向へ歩き始めた。
♢
「もう少しかな」
「にゃ」
水の落ちる音が大きくなってきた。
そして遂に森が途切れ、大きな滝へと辿り着く。
「よっし! 水が飲めるぞ」
俺達は滝のすぐ近くは避け、その先の川べりに降りた。
早速手を洗い、水をすくってみる。
見る限り濁ってもないし飲めそうではある。
かなり冷たいが、動き続けて火照っている今はありがたい。
横を見ればラジエルは先に口を付けていた。
「判断が早いな……俺も飲もう」
喉の渇きと空腹が同時に襲ってくる。
川の水は寄生虫が怖いらしいけど、そんな事も言っていられない。
「いただきます」
掬った水を口に持って行く。
「……美味い!」
一口飲むと身体に水が染み渡る。
冷たさもちょうどいい。
「にゃん」
ラジエルも水を飲めて嬉しそうだ。
長い尻尾がゆらゆら揺れている。
「ふぅ、これからどうしよう」
水分を一頻り味わい終わると、今度はこれからについて考える。
水は川のおかげでどうにかなった。
滝周りは水飛沫が酷くて無理だが、少し離れた場所がちょうど広場のようになっている。
慣れない山歩きをしたせいか足も少し痛いし、そこを一旦キャンプ地にしてもいいかもしれない。
「こういう時に滝の裏側なんかに洞窟とか穴があれば」
雨とか風も凌げるしとても助かる。
今の位置だと滝が邪魔で裏側が見えない。
横に回り込みつつ近づいていく。
「……ん?」
ちょっと見えにくいが、穴が開いてる?
「まさかな」
滝近くは石がゴロゴロ転がっていて滑りやすい。
腰を落として足を取られないようにしつつ慎重に近づいていった。
「にゃ」
ラジエルは俺の後ろを浮かびながらついてきている。
さっきまでは抱っこしてたのに……それって一緒に転ばないように離れてる訳じゃないよね?
そんな疑惑もありつつ、俺達は無事に穴の前へ着いた。
「これは……あの遺跡と同じ?」
天井は手を伸ばしてもギリギリ届かないくらい。
横幅は大人二人が余裕を持ってすれ違える程度。
俺達が出てきた通路に比べれば大分小さい。
ただ、石壁の作り自体は同じだし淡い光も放っている。
「にゃん」
ラジエルはふわふわ浮かびつつ中へ入っていく。
躊躇は一切なかった。
「おいおい」
ラジエルの後を追って俺も中へと入る。
「結局この場所って何なんだ」
ラジエルを先頭に俺は周りを観察しつつ進む。
そこまで広くない通路なのにあまり圧迫感がない。
「壁が光っていて暗くないからかな」
結局、ここも遺跡なのかダンジョンなのか微妙なところだ。
人が生活している感じはないから、家じゃないのは分かるけど。
「モンスターも特に出ないし……」
ラジエルもすいすい奥へと進んでいく。
順調すぎてちょっと怖くなってきた。
「やっぱり遺跡か?」
考えても答えは出ない。
今はこういう物だと思って進むしかないか。
「にゃーん」
「ん?」
つい考え事に気を取られていたらしい。
鳴き声に気付いて顔を上げると、目の前にラジエルがいた。
聞こえていた滝の音も大分小さくなってる。
結構歩いたみたいだ。
「どうした」
「にゃん」
ラジエルは通路の先を見ると鳴く。
そこは小部屋だった。
どうやらここで行き止まりらしい。
「へぇ、ここで最後なんだ……な?」
部屋の中央に何かがある。
「あれって」
壁が発する光を浴びて箱全体に施された装飾が輝いている。
ゲームやアニメでよく登場するお約束の一つ。
人生で一度は直接この目で見たいと思っていた。
「すごっ」
そこには豪華な装飾の宝箱が鎮座していた。
♢
「これは開けてもいいものか」
俺は宝箱の前で悩んでいた。
最初は罠を警戒して部屋の中にサンダルを投げ入れてみた。
特に反応もないから、警戒だけはしつつ小部屋に入る。
そして何の邪魔も入らないまま、宝箱の前に普通に辿り着いてしまった。
近くで見ても、ゲームなんかでよくある宝箱に見える。
ただ、異世界で見つけたこれが俺の知る宝箱と同じかは分からない。
似ているだけで別物の可能性もあるし……。
「あ、鑑定!」
それに気付いたのは箱を前にしばらく考えた後だった。
肩掛け鞄を開けると鑑定玉を手に取る。
「これで何か分かるはず」
目の前の宝箱らしき物を鑑定する。
《宝箱》クラス:Ⅴ 品質:優
・天然ダンジョンで稀に見つかる宝箱。ダンジョン内の全てのリソースを注ぎ込んで作られた逸品。モンスターや罠ですら質を上げるために使用されたため簡単に開ける事が出来る。
「本当に宝箱だった」
まず目の前のこれが宝箱である事が確定した。
そして今いるここが遺跡じゃなくてダンジョンなのも確定。
ダンジョンなのにモンスターが出なかったのも、罠がないのもこれに全部の力を注いだ事が原因らしい。
「ラジエルは俺の後ろに下がっててくれ」
罠はないはずだが念のためだ。
「いくぞ」
ラジエルが後ろに下がったのを確認すると、俺は宝箱に手を掛けた。
慎重に上蓋を開く。
思ったよりも軽くて、力もそんなに要らなかった。
「うぉっ!」
宝箱全体が光り輝き、解けるように消えていく。
とっさに飛び退いた俺は両腕で頭を庇いつつ様子を見る。
光はすぐに収まると、金色の鍵だけがその場に残っていた。




