第36話 それいけ!ダンジョン踏破隊
「へぇ、中はこうなってるのね」
俺達はダンジョンの通路を歩いていた。
先頭は俺の胸くらいの高さに浮かんでいるラジエルだ。次に俺、最後にマァの順だ。ハッズはマァのフードの中で待機している。
「俺もそんなに知ってる訳じゃないけど、この通路が続くんだ。壁が発光してるから明かりの心配もいらない」
俺は壁に視線を向ける。
これがあるからダンジョンだって分かりやすいんだよな。
「あの時のモンスターもここから出てきたのかしら」
「かもしれない。斡旋所の職員も焦ってたな」
斡旋所の受付で発見報告をした時、ちょっとした騒ぎになった。
以前モンスターの話をして馬鹿にされた件もあるし、確認のために職員にそのまま付いてきてもらう。
職員は二人で、ダンジョン前まで案内した後は一人が報告に戻り、もう一人は入り口を見張っている。
そしてその場で俺達は内部の調査とダンジョン踏破の依頼を受けた。
「ランクが上がっててよかったな」
「ええ、そうね」
ダンジョンに関する依頼はランク2以上に限られる。
俺達は初めて依頼を受けた日から、かなりの数の依頼をこなしている。
そして今は二人揃ってランク2に上がっていた。
「中で出たアイテムも俺達に所有権があって、要らない物は買い取ってくれるし」
「調査報酬ももらえるわよ」
中はどのくらい広いのか、どんなモンスターが出るのか。
地図を書けるならそれも提出するとその分報酬が多くもらえる。
「太っ腹だな」
「それだけダンジョン探索は大事なのよ」
職員の話ではダンジョンは最初に報告した人間に探索の優先権があるそうだ。
その人がもし期日までに踏破出来ない場合、国が発見報酬とそれまでの調査報酬を渡す。その後は国の兵士が踏破するか、斡旋所で踏破出来そうな人に依頼をする。
これがもし探索優先権がない場合、発見者が誰にも言わずに隠れて探索する可能性がある。それだと中の情報は上がってこないし、アイテムも独占されて流通しなくなる。最悪、中のモンスターが発見者を追いかけて外に出てしまう可能性もある。そうなると以前草原で襲われたように周りに被害が出かねない。
「でも報告しないやつもいるんだよな」
俺の時は知らなかったし、状況的に仕方なかった。
そんな例外を除けば、見つけ次第報告すべきなのは間違いない。
「そうね。恐らく単純に知らなかったか……後ろ暗い事があるか、ね」
ダンジョンの発見報告については有名なので知らない人の方が少ないらしい。
知っててやらないのは独占したいやつか潜伏するために利用する犯罪者くらい。
「ダンジョンではモンスターもだけど犯罪者にも気を付けないといけないのか」
「ええ、注意して進むわよ」
気を引き締めつつ慎重に進んでいく。
今のところ道は一つしかないけど、分かれ道があったりするかもしれない。
俺は短剣を抜き、マァは杖をベルトから引き抜く。
ちなみにマァの杖は腰に差しても邪魔にならない指揮棒サイズの物で、スキルを補助する効果がある。俺も一緒に選んだ品だ。ランジさんの冗談のせいで大変だったけど、機嫌が直って本当によかったよ。
「索敵はラジエルがしてくれるから、俺は前衛、マァは後衛だね」
「そうね。スキル的にもその方がいいわ。ハッズは後ろの警戒をお願い」
俺達は入ったときと同じ並びのまま進む。
「地図はどうする?」
「私が描くわ。書く物も持ってるし」
そう言って懐から紙とペンを取り出した。
少しくすんだ色の紙にアンティーク調のペン。紙は分からないけど、ペンの方は高そうだ。
「じゃあお願いするよ」
俺はそう言うと前を向く。
マァが地図を描いている間は無防備だ。
ラジエルやハッズが警戒してくれるとはいえ、俺も守らないと。
「分かれ道だ」
「そうね」
「にゃん」
「ちゅ」
しばらく歩いていると道が二つに分かれていた。
丁字路ってやつだな。
「右と左どっちに行く?」
「……左かしら?」
「にゃ」
「ちゅ」
「では右へ」
ラジエルとハッズは右と言ったんだろうな。
マァはその意見に賛成のようだ。
俺は鳴き声だけでは判断が出来ないけど、ラジエルやハッズの言葉が分かるマァが意見を変えたのだからそういう事だろう。
「右な」
俺はどちらでもいい派なのでチームの意見に従おう。
俺達は突き当たりを右に進む事にした。
「にゃ」
ラジエルが一声鳴く。
俺はその瞬間武器を構えると通路の先を見た。
「何だ?」
少し先にある曲がり角、その向こう側から微かに音が聞こえる。
ぺたり……ぺたり……
規則正しくこちらに徐々に近づいてくる音。
「足音かな」
「ええ、そうね」
俺はラジエルを下がらせると、マァにスキルで攻撃するようお願いする。
「わかったわ。人間だった場合は?」
「その時は中止で。距離を取って目的を確認しよう」
犯罪者だとは思うけど念のためだ。
ぺたり……ぺたり……
話している内に角の所まで足音が迫ってきた。
「じゃあいくよ」
「ええ」
「にゃ」
「ちゅ」
言った直後、角からヌルリとその姿が現れた。
土色の痩せた身体に腰布を纏う化け物。
黒で塗りつぶされた目玉と視線が合った俺は叫ぶ。
「モンスターだ!」
「行くわよ!」
俺はマァの声を合図に横に避ける。
すると後ろから水で出来た龍が相手に向かって飛んでいった。
相手はまだ動けていない。
バヂイィィィン!!!
「ギャガフッ!」
叫ぼうとしたモンスターはそのまま水龍に飲み込まれ壁に打ち付けられた。
「シッ!」
俺はモンスターが体勢を立て直す前に懐に飛び込むと、短剣で胸を一突きして離れる。
「ゴフォッ」
モンスターは血を吐くとそのまま前のめりに倒れた。
これで終わればいいんだけど……。
警戒したまま見ていると、モンスターはそのまま光になって消えていった。
「ふぅ」
俺は身体の緊張を解すように首を回す。
後ろから皆が近づいてきた。
「お疲れさま。いい動きだったわ」
「にゃん」
「ちゅう」
皆で俺を労ってくれる。
ラジエルとハッズのは何となくそう感じただけだけどな。間違ってはいないと思う。
「ありがとう、マァの水龍も凄かった。もちろんラジエルの索敵もハッズの後方警戒も助かった」
俺も皆の働きを労う。
「ありがとう。まだ大丈夫そうだし先に進む?」
「ああ、ラジエルもハッズもそれでいいか?」
「にゃん」
「ちゅ」
意見は皆同じらしい。
俺達はそのまま角を曲がると、先に進んでいった。




