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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ


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第34話 横柄な職員とアニマルセラピー

「あの、ちょっといいですか」


 斡旋所へ戻ってきた俺達は職員にモンスターに襲われた事を伝えた。


「モンスターぁ?」


 その職員は顔をしかめて言う。


「ええ、そうなんですよ。でも周りには何もなくて」


 俺は話を続ける。直接対峙したのは俺だったからな。


「私も見たわ。光になって消えていく所もね」


 マァも伝えてくれる。


「ダンジョンが現れた報告は受けてないけどね」


 そう言ってカウンターに肘をつきながら興味なさげにこちらを見る小太りの男。

 後ろに撫で付けた髪、こちらを見下すように細めた目。多分俺とそう変わらない年のはずだ。

 それにしても態度がずいぶん横柄だな。初めて見る職員だ。シーマさんとは違って仕事は出来なさそうだけど。


「で、結局何が言いたいわけ?」


「だから、ダンジョンが近くにあるかもしれない事とダンジョンの外にモンスターが出ていたので他にもいるかもしれない事を周知して欲しいんです」


 俺は分かりやすいように伝える。


「何でボクがそんな事をしないといけないんだ?」


 職員は鼻を鳴らしてそう言い捨てた。


「は?」


 俺は固まってしまった。コイツは何を言っているんだ?


「そもそもお前はランク1だろ、言葉のシンピョーセーがないんだよシンピョーセーが」


 馬鹿にした態度で言葉を続けてくる。


「それに何だ、モンスターを倒しただぁ?」


 職員はせせら笑うと大きな声で続ける。


「ランク1の分際で倒せるわけないだろうが!」


 その声に周りにいた人の視線がこちらに集中した。


「実際に倒したぞ。それに彼女も見てる」


 俺は今にも食って掛かりそうなマァを後ろに下がらせつつ言う。


「あはは! 嘘吐くなよ。なぁ、女の前でいい格好でもしたかったのかぁ?」

「違う。こんな事で嘘を吐いてどうする」


 目の前のこの男は俺達の証言を嘘だと決めつけているようだ。少し考えれば嘘を吐くメリットなんてない事が分かるだろうに。


「馬鹿ガキが……ん? お前どこかで見た顔だな」


 男は後ろに下がったマァの顔をじろじろ見始めた。

 俺はマァの前に立ち、その不快な視線を切る。

 その時、受付の後ろから別の職員が出てきて書類を男に渡した。


「チッ! あーはいはい、依頼達成の受理が終わったからさっさと帰れ嘘つきが」


 男は軽く書類に目を通すと言う。


「いや、報酬は?」


 俺達はまだ報酬を受け取ってない。


「あぁ、ボクとした事が……額が少なかったんで見落としてたわ」


 男はカウンターの下からトレイを取り出すと報酬額を置いた。


「お前っ……」


 俺はキレそうになる自分を何とか宥め、硬貨を掴むと足早に斡旋所を出た。マァも顔を伏せつつ手を引かれながらついてきた。

 斡旋所の裏口から外に出ると、涼しい風が頬を撫でる。


「あの野郎っ」


 俺は怒りを押さえつけ、冷静になろうとした。


「あんな人間がいるなんて……」


 マァは怒りで言葉が震えている。


「別に信じないのは勝手だけど、それをあそこまで言うか」


 俺とマァは歩きながらさっきの出来事について話す。

 今日は依頼をこなしたり、途中でモンスターに襲われたりで大変だったんだ。

 それを嘘つき呼ばわりするなんて。


「でもどうする? もし他にモンスターが出てたら……」


 せめて周りを調査するとかもしないのだろうか。


「そうね」

「他の職員も聞いてたみたいだし、どうにかならないかな」

「誰も間に入って来なかったし、期待薄ね」


 確かに。あれだけ険悪な雰囲気なら普通は誰かが来てくれるはず。

 だけどさっきは誰も間に入ろうともしなかった。


「そうだな。何か事情があるのかも」


 職員同士の力関係か、言っても聞かないから静止しないのか。

 ただ、それを差し引いても誰かが止めに来るべきだとは思う。


「そもそもダンジョンの報告はされてないって言ってたな」


 あの男の言葉が本当なら、だけどな。


「ええ、でも襲われた場所は街から近いわ。モンスターが他にもいたら犠牲者が出る可能性もある」


 俺達はああでもないこうでもないと話し合いながら街中を歩いて行く。


 ぐぅぅ~~


 その時丁度お腹が鳴った。


「……とりあえずご飯を食べるか」

「……ええ、もうお昼だものね」


 どちらのお腹の音かは本人の名誉のために伏せておくこととする。



 ラジエル、ハッズも交えて宿の部屋でご飯を食べた。

 今日は小麦色のパンに肉や葉野菜を挟んだ物だ。ちょっとピリッとした味付けで美味しい。

 ラジエルも自分用の赤い皿を机に置くと食べ始める。切り分けも自分でするし、皿の上に買ってきた物を置くだけでいいから楽だ。

 ハッズの分はラジエルが切り分けた物をあげている。ラジエルが自分からやるので俺達が切り分ける暇もない程だ。

 ハッズの体は小さいから、相応に量も少ない。毎回食事の時はハッズ用の小皿に分けている。


「ごちそうさまでした」


 俺は無意識に呟くと手を合わせていた。

 焦って皆を見回す。気付かれてはいないようだった。


「気を付けないと……」


 なるだけこちらの習慣に合わせないと。

 皆の食事が終わると、俺はベッドに座りラジエルを膝の上に乗せて撫で始めた。

 白いフサフサの短毛が手に優しい。ツルツルサラサラした撫で心地と伝わる体温、そして爽やかな落ち着く香り。


「アニマルセラピーって本当にあるんだな」


 俺は撫でながらその効果を実感している。

 今日の出来事で感じたストレスがすっと抜けていくようだ。

 視線を上げると、マァはベッドに腰掛けハッズを撫でていた。

 二人そろってまったりしながら、しばらくそのまま過ごしていた――。

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