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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ


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第30話 買い物代行と初めての手料理

「次はここね」

「ああ、ここだ」


 俺達は今、買い物に来ている。

 南門に程近いここは肉や野菜等の生鮮食品が並ぶエリアだ。

 全体が市場になっていて、そこかしこで威勢の良い声が聞こえてくる。


「はい、いらっしゃい! 必要な物は何でしょう!」


 目の前の店員も例に漏れず、俺達に声を掛けてきた。


「ええ、これとこれが欲しいの」


 マァが品物を指さしていく。


「分かった! 安くしとくよ若奥さん!」


 そう言って店員は品物を紙袋に詰めていく。


「若奥さんだって!」


 マァは嬉しそうに俺を見上げてくる。


「ああ、確かにそう見えるな」


 俺は無難な答えを返す。

 確かに手を繋ぎながら買い物をしていれば恋人か夫婦に見える。

 特にここは肉や野菜が売っているエリアだ。二人でデートをするには不向きだし、若い夫婦の買い出しだと思われたんだろう。

 俺が商品を鑑定し、マァがメモに書かれた品と照らし合わせつつ買う。

 今回も二人の共同作業によって依頼を達成する予定だ。一人でも出来るとは思うけど、マァはメモに書かれた物と売り物が同じか分からないし、俺はそもそも言葉が通じないので買い物には向いてない。

 お互いの出来る事を合わせた結果、市場で手繋ぎデートと相成ったわけだ。


「ふんふんふん」


 マァは終始ご機嫌だ。

 いつも必要な時には手を繋いでいると思うんだけど、こういう買い物をしながらは珍しいからかもしれない。

 ちなみにラジエルとハッズは今回はお留守番をしている。部屋に勝手に人が入ることはないし、部屋の掃除の時は宿側から事前に伝えられるので大丈夫だ。今頃はきっと二匹揃ってお土産を楽しみにしているはずだ。


「それにしても買う物が多い」


 俺はこの依頼を受ける経緯を思い出す。

 依頼人はこの街に昔から住んでいるおばあさんらしい。

 孫が久しぶりに帰ってくるそうで、手料理を振る舞いたいとの事。

 ただ、上手く身体が動かなくなってきているようで、荷物の多い買い出しが難しい。

 そういった事情もあって斡旋所に依頼を出したそうだ。

 今回は報酬がというよりもお手伝いが出来ればという気持ちで受けている。ハッズを見せた依頼でかなり懐は潤ってるしな。


「ねぇメグル」

「ん?」


 俺は回想から戻るとマァを見る。


「料理が作れる人ってどう思う?」

「んー、そうだな……」


 マァからの質問について考えてみる。

 俺個人の感想としては料理が出来る人は凄いと思うし尊敬する。

 俺自身料理は全然だから……。より正確に言えばする機会がなかったんだ。

 うちは両親共に家事を分担している家だったから、料理に関しても俺や妹が入る余地がなかったんだよな。学生の本分は勉強だからって。

 それでも妹なんかはお菓子作りを習ってたみたいだけど。毎年バレンタインになると手作りのチョコをもらったもんだ。


「俺はいいと思うよ」


 俺がそう答えると、マァはにんまりと笑う。


「な、何?」


 俺はその表情の意味が分からず戸惑う。


「じゃあ楽しみにしててね!」


 マァはそう言って買い物に戻った。

 その言葉の真意は結局何度訊いても教えてもらえなかった。



「ただいまー……ん? 何かいい匂いがする」

「おかえり! さあ、食べてみなさい!」


 買い出しの依頼を無事達成してから数日後、宿に帰ってきた俺はそんなマァの声に出迎えられた。


「食べてって何を?」

「これよ!」


 そう言ってマァが身体を退けると、後ろに隠れていた物が見える。

 隠されていた机の上、そこには料理が綺麗に並べられていた。

 肉料理や魚料理、野菜のサラダやナッツの盛り合わせもある。


「凄いな……でもどうやって?」


 マァに話を訊くと、前に依頼で会ったおばあさんにお願いして料理を教えてもらったとの事。


「そうか、頑張ったんだな」

「ええ、だから食べて」


 俺は促されるままに席につく。

 マァも席につき、ラジエルやハッズは机の上の定位置へ。

 俺は心の中でいただきますをしてから食べ始める。


「美味い!」

「よかったわ」


 マァは俺が食べ始めたのを見て、自分も取り分けつつ食べ始める。

 ラジエルやハッズの分は既に取り分け済みだ。こちらも食べ始めた。

 二匹とも基本食べられない物はなくて、ラジエルは魚や果物、ハッズは野菜やナッツが好きみたいだ。


「にゃ」

「ちゅ」


 どちらも食が進んでいるな。口に合ったみたいだ。


「でも何で料理を?」


 俺はある程度食べ進めた後に訊いてみた。


「それはね……私も料理が出来た方がいいかなって思ったからよ」


 マァは理由になっているのかいないのか分からない返事をした。


「まあ出来ないよりは出来た方がいいかも」


 俺は相変わらず出来ないけど。


「でしょ! 今まで知識としては知っていたのよ。でも実践した事はなかったわ」


 マァは本をよく読んでいたらしいし、その中に料理本もあったのかもしれない。


「そっか、だからおばあさんに直接教えてもらったのか」

「そうよ。私に足りないのは経験だからね」


 マァはそう言ってまた食べ始めた。

 向上心があるのはいい事だ。俺も見習わないと。



 この街に来てからは暇な時に人や物を鑑定するようにしている。それは多くの情報を得て今後に生かすためだ。その中で気付いた事がある。

 マァ以外に苗字がある人がいないんだ。もちろん出会った人全てを鑑定した訳じゃない。ランジさんやシーマさんとかはしてないしな。

 でもそれでも分かる事はある。やっぱりマァは特別な家の娘なのだろう。

 だからどうという訳でもないけど、今はただ一緒に居られる時間を大切にしたい。


「ん? どうかしたの?」


 手の止まった俺を心配そうに覗き込む彼女の為にも、な。

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