第29話 高ランカーと嫉妬
「おっ、新人か?」
ある日の事、斡旋所の椅子に座って依頼を吟味していた俺達は声を掛けられた。
声の方を見ると、入口から入ってきた厳つい男がこちらを見ている。顎髭が凄い。
「ええ、先日登録したばかりよ」
マァはそんな見た目にも物怖じせずに答えた。
「そうか、周りの視線が妙だったから気になってな」
彼は俺達に近づいてくると周囲をぐるっと見渡す。
その姿にビビったのか、こちらに向けられた不快な視線がなくなった。
「多分これが原因でしょ」
マァは俺と繋いだ手を男に見せる。
「ガハハ! 仲がいいのを妬まれたか」
彼は豪快に笑うと俺を見た。
「少年! デートはもっと雰囲気のいい場所を選んでやれ」
ここには相手のいない奴らが多いんだ。そう言って彼は腕を組む。
「ええ、気を付けます」
俺はそう言って繋がれた手を見た。
恋人ではないんだけど、端から見ればそうなるよな。
手を繋ぐ事なんて普通に生活してたらそうそうないんだから。
「どこに連れて行ってくれるのか楽しみね」
マァは楽し気に俺を見てくる。
楽しそうなのはいいんだけど、その言葉を本気にしていいのかは分からない。
「まあ、その内ね」
俺はそう言って逃げた。
「あ、ランジさん帰ってきてたんですか!」
丁度その時、斡旋所の職員が彼に声を掛けてきた。
「シーマか! 丁度今から報告をするところだったんだ」
彼はここに来た目的を思い出したのか、自分の頭を叩いて言う。
「もう、仕方ないですね。では受付まで来て下さい。私が対応しますので」
そう言って、シーマと呼ばれた女性は受付へ向かった。
「今の人は……」
この斡旋所で初めて見た。
斡旋所の制服を着てるから職員なのは間違いない。
「おう! 高ランカー対応職員のシーマだ」
ランジと呼ばれていた彼はそう言うと続ける。
「お前達がお世話になるのはまだまだ先だろうが、覚えておくといい」
じゃあな。そう言ってランジさんは受付に向かった。
「ねぇ」
マァが視界の外から声を掛けてくる。
シーマさんが来てから珍しく無言だったから、何か考えていたのかもしれない。
「ああ、どうした?」
俺はマァの方を見る。
そこには何故かジト目で俺を見るマァの姿があった。
♢
「はははっ」
「笑い事じゃないわ」
ジト目から戻ったマァが今度は頬を膨らませる。
どうやら俺がシーマさんに興味があると思ったらしい。
「俺はただ見た事ない人がいるなと思っただけだよ」
「ならいいんだけど」
確かにシーマさんは綺麗なストレートの黒髪にキリっとした目が魅力的な美人だ。印象としては仕事が出来そうな人って感じ。マァにこれを言うとまた話がややこしくなるだろうから黙っておく。
「ところで高ランカーって何だろうな」
さっきランジさんが言っていた高ランカーという言葉。
斡旋所で交付される身分証のランクは1~5までだ。
つまりどこかでラインがあって、そこから上は高ランカーと呼ばれるんだろう。
「高ランカーは4以上ね」
マァは膨らんだ頬を戻すと即答した。
これもこの世界での常識ってやつなのかな。
「そうなんだ。じゃあランジさんも4以上って事か」
高ランカー対応職員であるシーマさんが受付するという事は、つまりランジさんが高ランカーだという事。
「そうよ、壁を越えた存在ね」
「ん? どういう事?」
マァの話によると、斡旋所の依頼をこなしていくにつれてどこかでランクが頭打ちになるらしい。特にランク3からランク4へ昇格するのが大変で、そこが壁になっているようだ。人によってそれは依頼の達成率であったり、特殊な依頼を受けられるかどうかであったりする。
「つまりその壁を越えるとランク4以上になれるって事?」
俺は頭の中で情報を整理しながら言う。
「ええ、あえてランクを上げない人もいるみたいだけどそっちは少数派ね」
高ランカーになるとランク3以下の依頼が受けられなくなるそうだ。それはランク3以下の仕事を高ランカーじゃない人達から奪わない為でもある。
その代わりランク4以上の依頼料は高額で、一つ達成するだけでもしばらくは遊んで暮らせるだけの金銭が手に入るらしい。
「それと言ってなかったけど、ランクが低い人の事を馬鹿にしたりするのはご法度よ」
例えば低ランカーと本人に直接言ったり、ランク3からずっと上がれない人の事を揶揄ったりするのがそれに当たるという。
「そもそもランクはただの目安で、実力も人それぞれよ。特に登録してすぐはみんなランク1なんだから、馬鹿にする事自体おかしいわ」
「確かに」
俺達は話を終えると、また依頼について相談していく。
♢
その出来事以降、斡旋所内で煩わしい視線が向けられる事はなくなった。
ランジさんは意外と有名人なのかもしれないな。
今度お礼を言っておこうと俺は思った。




