第27話 幸運のネズミを追え!
初報酬やヌウンの水筒を得た日から数日が経った。
その中で俺用の剣帯や水筒、マァ用の杖も購入した。俺もこれで見た目は一端の現地人だ。ジャージ一つで来た日が懐かしい。
ちなみにジャージは大切に保管している。俺が地球にいた証拠であり、そして大切な繋がりだからだ。
家族は心配してるだろうな。朝起きたら俺が消えてるんだ。グレたりはしてなかったから、余計にいなくなった理由が分からないだろうし。
「ふぅ」
俺は斡旋所の掲示板の前で一つ息を吐く。
「どうしたの?」
マァが横から声を掛けてくる。
心配してくれているようだ。
「いや、何でもない」
俺はマァを見ると微笑む。
「ちょっと街に来てからを思い出してただけ」
「色々あったわね」
俺達は順調に依頼をこなし生活している。
ただ、ランク1の依頼はそこまで割のいいものがなく、収支は未だ赤字だった。
「中々よさそうな依頼がないな」
「そうね……これなんかはどう?」
そう言ってマァが示したのは一つの依頼書だ。
マァと手を繋ぎつつ内容を見てみると、ある商人が幸運のネズミを探しているらしい。
「幸運のネズミ?」
「ええ、私も読んで知っているだけで、本当にいるかは分からないけど」
マァによると、大昔に行商人が道中で白いネズミに出会った。そのネズミは大層お腹を空かせていたらしく、哀れに思った行商人は売り物の中から食料になりそうな物を分けてあげたそうだ。ネズミはその行いに大変感謝し、お礼として行商人に幸運の加護を授けたという。
出会いの後、行商人は数々の幸運に恵まれ大商人にまで上り詰めた。大商会の初代当主となった行商人はその時の恩を忘れず、後年、後継ぎである息子に行商中での出会いについてよく語って聞かせたという。以降、代々その大商会の当主はこの話を語り継ぎ、守るべき教訓として大事にしているそうだ。
「なるほどな」
俺はその話を聴いて唸る。
「その商会から本も出ているわ。物語としては面白いけど事実かどうかは分からない」
まぁ、ファンタジーな話ではあるよな。
「一部の人は大商会の箔付けをしたいだけだって」
「そういう見方も出来なくはないか……」
うちの商会には幸運の加護がありますと広めれば、あやかりたい人達は自然と集まるだろうし。
「験を担ぐのが好きな人も多いから、そう言われるのも仕方ないんだけどね」
マァはそう言ってため息を吐いた。
なるほど、だからその商人も探してるって事か。
「今回の依頼は受けるだけで報酬も出るし、成功報酬も高いわ」
「確かにな」
何かと戦う訳でもなさそうだし、受けてもいいかもしれない。
♢
俺達は依頼人の所に来ていた。
大きな屋敷の一室で向かい合って座っている。
ソファーがふかふかでどこまでも沈んでいきそうな感じだ。
「合格ですな!」
「全力を尽くすわ」
「是非頼みましたぞ」
そう言って頷く男性。俺達は依頼人の商人からの面接を受けていた。それが今しがた終わったところだ。と言っても質問は簡単なもので、今まで犯罪をした事があるかや小さい動物は好きかとかそんな内容だ。
「今まで何組か面接をしたのですが、中々良さそうな方がおられず……」
依頼人は苦笑いだ。聴けば動物は嫌いだの殺すだの物騒な人間もいたんだとか。犯罪については訊かれた瞬間に挙動不審になる者もいる始末。
「それは災難でしたわね」
白い髪に白い口髭、ぽっちゃりとしたその姿はまさに商人。苦労もしてきたことが刻まれた皺から見て取れた。
「それで、具体的にはどの辺りにいるのかしら?」
マァが引き続き依頼人と話す。今回俺はあまり口を挟まない。
こういう地位の高そうな相手はマァと違って俺は慣れていない。何か粗相をするよりはマァに交渉の全てを任せてしまった方がいい。
ただ、話の内容は理解していないといけない。だから机の下でマァの指には触れておく。
「ええ、目的のネズミは東門の先で目撃されたようで。なので君達にはその周辺を探して欲しいのです」
「意外と近場ね」
「そうですな。ここまで連れてきてもらえると嬉しいですぞ」
「分かったわ」
この後も仕事が立て込んでいるようで、依頼人は一言断ると部屋を出ていった。
俺達は待機していた使用人に連れられて外に出る。
下手したら家の中で迷子になりそうだったから、案内してもらって助かった。
「じゃあまず東門に行きましょうか」
「ああ」
俺達はそのままの足で東門へ向かった。
♢
東門の先には丈の低い草地が広がっていた。所々木が生えている。
少し先には林も見えた。
「ここか」
「ええ、まずは道沿いに見ていきましょう」
俺達は踏み固められた土の道をしばらく進んでいく。
「見晴らしもいいし探しやすいな」
「ええ、それに白色だしここだと目立ちそうね」
そんな話をしていると、突然目の前を何かが横切った。
「へ?」
俺は一瞬呆けてしまう。
慌てて視線を向けると、小さくて白い物が凄い速さで遠ざかっていくのが見えた。
「あれは!」
マァは興奮気味に叫ぶと走り出す。
「ちょっと!?」
俺はマァに置いて行かれないように走る。
すぐにマァに並ぶと、視線を先に向けた。
「あれか!」
視線の先には白い毛玉が地を飛ぶように駆けている。
俺達とは歩幅が全然違うはずなのに、それでも追いつけないくらい速い。
「どうするっ」
「とにかく追いかけるわよっ」
俺達は引き離されない様にしばらく走り続けた。




