第26話 始まりの泉と水筒の変化
明けましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
《始まりの泉》クラス:Ⅴ 品質:優
・原初の泉。聖星水を生み出す。移動・破壊不可。
「はぁ!?」
目の前のこれは水溜まりじゃなくて泉らしい。
あの光る岩と同じクラスで、こちらは聖星水を生み出すようだ。
それに《異界の~》も付いていない。
俺は水自体を鑑定しようと意識を集中する。
《聖星水》クラス:Ⅴ 品質:優
・原初の泉を構成する水。聖星水は原初の水であり、ただそこに在るもの。触れた者の意志により自在に変化し、その姿は定まる事がない。
「何だこれ」
説明文が抽象的すぎる。触らないとどう変化するのか分からない。
「うーん」
直接触れるのは躊躇われる。墨汁に似た真っ黒な水は身体にも悪そうだ。
トプン
俺は近くに落ちていた枝を拾うと泉に浸してみた。
しばらくして引き上げてみる。枝にも水にも特に変化はなかった。
「触ろう」
枝に付いた聖星水に恐る恐る触れてみる。
それでも変化は見られない。
「えっと……おお!?」
試しに聖水を思い浮かべてみると、すぐに色が透明に変化して僅かに発光し始めた。
触れていた指を離すと鑑定する。
《聖水》クラス:Ⅴ 品質:優
・原初の水より作られた聖水。触れたものを浄化し、服用した者を復活させる。
「おいおい」
クラスⅤの聖水って……クラスⅣの聖なる岩清水よりクラスも効果も上じゃないか。
「これは聖星水の検証が必要だな」
俺はグルーミングを始めたラジエルを横目に、しばらく聖星水の変化について調べる事にした。
♢
「……」
俺は混乱していた。
そのあまりの節操のなさに。
「どうするよコレ」
甘い匂いのする枝を置きながら考える。
多分、液体であれば何にでも変化するんだと思う。
足元に並べたいくつかの枝を見るとため息が出た。
「ふぅ」
真水や塩水、聖水や毒水、血液や樹液に至るまで。鑑定すれば自分がこうなれと思った液体に変化していた。
それは冗談で思い浮かべたミルクセーキやミックスジュースでも結果は同じ。異世界に存在しない液体のはずなのに。
「怖っ!」
毒液の付いた枝を聖水の付いた枝で浄化しつつ、聖星水の今後を考える。他の枝は放置でいい。
「これヤバいわ」
何事も行き過ぎはよくない。
そもそもマァの水筒に入れる候補を探していただけなのに。
「マァが喜びそうなのはこの辺り」
《異界の聖なる岩清水》、《聖星水》、《聖水》の三つ。
「岩清水がクラスⅣで他二つはⅤか」
クラスはより高い方がいいと思う。
ただ……引かれそうな気もするんだよな。
「うーん、どうする?」
「にゃん」
途方に暮れる俺をラジエルが気遣わし気に見上げていた――。
♢
「ただいまー」
「にゃん」
俺達は帰ってきた。
水筒の中身は充填済みだ。
「おかえりなさい」
マァが笑顔で迎えてくれる。
ムフフな事故は当然起きていない。
門から出る前にラジエルに確認してもらったからな。
「で、どうだったのかしら?」
マァは期待するような目で俺を見てくる。
「はい、これ」
腰に取り付けていた水筒を慎重に外し、そっとマァに手渡す。
緊張で手が震えてしまったのは気のせいだ。
「ありがとう! 楽しみにしてたのよね」
マァは声のトーンを一つ上げると、水筒を眺め始める。
「やっぱり見た目も素晴らしいわ。前よりも色合いも彫刻も美しい……し?」
どうやら異変に気付いたらしい。
食い入るように水筒を見つめている。
「ねぇ」
「う、うん」
「私、説明が必要だと思うの」
「そうだよね」
こちらに戻る前に鑑定はしたが、念のためにもう一度鑑定する。
《ヌウンの水筒》クラス:Ⅴ 品質:優
・水の力が宿る石で作られた水筒。スキル名に水が入る者のみが装備可能。破壊不可。【液体生成】を発動出来る。
【液体生成】クラス:Ⅴ
・装備スキル。スキル発動を願い水筒の蓋に触れる事で、容器内に聖星水を生み出す。
結局、中には聖星水を入れてきた。
正直かなり悩んだが、同じクラスⅤなら聖水より応用が利きそうな聖星水の方がいいと判断した。コップで注いだ直後、見た目と共に名前が空の水筒からヌウンの水筒へ、クラスがどちらもⅣからⅤへ変わっている。
装備のクラスが変化したのには俺も驚いた。あくまで予想でしかないが、中に入れた聖星水のクラスの方が高かった結果、本体である水筒のクラスが引き上げられた可能性がある。
見た目の変化としては彫刻がより細かく豪華になったのと、蓋の色が乳白色から艶のない黒色になっている点が挙げられる。筒の乳白色と相まって、ツートンカラーで中々お洒落だと思う。
口ではつらつらと経緯を説明しつつ、ラジエルを撫でる手が止まらない。
「ふぅーん」
マァが俺の説明を一通り聞き終えると、また水筒を眺め始める。
「ど、どうかな? 聖水にもなるし」
あれだけ聖水に食いついていたマァだ。
聖星水は聖水にも変化する。
見た目や中身は違うが、マァの要望にはかなっているはずだ。
「んにゃ」
変な汗が止まらない俺はラジエルの声にハッとする。
焦りすぎて撫でる手が雑になっていたようだ。
「ごめん」
サラサラした白毛を優しく撫でる。
ラジエルはそれ以上鳴く事はせず、再びスヤスヤと眠り始めた。
じんわりと手から伝わる体温に徐々に落ち着きが戻ってくる。
「いいわ!」
無音の時間が過ぎ去った後、マァがいきなり声を上げた。
驚いた俺は身体をビクつかせてしまう。
「聖星水は初耳だけれど、どんな液体にも変わるって最高じゃない!」
水筒を捧げ持つとマァは続ける。
どうやら喜んでいるようだ。
「だ、だよね」
「しかもクラスⅤになって戻ってくるだなんてっ」
入れた中身でクラスが変わるなら、クラスⅣならそのまま、ただの水ならクラスは下がっていたかもしれない。
じゃあ聖水のクラスⅤを入れればと思わないでもなかったが、聖星水の誘惑には抗えなかった。
「ありがたく使わせてもらうわ!」
マァは腕を下ろすと、腰のベルトに水筒を付け始める。
「どうにかなった……か」
胸を撫で下ろすと俺はそっと呟いた。
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