第25話 少年は森へ水汲みに
「ここに来るのも久しぶりな気がする」
「にゃん」
俺とラジエルは異界の丘から目的地の方を眺めている。
あの岩はかなり大きかったが、木々に隠れてここからは見えない。
「うーん」
伸びをしつつ清々しい空気を胸いっぱいに吸い込む。
異界には俺達以外は入れないから、周りを気にする必要もない。
その時、足が何かに触れた。
「装備品もどうにかしないとな」
足元には木箱が置いてある。
中には装備品が買った状態のまま入れてあった。
俺達に反応しなかった装備品はボロボロだ。
せめて汚れくらいはと拭いてみても全然落ちない。
「せめて適性が分かればなぁ」
鑑定しても不明だから用途や材質で予想するしかない。
「とりあえず今日は聖水を汲みに行かないと」
「にゃ」
こっちの探索もしないといけないし、もう少し時間に余裕が出来たら考えよう。
俺は木箱から視線を外すと鞄の中の鑑定玉を触る。
星渡 巡
年齢:18歳
種族:異世界人
職業:旅人
SP:100/100
MP:0
固有スキル:【まどう図書館(貸出中)】
通常スキル:【気配遮断】【短剣術】
装備スキル:【鑑定】【一界一城の主】【星虹の一撃】【剣状変化】
俺のスキル欄に【液体生成】は載っていない。
例の水筒を腰のベルトに吊り下げているのに、だ。
あくまでも持ち運べるというだけで装備している状態ではないらしい。
《空の水筒》クラス:Ⅳ 品質:優
・水の力が宿る石で作られた水筒。スキル名に水が入る者のみが装備可能。破壊不可。【液体生成】を発動出来る。
【液体生成】クラス:Ⅳ
・装備スキル。スキル発動を願い水筒の蓋に触れる事で、最初に入れた液体を容器内に再び生み出す。
水筒を改めて鑑定する。
蓋を開けられるかは一応持ってくる前に試した。
この水筒は蓋を捻って外すタイプだ。
しかもその蓋はコップにもなるから便利。
「俺も水筒買おうかな」
剣帯も必要だし、買い物にはまた行かないといけない。
それに異界に水があるとはいえ、飲むのに時間が掛かりすぎる。
「そういえば丘以外で門を開けてないな」
もし別の場所でも開けるなら、かなり時間を短縮出来るかもしれない。
ここの荷物は移動させればいいし。
「ちょっと歩くか」
俺は丘から下り始める。
ラジエルも地面から浮き上がると後ろからついてきた。
「うん、ここら辺でいいな」
丘から森の方へ入ってすぐの場所。
ここで試してみよう。
「開門!」
手を目の前に突き出し、門を開くことを意識する。
しばらく待つが、俺の手に鍵は現れない。
「これは……」
丘からの距離を変えつつ、どこで門が開けるかを確かめていく。
何度も試す内にある法則が見えてきた。
「丘の上じゃないと無理か」
木箱の付近まで戻った俺は考える。
マァに報告すべきかどうか。
「報告だな」
俺は門を開くと、首だけを入れた。
「あ……」
「キャッ!」
部屋には薄着のマァがいた。
右手に布を持ったままこちらを見ている。
「ごめん」
すぐに引っ込むと門を閉める。
そして頭を抱えた。
「最悪だっ!」
多分身体を拭こうとしてたんだ。
衝立がなかったのは俺がしばらく帰らないと思ったからか。
ダラダラ出てくる変な汗と動悸が止まらない。
「にゃん」
ラジエルがふよふよと寄ってくると俺の肩に前足を置いた。
どうやら慰めてくれるらしい。
「うぅ、ありがとう」
しばらくラジエルを撫でていると、動悸も少しずつ落ち着いてきた。
いつまでもこのままではいけない。
今度は目を瞑って門を潜る。
「目を開けても大丈夫?」
「……ええ」
ゆっくり目を開けると、腕を組んだ仁王立ちのマァがいた。
もちろん既に着替えている。
「ごめん、ちょっと報告があって」
「ええ、そうみたいね」
声のトーンは普通だ。
ただ、その姿からはとんでもない圧が放たれている。
俺は言葉が続かない。
「……はぁ、別にいいのよ。私だって衝立を使ってなかったし」
「本当にごめん」
頭を下げる。
今はこれしか出来ない。
「お互い不注意だったって事で手打ちにしましょ。不幸な事故だったのよ」
「そう言ってもらえると助かります」
「た・だ・し! 今後そういう目的でやったら許さないから」
「もちろんやりません!」
指を突き付けてきたマァの頬が少しずつ赤くなる。
やっぱり恥ずかしかったんだな。
「ごめんね」
再び頭を下げて謝罪する。
「もういいわ、それで報告って何かしら?」
「えっと、実は――」
どうにか頭を切り替えて、まずは検証して分かった門の仕様について説明する。
そして想定よりも戻るのに時間が掛かる事も。
聴き終えたマァは頷いた。
「分かったわ」
マァは顎に手を当てて何かを考えている。
「今日の予定は変更しましょう」
「分かった」
「私は私で動く事にするわ」
報告を終えるとすぐに異界へ戻る。
ラジエルはその間、異界で大人しく待っていてくれた。
「ごめん、待たせた」
「にゃん」
そういえば、門が閉じてもラジエルが消えないのは初めて知ったな。
今まで移動するときは一緒に潜っていたから気付かなかった。
「今後は出入りに注意しよう」
「にゃ」
最後に忘れ物がない事を確認して丘を出発する。
目指すは聖水だ。
♢
「やっぱりでかいなー」
俺とラジエルは薄らと光る大岩を見上げている。
横幅は俺が両手を広げた何人分もあって、周囲に転がる岩の中で一番大きい。
「場所も厳選しないとな」
鑑定玉を手に取ると、聖水を汲む場所を鑑定する。
《異界の聖なる岩》クラス:Ⅴ 品質:優
・異界に存在する神聖な岩。聖水を創り出し周囲の環境を浄化する。移動・破壊不可。
《異界の聖なる岩清水》クラス:Ⅳ 品質:優
・異界に存在する聖なる岩から流れ出した聖水。触れたものを浄化し、服用した者の傷病を癒やす。
内容は特に変わりはない。
周囲を見て回りながら他に何かないか確認していく。
前回はたまたま光る岩を見かけて水分補給をしただけで、周りの探索はしていなかった。
「んー」
足場の苔や濡れた地面で転ばないように気を付ける。
生き物はやっぱり見当たらない。
景色は綺麗なのにちょっと寂しい。
「沢ガニの一匹でもいれば……」
あれカラーパターンが結構あるんだよ。
オレンジとか紫とか。
「懐かしいな」
友達とよく競って捕まえてた。
基準は色々あって、大きさやハサミの格好よさ、色の珍しさなんかも……。
「カニはいいんだカニは。今回は聖水」
友達との思い出を胸にしまうと、特別な聖水を探す。
「レアな聖水とかないかなー」
呟きつつ歩き回る。
聖水は岩から流れ出ているから、まず岩を鑑定している。
説明はあの淡く光っている岩と同じ。
ただ、周りの岩のクラスはⅣだった。
「そして聖水はクラスⅢ、か」
岩のクラスによって流れ出す聖水のクラスも違う。
流れ落ちた聖水はそのまま地面に吸収されている。
この聖水は最後どこへ行くんだろう。
「海かな」
そういえば海水を鑑定してなかった。
次に行く事があれば見てみよう。
「それにしても……」
クラスⅣ以上の聖水が見つからない。
これは空振りだったかな。
「なあラジエル」
さっきからラジエルが静かだ。
横を見ると浮いていたラジエルの姿がない。
「ラジエルー」
大声で呼んでみたが返事はない。
一体どこに行ったんだ?
「ラジエルー」
場所を移動しつつ呼ぶ。
「にゃー」
すると遠くから微かに鳴き声が聞こえた。
「そっちか」
聞こえた方角へ歩いて行く。
聖水の場所からはどんどん遠ざかってしまう。
「どこまで行ったんだ?」
足元に注意しつつ進む。
木や草が多くて歩きづらい。
「ん?」
しばらく歩くと突然目の前が開けた。
そこは小さな広場のようで、黒い水溜まりが見える。
その水溜まりの側にラジエルはいた。
「やっと見つけた」
「にゃ」
俺は近寄るとラジエルを抱き上げる。
逃げる様子はない。
「それにしてもここって」
森の中に突然現れた謎の広場。
周りは丈の短い草しか生えていない。
俺はまず足元の黒い水溜まりを鑑定した。
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