第24話 初依頼
翌日、俺達は斡旋所へ行き掲示板を見ていた。
ラジエルは宿を出る時に一旦スキルに戻している。
「これなんかどうかしら」
「お、いいかもな」
文字を読むために今日もマァと手を繋いでいる。
最初はマァに依頼内容を訳してもらう事も考えた。
ただ周りに人がいる中で話すのは迷惑だし時間もかかる。
「じゃあこっちはどう?」
「うーん、それは……」
昨日だって手を繋いでいた訳で、俺が照れくさい事を除けばありがたい。
「ん?」
どこからか嫌な視線を感じる。
服装は既に店で買った物に着替えている。
注目を集める理由はないはずだ。
「こっちか」
視界の端で確認すると、俺達と同年代か少し上くらいの男達がいた。
そいつらが俺を睨んでいる。
「はぁ」
「どうしたの……ああ、あれね」
「気に入らないなら無視すればいいのにな」
「そうね。変な人はどこにでもいるものよ」
マァはそう言って笑う。
その瞬間、俺への視線がさらに強まった。
ああそういう……勘弁してくれよ。
「依頼はこれにしよう」
「ええ、早く受付に行きましょうか」
初めて来た時は身分証の発行をしただけで、周りの目を気にする余裕がなかった。
もしかしたら気付いていなかっただけで、同じように睨まれていたのかもしれない。
「これをお願い」
受付に着くとマァが依頼書を職員に渡した。
「分かりました。お二人で受けるという事でよろしいですか?」
職員は内容に目を走らせた後、俺達を見て言う。
「ええ、そうよ」
マァが答えた
俺は頷く。
「分かりました。では身分証の提示をお願いします」
俺達は身分証をカウンターに置く。
身分証はカード型の金属で出来ていて、表面にランク、名前、年齢、スキルの順で彫られている。
「少々お待ち下さい」
職員が身分証と依頼書を見比べ始める。
ちなみにランクが一番上で一番大きく彫られている。
マァ曰く、これはランクがそれだけ重要だからだそうだ。
ランク毎にそれぞれ受けられる依頼が違っていて、ランクの高い依頼の方が基本的に報酬も高いらしい。
依頼を確実にこなしてランクを上げるのが当面の目標になりそうだ。
「ありがとうございます。いくつか注意事項をお伝えした後、受理の手続きを致します」
職員は俺達に身分証を返すと説明を始める。
俺達は聞き逃さないよう話に耳を傾けた。
♢
斡旋所を出た俺達は大通りを西門に向かって歩く。
昨日店を回った事で、ある程度地理は把握出来た。
この街は東西南北にそれぞれ門があって、十字に大きな通りが走っている。
中心は広場になっていて、その近くに斡旋所が建っている。
ちなみに俺達がこの街に来る時に入ってきたのは北門で、これから行くのは西門のさらに先だ。
「目的の物は草原にある、か」
俺は依頼内容を思い出しながら呟く。
とある薬草の採取依頼だ。
「えぇ、依頼書にはそう書かれていたわね」
隣を歩くマァは俺の呟きに答える。
「場所も近いし自分で採らないのかな」
「そうね……依頼者が時間を割けないとかかしら」
「なるほど」
忙しい自分の代わりにお願いって事か。
「街道からも近くて安全よ」
「討伐依頼より断然こっちだよな」
ランク1で受けられる討伐依頼は上のランクに比べて報酬が低い。
その割に拘束時間は長いし、怪我の可能性もある。
討伐依頼以外も報酬が低いけど、この採取の依頼はその中でも珍しく報酬がよかった。
「ああ、そういう事か」
西門を出て少し歩くと草原にたどり着いた。
視線の遙か先まで緑色。
草は膝丈以上はある。
「ええ、依頼した理由が分かった気がするわ」
探す範囲が広すぎる。
それに薬草があっても他の草に埋もれて見逃しそうだ。
「とりあえず探してみよう」
俺達は二手に分かれて探し始める。
あまり離れないように気を付ける。
「違う。これも違うし……」
探しているのはアルワーディと呼ばれる花だ。
見た目は鈴蘭っぽいけど色は白じゃなくて青色。
主に熱冷ましに使われる薬草らしい。
「花は結構あるんだけどなー」
タンポポやスミレに似た花もあったけど、お目当ての物ではないのでスルーしていく。
「おっ、これじゃないか?」
しばらく地面を探していると、それっぽい花を見つけた。
青い鈴生りの花が草原に吹く風に微かに揺れている。
「待てよ、まだ決めるのは早い」
アルワーディに似た別の毒草も近くに生えているらしい。
葉の形で見分けるそうで、アルワーディは菱形で角部分が丸っこい。
毒草の方は細長く笹の葉っぽい見た目だ。
「葉っぱは……菱形だな」
根元を掻き分け確認すると、アルワーディと同じ特徴の葉が見えた。
「よし、一つ確保だ」
根元を掴むと慎重に引き抜いた。
受付での説明によれば薬には根も必要らしい。
「こうしてっと」
根の土を手で軽く落とすと、腰に着けた布袋に入れた。
今日の服装もそうだが、装備は一通り店で揃えた。
ただマァは杖、俺は剣帯を追加で買わないといけない。
星辰の短剣はズボンのベルト部分に無理矢理差している。
「マァはどうかな」
立ち上がって見ると、少し離れた場所でマァは根の土を払っている。
そのまま袋に入れているし、順調にアルワーディを見つけているようだ。
「俺も頑張らないと」
ちゃんと稼いでマァのヒモ状態からは抜け出したい。
決意を新たにした俺はその後も採取を続けた。
♢
「結構集まったなぁ」
「ええ、依頼達成には十分な量ね」
しばらく採取を続け、ある程度集まると成果を見せ合った。
お互いに順調に採取出来たみたいで、合わせると依頼された量よりも多い。
「今回は追加報酬も出るわ」
このアルワーディという植物を使った薬は結構需要があるらしい。
多ければその分上乗せで報酬がもらえる。
「よし、そろそろ戻ろう」
「ええ、戻りましょう」
俺達は草原を出ると土が踏み固められた道を歩き出す。
「それにしても、しゃがんだり立ったりで少し疲れたな」
「そうね。ランクが低い内は単純作業というか、そういった依頼が多いみたい」
登録したてだし、失敗しても問題ない依頼を振ってるんだと思う。
「依頼をこなしていけばランクも上がって報酬も多くなるわ」
「そうだよな」
「その分危険だったり、経験が必要なものも増えるでしょうけど」
わざわざ依頼を出すのにはそれなりの理由がある。
今回はそれを学べた。
今後に生かしていけるよう忘れないようにしよう。
♢
斡旋所の裏に納品専門の入口があった。
扉を開けると中は広い倉庫になっている。
俺達は手前にある受付へ向かった。
「納品でしょうか?」
受付で男性に話しかけられる。
「ええ、アルワーディの納品依頼を受けたの」
マァはそう言って、アルワーディの入った袋を渡した。
「お預かりします。身分証をよろしいですか?」
俺達は身分証を見せる。
「ありがとうございます。少々お待ちください」
職員はそう言って後ろに下がる。
しばらく待っていると確認が取れたのか職員が戻ってくる。
「お待たせしました。納品も問題ありませんでした」
職員はそう言って、受付の下からお金を出すとトレイに載せた。
「こちらが依頼達成の基本報酬と依頼量を超えた分に対する追加報酬になります」
俺達は報酬を受け取ると斡旋所を出た。
時間は昼くらいか。
「お昼はどうする?」
「そうねぇ、あっちの屋台はどうかしら」
異世界で初めて稼いだお金だ。
美味しそうなやつを選んで宿へ戻ろう。
ちゃんとラジエルにも味わってもらわないとな。




