第23話 写し身の鞘
「とりあえず後で聖水は採ってくるから、俺も装備してみていい?」
聖水の話ですっかり確認が止まっていた。
俺も装備が変化するか試したい。
「そうね、興奮しすぎたわ。ごめんなさい」
マァは俺から離れるとそのまま見守る。
「じゃあ装備するよ」
俺は残った装備を一つ一つ確認していく。
今までの傾向を考えると、獣皮の剣帯と卵殻の鞘辺りが変化しそうだ。
多分、剣に関する条件だと思うし。
「剣帯は……ダメか」
装備してみたが変化しない。
条件を満たしていないようだ。
次に鞘を手に取る。
「おっ!」
それを装備した瞬間、鞘全体が淡く光りだした。
光が収まると目の前に真っ白な鞘が現れる。
「おお……」
僅かに光沢のある白い鞘だ。
傷一つなくとても美しい。
「でもちょっと長いか」
見比べてみると俺の持つ短剣より大分長い。
鑑定。
《写し身の鞘》クラス:Ⅳ 品質:優
・月の力が宿る卵殻で作られた鞘。スキル名に剣が入る者のみが装備可能。破壊不可。【剣状変化】を発動出来る。
【剣状変化】クラス:Ⅳ
・装備スキル。鞘に差し入れた剣の形に合うよう変化し、剣を常に最善の状態に保つ。一度変化した形状は装備をしていなくても元には戻らない。
「へぇ」
これは当たりだな。
形が変化するって事は俺の短剣にも合うって事だ。
鞘を新しく作らなくて済むし、剣を最善の状態に保つ効果もある。
「この鞘って何なの?」
「にゃん」
俺は鑑定内容をそのまま伝える。
「これもクラスⅣなのね……」
マァは考え込む。
「にゃ」
ラジエルは再び俺の膝で寝始めた。
効果を知れて満足したんだろう。
「凄いよな」
クラスも低いし品質も悪いけど、条件を満たせばレアな装備に変化する。
そんな覚醒するダンジョン装備も中には存在するんだ。
「そうね、他の装備も売らずに取っておきましょ。いつか変化するかもしれないわ」
俺は頷き、異界の門を小さく開くと残った装備を入れていく。
異界の門はこうして大きさを調節すればアイテムボックスにもなって便利だ。
出る先は丘で固定だから、そこに木箱を置いておけば後で整理するだけでいい。
「これで終わりっと」
最後に短剣を掴むと鞘に差し入れる。
「おお!」
鞘は徐々に形を変え、短剣に合う大きさになって止まった。
短剣を抜いてみても鞘はもう変化しない。
鑑定にあった通りだな。
「へぇ、こういう風に変化するのね」
マァは鞘を眺める。
「ちょうど鞘も必要だったし助かった」
星辰の短剣。
磨き上げられた青白い剣身に俺の冴えない顔がはっきり映っている。
金色の柄は細かく彫刻が施されていて凄く豪華だ。
「この鞘のおかげで抜き身は卒業だな」
もし鞘を作るために預けた店で鑑定されたらクラスがバレてしまう。
マァによればクラスⅤは国に通報される可能性があるみたいだからな。
なるだけ人に見せないに限る。
「これでよし」
俺はそっと短剣を鞘に戻す。
「剣帯は後で探そう……」
どこかによさそうな物があれば買おう。
出来れば依頼を終えた後がいい。
「明日はどうする?」
「そうねぇ……」
マァは椅子に腰掛けると考え始めた。
「斡旋所に行って依頼を確認するのはどうかな?」
案を出してみる。
今日で大体の店は回ったしな。
「そうしましょうか」
マァは俺の案に頷く。
「最後に確認だけど、変化したダンジョン装備に関しては売らないんだよな?」
買い物の途中、売れそうな物があれば売ろうという話もしていた。
お金はいくらあってもいい。
「そうね。それに売るならもっと低いクラスじゃないとダメよ」
今回はどちらもクラスⅣだった。
「星辰の短剣だったわね? それがクラスⅤである事をきちんと考慮すべきだったわ」
覚醒には条件があるとはいえ、正直クラスの方はピンキリだと思っていた。
星辰の短剣の時はたまたま高かっただけだと。
しかし実際は三つとも高クラスだった訳で。
「クラスⅡとかⅢのやつがあれば……」
「贅沢な悩みね」
そもそも装備の覚醒する条件が俺達の適性にあるのなら、覚醒後は俺達に合った装備になる可能性が高い。
つまり、基本的に売らずに装備として活用する事になる。
例外はもっと高クラスの同系統の装備が出た時だけだろう。
そう考えると、クラスの低いダンジョン装備を売る日は当分来ないのかもしれない。
「とにかく明日は斡旋所へ行って、それから聖水ね」
マァは確認するように俺を見た。
忘れてなかったか。
「ちょっと時間かかるけど……」
「ええ、お願い」
「分かった。水筒借りてもいい?」
マァは腰から慎重に水筒を外すと俺に差し出した。
俺は自分の短剣を机の上へ置くと、その水筒を受け取る。
「よっと」
その場で異界の門を開き、水筒を持った腕を中に差し入れた。
異界へ持ち込めるかの確認だ。
「問題なし」
特に弾かれたりはしない。
俺が持っている状態なら人の物でも所有する物品に入るのか。
「?」
「ああ、異界の中には自分の物しか入れられないからさ」
水筒が入るかどうか試した事を伝える。
これはもうマァの物だから念のため。
「なるほどねぇ」
「ありがとう、返すよ」
「……いいの?」
「今すぐ行く訳じゃないから」
気付けばもう夕方だ。
マァは両手で大事そうに水筒を受け取ると腰に付けなおす。
何度か調整し、ポジションが決まったのか口元がニヤつく。
俺は目を逸らすと机の上を見た。
「剣帯……買わないとな」
マァに聞こえないように呟くと、しばらく短剣を眺めていた――。




