第21話 マァの追撃と星の祝福
「で、他には何もないのよね?」
マァは真剣な表情から一転、笑顔で俺に迫った。
「いや、それは」
たくさんあります。
今手に入れた短剣もだし異界もそう。
固有スキルの事とか……そもそも俺自体が異世界転移してきた人間だし。
ラジエルについては様付けしてるから、何か直接聞いてそうではあるけど。
「話してくれるわよね?」
「……はい」
拝啓、お父様お母様妹様。
息子は異世界で元気にやっています。
転移してから三日目、とりあえずこれから詰められるようです――。
♢
「なるほどね」
マァは一言呟くと固まってしまった。
あれから俺達は一度宿に戻り、ある程度装備やスキルについて話すことになった。ある程度と付くのは【まどう図書館】については話してないのと、【一界一城の主】については鑑定上の効果しか伝えてないからだ。
固有スキルである【まどう図書館】を説明するには異世界転移について説明する必要が出てくる。既にMPは使い切ったし、次にいつ新しい本を手に入れられるかも分からない現状、マァに説明した猫を召喚するスキル以上の効果はない。
俺やマァにとってデリケートな部分であるお互いの身元についても踏み込んでないし、話すとしてももっと先の方がいい。
【一界一城の主】については島の探索も終わってないし、話す内容が多すぎて全部を伝えるには時間が足りない。こっちはざっくりとした説明だけでもヤバさが伝わるはずだ。
「クラスⅤの装備を持ってるのね、しかも三つも」
「そして一つは異界を創り出すタイプ、と」
マァは俺の説明を整理しつつ確認してくる。
「……」
俺は無言で頷く。
「ちなみにその異界はどの程度の広さなのかしら?」
「正直まだ把握出来てない。海の先がどこまであるのかも分からないし……。今は島の中を見て回ってる段階でさ」
ベッドの端に座り、膝上で丸くなっているラジエルを撫でる。
柔らかい白毛が手に優しい。
マァは俺と向かい合うように、自分のベッドに座るとこちらを見る。
「他に同じようなスキルを持ってる人は?」
気になったので訊いてみた。
何かスキルを使っていく上で参考になるかもしれない。
「そうねぇ、空間という意味でなら空間収納スキルかしら」
「空間収納……」
「昔の話だけど、本人曰くかなり便利だったらしいわ」
「へぇ」
なんでも過去の偉人がそのスキルを持っていたらしい。
「でも荷物を入れておけるだけで人が入ったりは出来ないし、そこまで広くもないはずよ。本で読んだ限りはね」
「じゃあ俺のスキルの方が凄い?」
「凄いどころじゃないわよ」
もし【一界一城の主】の存在が世間にバレたら大騒ぎ。
最悪の場合誘拐される可能性もあるという。
「やっぱり隠さないとダメか」
俺は肩を落とす。
何となく分かっていた事ではある。
そもそも鑑定玉の時点でアウトだったしな。
「それは当然よ。鑑定玉、短剣、そして異界創造。全部クラスⅤじゃないの。効果はそれぞれ違うけれど、普通に生きたいならどれも人に知られてはダメよ」
「だよなぁ」
「それに私、今までクラスⅣまでしか見た事がなかったのよ。クラスⅤなんて全部物語で出てくるようなクラスなのよ?」
「そうなの?」
「そうなの!」
マァは即座に返してきた。
世界は広いし、探せばありそうなもんだけど……。
「分かってないわねぇ」
それからマァはいかに俺が世間知らずなのかを懇切丁寧に説いてくれた。
クラスⅤは過去の英雄や偉人が持っていたスキルやアイテムであり、特にアイテムに関してはほとんどが英雄の死後、悪用されないよう各国が厳重に保管しているらしい。
「物によっては一般公開される事もあるけど、普通は見る事も出来ないわ」
「そうなんだ」
「にゃ」
ラジエルの頭を撫でながら話を整理していく。
……うん、要は他人に知られなければいいんだ。
「鑑定玉のクラスⅣってどこまで見えるのかな」
斡旋所のクラスⅢでは通常スキル名は表示されたがその内容までは見れない。
俺の持つクラスⅤは固有スキルや通常スキル、装備スキルまで表示されるし効果も全部見れる。
じゃあクラスⅣは?
「クラスⅣは通常スキルと装備スキル、そしてそのクラスと消費SPが見えるわ」
「そっか……じゃあクラスⅣの鑑定玉には注意しないとな」
他人に装備のクラスが見られるのは問題だ。
言いふらされたり、奪うために襲われるかもしれない。
「心配しなくても大丈夫よ。クラスⅣの鑑定玉の数は少ないの」
マァがいた国でもそうだけど、他の国でも首都の重要施設にしか置かれていないらしい。
「へぇ、よく知ってるな」
「私も一度だけクラスⅣの鑑定を受けたことがあるの。その時に聞いてみたのよ」
星の祝福を授かった十歳の時に国の首都までわざわざ行ったそうだ。
「星の祝福?」
新しい単語が出てきた。
何かのイベント?
「そんな事も知らないの? 星の祝福っていうのはね……」
マァが色々話してくれたが、要約すると十歳頃に起こるスキル獲得イベントの事らしい。
星の声と呼ばれるものが聞こえた後に何らかのスキルが授けられる。
それが星の祝福と呼ばれ、人生においての一大イベントなんだと。
「なるほど」
俺にも覚えがある。
ラジエルを解放した時や通常スキルを得た時。
あの時頭の中に響いた声が、マァの言う星の声だったのかもしれない。
「もらえるスキルは大抵一つでクラスもそんなに高くないの」
「へぇ」
「ただ、本人の能力が優れていたり運がよかったりすると……」
「すると?」
「複数もらえたりクラスが高かったりするわ。この私のようにね!」
胸を張ってドヤ顔だ。
確かにそれを聞くと凄いと思う。
マァは【水龍】と【言語理解】で二つあるし、クラスは知らないけど態度的にも多分高いはず。
「マァは二つもあるもんな。クラスも高かったり?」
「そうなのよ! 水龍がⅢで言語理解がⅣよ」
「それは凄いな」
「そうでしょ? ……ってあなたもスキルを二つ持ってるじゃない」
確かに。クラスはⅡとⅢだけどね。
「あ! よければ私のスキルを鑑定してくれない?」
「それは構わないけど……何で?」
自分のスキルはもう把握してるのに。
「メグルの鑑定玉だとスキルの内容まで見れるんでしょ。自分のスキルについては分かっているつもりだけど、鑑定でどう説明されているか知りたいの」
「なるほど、言われてみればそうか」
鑑定玉のクラスⅣではスキルの名前とクラス、そして消費SPしか見る事が出来ない。
それはつまり、スキル名から効果を推測するしかないという事。
今までは自分で色々試しながら使ってたんだろうな。
だからクラスⅤの鑑定玉で見えるスキルの内容を知りたいのか。
「ちょっと待って」
ポケットから鑑定玉を取り出すと、マァのスキルを鑑定する。
【水龍】クラス:Ⅲ
・通常スキル。スキル発動を願う事で水の龍を生み出す。発動には10SPが必要。生み出した水の龍を操作する毎に1SPを追加で消費する。SPが無くなると強制的に解除される。任意で解除も可能。
【言語理解】クラス:Ⅳ
・通常スキル。スキル発動を願う事で発動者及び発動者に触れている者はあらゆる音声言語と文字言語を理解する力を得る。ただし対象の元々の言葉の発声や文字を書く事は出来ない。任意で解除も可能。
前に説明された通りのスキルって感じだな。
マァにそのまま鑑定内容を伝える。
正直、鑑定玉を貸してと言われたらどうしようかと思った。
マァ自身の情報を見るだけなら問題ないけど、ついでに俺の情報も見られたら困る。
ちなみにマァ自身の鑑定結果がこれだ。
マァ=アナーカ
年齢:15歳
種族:精霊人
職業:水使い
SP:18/20
通常スキル:【水龍】【言語理解】
装備スキル:
種族と職業は伝えるべきか……。
ただ、これを伝えると俺の種族とか職業とかも聞かれそうなんだよな。
今度は自分を鑑定する。
星渡 巡
年齢:18歳
種族:異世界人
職業:旅人
SP:100/100
MP:0
固有スキル:【まどう図書館(貸出中)】
通常スキル:【気配遮断】【短剣術】
装備スキル:【鑑定】【一界一城の主】
今は星辰の短剣を机の上に置いてるから装備スキルには載ってない。
職業はいいけど種族が……。
この二つは詳細が出てこないし、多分称号みたいなものだと思う。
特に効果はなくて、分類上こうなってるみたいな。
「ありがとう。助かったわ」
「どういたしまして」
うん、種族や職業は次の機会にということで。
「ちなみにスキルが増えるのって星の祝福以外でもある?」
「ないわ」
マァは断言した。
「スキルは十歳頃に起こる星の祝福の時だけもらえるの。それ以上スキルを増やしたいなら装備で補うのよ」
「なるほど」
「食べるとスキルが得られる果物とかスキル進化を起こす秘薬とかの物語はあるけど、さすがに創作だって言われてるわ」
もしあるなら見てみたいものねとマァは笑った。
「……」
秘薬は知らないけど果物ならうちの島にありました。
俺のスキルはそれでゲットしたんです。
なるべく表情は変えずにラジエルの翼を優しく撫でる。
「昔の人は想像力が豊かだったのね」
マァは宙を見ながら無邪気に話す。
そういう伝説とか物語が好きなんだろうな。
……次同じようなのを見つけたらこっちに持ってきてみようか。
「そうかもね」
俺は話題が変わるまで、ただただラジエルを撫で続けていた。




