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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ


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第19話 武具店で見つけたもの

「ただいまラジエル」

「ただいま戻りましたラジエル様」

「にゃん」


 部屋に戻るとラジエルはベッドの上で丸くなっていた。

 机の上の皿には黄色い皮が残されている。

 皮は俺達が噛み終わった実と一緒にゴミ箱に捨てておこう。


「これから宿の外に行くんだけど、ラジエルはどうする?」


 それを聴いたラジエルは俺の鞄に向かうとごそごそと中に入る。

 しっくりくる体勢が決まったのか、中から少し顔を出した。


「にゃ」


 その顔はどこか得意気に見える。


「一緒に行きたいんだな」


 上蓋があるタイプの鞄だからきっちり閉めてしまえば中身は見えない。

 ただそれだと、ラジエルが外を見れないし退屈だろうな。

 軽くかぶせるだけにしておこう。


「分かった、周りに人がいる時は鳴いたり顔を出したりしないようにな」


 注意事項を伝えると、分かったとばかりに頷くラジエル。


「よし、じゃあ出発しよう」

「ええ、行きましょう」

「にゃん」



 俺達は装備を扱う店に向かっている。

 入り口に置いていた木の棒は一応持ってきた。


「この棒ともお別れだな」

「武器としてはそうなるわね」


 二人ともこの街は初めてだけど、店の場所は斡旋所で確認している。

 お勧めされた宿もよかったし、こっちの店も期待している。

 肩掛け鞄をなるだけ揺らさないように気を付けながら歩いていく。


「何て名前の店だったっけ」


 場所は覚えてるんだけど、名前が微妙に思い出せない。


「確かコール武具店だったはずよ」


 マァはすぐに答えた。

 俺より記憶力がいいな。


「そうそう、コール武具店」


 武器と防具が置いてある店だな。


「そこで装備を整えて、服とか小物は別で探しましょう」


 大通りから一本入ってすぐの場所、そこにコール武具店はあった。

 入り口の横に剣と盾が描かれた木の看板が下がっている。


「ここか」

「ここね」


 俺達は扉を開けて中へ入る。

 金属の匂いが微かに鼻に届いた。


「———」


 店員がカウンター越しに声を掛けてくる。

 キャスケット帽をかぶった少年だ。

 恐らく挨拶をしたんだろう。

 距離もあるし俺達は目礼した。


「凄いな」


 剣や槍、盾や鎧が壁際に綺麗に飾られている。

 素人目で見てもよさそうな武具ばかりだ。


「じゃあ探していきましょう」


 まずは短剣を買う予定だ。

 スキルの【短剣術】を生かしたい。


「この辺りが短剣かな」

「そうね」


 マァも一振り欲しいらしく真剣に見ている。

 スキルが使えない状況でもある程度戦えるようになりたいらしい。

 ちなみに元々の武器は杖だ。


「どれもよさそうに見える……」


 自分の命を預ける武器だ。

 いい物を手に入れたいけど、払うのはマァだし高い物は避けたい。


「んー」


 俺は考えるふりをしてズボンのポケットに手を入れる。

 指先に感じる硬い感触。


「どれがいいかな、っと」

「これはどう?」


 マァは壁に掛かっている剣の一つを指さした。

 鑑定。



《鋼鉄の短剣》クラス:Ⅲ 品質:優

・鋼鉄で作られた短剣。専門の職人により丁寧に制作された。切れ味や頑丈さは折り紙付き。



 確かによさそうだ。ただ、値段はどの位するんだろう。

 鑑定玉を入れたポケットから手を抜くと、マァに手を繋いでもらう。

 短剣に下がっている札の説明を読むためだ。


「なるほど」


 名前とクラス、品質、そして値段が書いてあった。

 大銀貨三枚か……。


「大銀貨って宿で払ってた四角いやつだよな?」


 壁に掛けてある他の剣や槍の説明も見ながら呟く。

 鋼鉄の短剣とクラスや品質は同じだ。

 値段が短剣よりも高いのは、多分使われている鋼の量が多いからだろう。


「そうよ? 大銀貨一枚は小銀貨十枚分だから」


 宿では銀色の四角い板を一枚出して銀色のコインを一枚受け取っていた。

 コインの方は宿代のおつりの時に小銀貨だと分かったけど、板の方は大銀貨ってやつらしい。


「だとすると……」


 呟きながら計算してみる。

 宿代が二人で一日小銀貨三枚だったはず。

 十日で小銀貨三十枚、つまり大銀貨三枚になるな。

 部屋や料理のクオリティ的にあの宿は結構高い宿だと思う。

 そう考えると、大銀貨一枚の価値は?


「それが三枚か」


 うん、多分だけど高いと思う。

 相場は分からないけど、日本だとホテルの部屋ってビジネスとかじゃなければ二人で三万円はすると思うし、小銀貨を仮に一万円とすると大銀貨三枚で三十万円。

 武器としては妥当な気もするけど……。


「いい武器だと思うんだけど、もう少し見て回ってもいいかな」

「そうね、見比べて気に入ったのを見つけましょ」 


 俺達は言葉通り色々な武器を見て回る。

 どれも丁寧に作られていて品質もいい。

 ただし値段もそれなりに高い。


「んー」


 悩んでいると肩掛け鞄が動いた。


「ん?」


 一瞬周りを確認する。

 近くにいるのは手を繋いでいるマァだけだ。

 店員は客に応対中で気付いていない。


「どうしたの?」


 俺のその様子を見てマァが訊いてくる。


「いや、ラジエルが動いてさ」


 鞄を抑えつつ周りに聞こえないように言う。

 その間もある方向に鞄ごと俺を引っ張っていこうとしている。


「こらこら」


 小声でラジエルに動かないように注意しつつ、違和感を持たれないよう自然な風を装ってそちらに近づいていく。

 向かう先は店の奥のカウンター。

 その近くには大きな木箱が置かれていた。


「ここか」


 鞄はもう動かない。

 その木箱の中身を見る。

 色んな種類の武器がまとめて入れてあった。


「これはダンジョン装備ね」


 手を繋いだままついてきたマァが後ろから中を覗き込むと言った。


「ダンジョン装備?」

「そう、ダンジョンの宝箱から出た装備品よ」


 ここに書いてあるでしょ、とマァが指さした先。

 そこには確かに〈ダンジョン装備各種販売中。お一つ小銀貨一枚〉と書かれていた。


「なるほどな。でも何でこんなに安いんだ?」


 俺の星界の鍵もダンジョンの宝箱から出た。

 明らかに鋼鉄の短剣より凄い装備品のはずだ。

 それと同じ物が安売りされてる?

 疑問に思っていると店員が近づいてきた。

 さっきの客は帰ったらしい。


「それはクラスや品質がよくないからさ」


 キャスケット帽のツバを少し横にずらしながら言う。


「クラスⅠで品質が劣とか可とかその辺りのやつ。普通は売れないけど、ダンジョンは星からの贈り物だって話だし出現するのも稀だからさ。実際に使えなくても買っていく物好きがたまにいるんだ」

「へぇ」

「よかったら何か買っていってくれると嬉しいよ」


 店員はそう言うとすぐに別の客のところへ向かってしまった。

 この箱の装備品にはあまり興味がないらしい。

 無理に売りつけようとしないだけ良心的なのかもな。


「どれどれ」


 一つ一つ見ていく。

 ほとんどが実用性のないものばかりだった。

 すぐ壊れそうだったり、そもそも状態が悪すぎて武器として使えなかったり。


「何か気になるのはあった?」


 マァは早々に見るのを止めて俺に訊いてくる。


「ちょっと待って。もう少しで終わるから」


 鑑定の速度を上げていく。

 これ以上待たせるわけにはいかない。


「……ん?」


 鑑定していく中で何か引っかかるものがあった。

 俺はそれに手を伸ばす。


「これか」


 手に取ったのは古ぼけた短剣だ。

 鞘もなくて、全体的に錆びている。

 普通なら武器として使える状態じゃない。

 鑑定をしていなければ、だけど。



(いにしえ)の短剣》クラス:Ⅰ 品質:劣

・金属で作られた短剣だったもの。状態が悪く短剣としては使用出来ない。ただし、適性のある者の手に渡ればその限りではない。



 最後の一文――これ、当たりなのでは?

 俺は上がった心拍数を悟られないようにしながら、マァに買ってもらうべきか悩むのだった。

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