第17話 増える悩みと香箱座り
「じゃあそろそろ寝ましょうか」
「ああ」
「にゃん」
自分のベッドへ向かうと横になる。
ちなみに俺とラジエルは部屋の入り口側、マァは部屋の奥側のを使う。
「あれはそのままでいいか」
火龍果の皮と赤い皿は机に置いたままにしておく。
こっちでも時間経過で消えるのかの確認だ。
異界では消えたけどな。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「にゃ」
マァが鍵の金属板に触れて何かをしている。
すると部屋の明かりがゆっくりと落ちていった。
それと同時に棚の上にあるランプに明かりが灯る。
「確認なんだけど……」
「どうした?」
声の方を見る。
ベッドの上に薄明りに照らされたマァが見えた。
「明かりは点けててもいい?」
「うん、いいよ」
暗いと眠れないのかもしれない。
俺は明かりがあってもなくても眠れるタイプだからどっちでも大丈夫だ。
「ありがとう」
マァはお礼を言うと、もぞもぞとベッドの中へ入っていく。
そしてすぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。
「にゃっ」
その様子を見ていると、鳴き声と共にラジエルが飛んで来た。
「うおっ」
とっさにキャッチしようとした俺を華麗に避けると枕元に着地する。
そしてそのまま丸まった。
どうやらここで寝るらしい。
「俺も寝るか」
掛布団を被ると横になった。
♢
ベッドの中で今日を振り返る。
本当に色んな事があった。
異界で聖水や火龍果を見つけ、【短剣術】も手に入れて。
やっと人に出会ったと思ったら襲われてるし、助けたおかげで街には入れたけどお金はないし。
そして今は、マァと美味しい料理を食べてラジエルと同じベッドで寝ている。
「濃い一日だった」
周りに聞こえない様に呟く。
「皆は元気かなぁ……」
脳裏に家族の姿が思い浮かぶ。
いきなり俺が消えて心配してるだろうな。
今頃は居そうな場所を探し回ってるかもしれない。
「大学にも行けなくなっちゃったし」
合格してたんだけどなぁ。
夢のキャンパスライフも台無しだ。
「ああ、前を向かなきゃ」
後ろ向きに考えちゃダメだ。
せめてもっと生活が安定するまでは。
それまでは気を張っておかないと。
「これからどうするか」
マァには固有スキルの【まどう図書館】と装備スキルの【一界一城の主】、それに【鑑定】については話していない。
本当は【鑑定】についてだけは話そうと思ってたけど、途中で止めた。
国が運営する斡旋所の受付でさえ鑑定玉はクラスⅢで品質が良だった。
俺のはクラスⅤで品質が優だし、見える項目の数も玉の大きさも全く違う。
「あれだけ違いがあるとな……」
斡旋所のはテニスボールサイズだったが俺のはビー玉サイズ。
これが単純に個体差なのかクラス毎に違うのかは分からない。
ただ、俺のを実際に見せた時に何を言われるか怖い。
「異界の果物も売れないしな」
お金を稼ぐために異界の物を売るのもなしだ。
見た目からして絶対目立つし、鑑定されて入手先がバレても困る。
「お皿もダメ、と」
ラジエルがさっき出した赤い皿も一緒だ。
そもそもラジエルの物だし、どこから仕入れたかの説明が出来ない。
即興で作ったのか元々持っていたのかは分からないが、どちらにしても今後はラジエルのご飯皿として使う事になるだろう。
「すぅ……すぅ……」
マァの方を見る。
机に置きっぱなしの白い火龍果の皮や赤い皿については特に訊かれなかった。
多分気を遣ってくれたんだと思う。
「んー」
今日はマァにかなり助けられた。
全てを伝えるかは少し悩む。
一緒にいて信用出来そうだし話してもいいとは思う。
「けどなぁ」
まだ出会って一日も経ってないし、全てを話すには早い気がする。
もうちょっと落ち着いてからでも遅くはないはず。
「それに」
お互いに話せていない事があるのは何となく察している。
でもあえて訊かないのは相手の意志を尊重しているからだ。
「ふぅ、やめやめ」
「にゃん」
横を向くとラジエルがこちらを見ていた。
澄んだ赤い瞳でこちらをじっと。
「すまん、うるさかったか」
「にゃ」
ラジエルは一声鳴くと起き上がる。
そして掛布団の上に乗るとテクテク歩く。
「ん?」
俺のお腹辺りに辿り着くとそのまま伏せた。
手足を畳んだ独特な体勢だ。
視線は変わらずこちらを向いている。
「そこがいいのか?」
「にゃん」
怒っている訳ではなさそうだけど……。
あとその座り方には名前があったはずだ。
「思い出せない」
丸くなるのとは違うやつ。
箱……何とかみたいな。
「あぁ、そっか」
ラジエルを一撫でする。
漂う爽やかな香りとベッドの温かさに包まれながら。
思い出せた俺はゆっくりと眠りに落ちていった――。




