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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ


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第14話 ヒモとお大尽様

 身分証を受け取った俺達は夕陽の中、宿を目指して歩いている。

 斡旋所の職員にお勧めされた場所だ。

 泊まった人からの評判もなかなかいいらしい。


「あ」

「ん、どうしたの?」


 手を繋ぎながら並んで歩いていたマァがこちらを見る。


「俺、お金持ってない……」


 身分証発行だってお金が必要だったかもしれないのに。

 今まですっかり忘れてた。


「そうなの? じゃあ今回は私が出すわよ」

「それは凄く助かるけど……いいの?」


 マァは武器や荷物を失ってる。

 それを買い直すお金も必要なはずだ。


「ええ、全然問題ないわ」


 マァはローブをめくって見せる。

 腰には皮で作られた巾着がぶら下げてあった。


「家を出るときに結構持ってきたの」


 胸を張って言う。

 お金はちゃんと身に着けていたらしい。


「なるほどね」


 女の子に(たか)るようで申し訳ないけど、今は頼らせてもらおう。


「ちゃんと後日返すから」

「いらないわ。森で助けてくれたお礼よ」


 マァは口角を上げ俺を見る。


「……ありがとう」


 時間的に今日はもう宿で休むだけだ。

 明日からちゃんと仕事をして、何とか違う形で返していけるようにしたい。


「ここが今日の宿ね」

「結構大きいな」


 俺達は話している内に宿にたどり着いた。

 斡旋所よりは中心地から遠いけど、街全体で言えば中央寄りの立地。

 建物もレンガ造りでしっかりしてるし、両開きの扉は木製だけど艶があって綺麗だ。


「じゃあ行くわよ」

「ああ」


 マァに手を引かれて扉を開けると、正面に受付が見えた。

 右手に扉、左手に通路と上に登る階段がある。

 恐らく左側が泊まる部屋へ続いていて、右側の扉の先は食堂か何かだろう。

 何かいい匂いがしてきてるし。


「こんばんは、宿屋レリジョンへようこそ。本日はご宿泊ですか」


 受付前に来ると青年が声を掛けてきた。


「ええ、二人なのだけど空きはあるかしら」

「少々お待ち下さい」


 彼は帳簿のような物を開き、視線を走らせ確認している。


「お待たせしました。ちょうど二人部屋が空いております」


 彼は顔を上げて訊いてくる。


「ええ、かまわないわ。メグルも大丈夫よね」

「大丈夫だよ」


 二人部屋なのは気になるけど泊まれるなら問題ない。

 そもそも今回はお金も出してもらうしな。


「じゃあその部屋でお願いするわ。食事はどうなのかしら」

「食事は一日二回、朝と夜になります。場所は右手にあります扉の先に食堂がございますのでそちらをご利用下さい」

「分かったわ」

「ご注文の際にはお部屋の鍵をお見せ下さい」

「ええ、それで一泊おいくらかしら」

「二人部屋ですと一泊小銀貨三枚になります」

「じゃあ三泊でお願い」


 マァは腰元の巾着から銀色の四角い板を一枚取り出すと青年に渡した。


「ありがとうございます。ではお返しと鍵を持って参りますので少々お待ち下さい」


 青年はそれを受け取るとバックヤードに入っていった。


「ありがとう」


 俺は貨幣への興味を一旦置いて、マァに感謝を伝える。


「いいのよ、これから稼いでいけばいいんだから」


 しばらくすると青年がバックヤードから戻ってきた。


「お待たせ致しました。お返しの小銀貨一枚とこちらがお部屋の鍵になります」


 マァは銀色のメダルと金属の板を受け取った。

 金属板は薄緑色で細かい装飾が施されている。

 渡した順番から察するにメダルの方が小銀貨で、鍵はこの板の方だろう。


「お部屋は階段を上がって手前から三番目になります。何かございましたらすぐにお声掛け下さい」

「ありがとう。何かあったらまた来るわ」

「はい、それとお部屋の机の上に当宿についての説明書もございます。お時間がある時で結構ですのでご覧になって下さい」

「わかったわ」


 マァは話し終えると俺の手を引いて二階へと向かう。

 俺は笑みを浮かべる青年に会釈をして、引かれるままについていった。

 二階へ上がると通路がまっすぐ伸びている。

 受付で言われた通り、手前から三番目の部屋の前に来ると金属板を扉にかざした。

 するとカチャリと中から音が鳴る。鍵が外れたようだ。


「さ、中に入りましょう」

「分かった」


 鍵の技術に少し驚きながら一緒に入る。

 中はクリーム色の壁紙が貼られていて、外とはまた違った雰囲気だ。

 入り口横に武器兼杖である木の棒を立てかけ、内履きが置いてあったからそれに履き替えると細い通路を進む。

 通路横には扉が一つ、通路奥に部屋が一つ見えた。

 そのまま奥へと進み部屋に入る。


「おおー」

「中々いい部屋ね」


 全体的な印象は落ち着いた部屋といったところだ。

 備え付けの机や椅子は木製で飴色だ。落ち着いた色で高級感もある。

 二つ並んだベッドの間には引き出しが付いた台があって、その上には傘付きのランプが置いてある。

 視線を上に向ければ天井の中心部分に薄い板が貼られていて、部屋を柔らかく照らしている。

 壁には木の窓があるが今は閉まっている。


「二人部屋ってこんな広いんだな」


 一通り部屋を見回した俺は机の上にあるそれを手に取った。


「これは?」


 見た目はガラスで出来た水差しのようだけど中身が入ってない。

 近くに木のコップが二個置いてあるし飲み物を注ぐやつだと思うんだけど。


「ああ、それね」


 部屋に入るときに手を離したマァが後ろから覗き込んでくる。

 俺の手から水差しを受け取るとコップに水を注ぎ始めた。


「えっ!?」


 俺が持ってた時は何も入ってなかったのに。

 水差しを見ると底の方から水が湧き出している。


「これは湧出の水差しね」

「湧出の水差し?」

「そう、この部分に模様があるでしょ。ここを触ると水が出るのよ」


 マァが指し示す部分には確かに何かの模様があった。

 蔦のようなものが円を描いている。


「これは便利だな」

「そうね、これ割と高価だから置いてる宿は少ないと思うわ」


 そんな物がある時点でこの宿は当たりかもしれん。


「いい宿を教えてもらったみたいね。鍵もちゃんとしてるし安心だわ」


 マァはほっと一息吐くとコップの水を飲む。

 俺も別のコップに水を注ぐと飲んだ。


「とりあえず宿も確保したし、少し休んだら食事に行きましょう」


 コップを机に置いたマァは入り口近くにあるフックにローブを掛けながら言う。


「分かった……それにしても今日は色々あったな」


 木製の椅子に座ると言った。


「そうね。濃い一日だったわ」


 マァはこちらに戻ってくると向かい側の椅子に座る。


「街中でも一応気を付けないとな」


 色んな人間がいるだろうし、絡まれたりするのは避けたい。


「ええ。しばらくは一緒に行動するわよ。依頼も二人で受けられるものを探しましょう」


 俺が言葉を理解出来るのはマァのおかげだ。

 二人で行動出来るならそうしたい。


「ありがとう、助かるよ」


 一体どんな依頼があるのか楽しみだ。


「お互いの出来る事を後で詰めましょ。選ぶ依頼の方向性を決めたいの」

「分かった」


 ここに来るまでにお互いの出来る事を話してはいるけど、全てじゃない。

 マァが自力で色んな言語をマスターしているように、スキルじゃなくて個人で出来る事についても確認したいんだろう。

 ただ、俺自身については特に話せるものはない。

 高校を卒業したばかりで社会経験もないし、向こうで得た知識もこの世界で生かせるかどうか分からない。

 部活も陸上を少しかじった程度で止めてしまって、特に体力がある訳でもない。


「あ、ラジエルも呼ばないとな」


 ここで呼び出しても部屋に置いていく事になるし、食事の後の方がいいか。

 マァは机の上にある部屋の説明書を読み出した。

 内容を尋ねると、宿の決まり事や部屋にある道具の説明が書いてあるらしい。

 

「私が読んでおくから大丈夫よ。メグルは休んでなさい」


 俺はその言葉に甘えて、説明書は読まずにしばらく身体を休める事にした。

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