第12話 斡旋所にて
「まずはどうする?」
大通りを歩きつつ、マァに訊いてみる。
手を繋いでいるから別々に行動する事は出来ない。
「そうね、まずは斡旋所に行きましょう」
「斡旋所?」
「そこで仕事を探せるのよ。それと簡単な身分証も作れるわ」
マァは得意げな顔で続けた。
話を聞いてみると、国営の施設で仕事の斡旋業務を行っているらしい。
確かに個別で探すよりもそこへ行けば仕事があるのは効率的だな。
「斡旋所に関しては各国それぞれ独立しているから、その国で働くなら新しい身分証を発行し直さないといけないわ」
だからまずは斡旋所なのだとマァは言う。
「なるほどな」
「ま、これも常識なんだけどね」
マァはじとっとした視線をこちらに向ける。
「い、いやぁ、ははは……」
俺は笑うしかない。
「はぁ、どんな田舎で育ったんだか」
マァは斡旋所もない田舎から出てきたと思っているようだ。
田舎どころか異世界から来ましたと言ったらどんな顔をするだろう。
まあ、言えないけども。
「とにかく、何事もまずはこの国の身分証を作ってからよ」
とある建物の前で足を止める。
「ここが斡旋所よ」
街の中心地、十字に走る大通りの角部分に斡旋所は建っている。
入り口の横に旗が掲げられているな。
「そういえばメグル、読み書きとかは大丈夫?」
「あ」
俺達は人の出入りの邪魔にならないよう、斡旋所の入り口から少し離れて話し合う。
「やっぱりね。私のスキルはどんな文字や言葉も理解が出来るわ、そして直接触れている人も同じ効果を得られるの」
「凄いスキルだな」
最初に自己紹介をしたとき、【言語理解】がある事は聞いていた。
ただ、触れている相手にも効果があるのは初耳だ。
俺の【気配遮断】も触れている者にも効果があると書いてあったしそれと同じか。
「そういえば……」
この世界の言葉は知らないはずなのに、門番が何を言っているのか理解できていた。
手を繋いでいるのを揶揄われたのと、盗賊の事を話していてそこまで気が回らなかった。
「そうでしょうそうでしょう! メグルが困らないようにしてるのよ」
マァは胸を張ると得意げに話す。
「あ、ああ」
「だ、だから勘違いはしないようにね!」
そう言いつつ若干頬が赤いのは何でだろうな。
「でもよく分かったな。俺がこの国の言葉を話せないこと」
森の中でははぐれないように手を繋いではいたが、その時点ではまだ分からなかったはずだ。
マァから繋いできたのは森を出てからだから、その時に気が付いたのか。
「あ、もしかしてこの辺出身じゃないって言ったからか?」
「ええ、それもあるけど……口元の動きとかも違うからね」
なるほど、それは盲点だったな。
マァからすれば海外映画の吹き替えを見ているような感じなのかもしれない。
「とにかく、読み書きについて知りたかったの。このまま斡旋所に入るけどいいわね」
「分かった」
ん、ちょっと待った。
「悪い、ちょっと確認したいんだが」
「何かしら?」
これだけは訊いておかないと。
文字の読み書きが出来ないという事は、身分証発行に必要な書類も書けないという事だ。
そこは大丈夫なんだろうか。
「心配しなくても大丈夫よ」
マァ曰く、文字の読み書きが出来ない人用に代読・代筆屋という人が斡旋所にはいるらしい。もちろん有料にはなるそうだが。
今回はマァがいるので利用はしなくていいとの事だ。
「私が手続きをするから大丈夫よ。これでも近隣にある国の言葉はマスターしてるの。ただ相手が何を言っているのか、書類に何が書いてあるのかはメグルも知りたいでしょ?」
「それは確かに」
それはありがたいし、書類も書いてくれるのは正直助かる。
そして何気にマァの頭がいいのも分かってしまった。
国の数にもよるだろうけど、一体何リンガルになるんだろうか。
「じゃあ行きましょうか」
マァはそう言って俺の手を引きながら斡旋所の扉を押し開く。
中に入ると、そこには多くの人が行き交っていた。
エントランスホールは吹き抜けになっていて開放感がある作りだ。入り口正面にはカウンターがあって、仕切りでいくつかのスペースに区切られている。
既にいくつかは埋まっているが、恐らくあれは受付だ。その後ろでは職員が忙しそうに動き回っている。
左側には階段があるが、これは二階へ行く為の物だろう。
一階の右側奥は木の板に依頼書のような紙が何枚も貼り付けてある。恐らくそこから依頼書を取って受付に持っていく流れか。
逆に入り口側近くにはテーブルやソファーが置いてあって、そこで依頼を吟味したりするのかもしれない。
「ほら、見てないで早く受付に行くわよ」
マァに手を引かれながら受付へと向かう。
建物内部が広く作られているからか人とぶつかる事はなかった。
「グロリアス王国斡旋所オブリビオン支部へようこそ」
空いていた受付に入ると、職員が挨拶してきた。
繋がれた手を見られた気がしたが、特に何も言われない。
「ええ、よろしく」
「よろしくお願いします」
俺達は返事をする。
「本日はどういったご用件でしょうか」
「身分証の作成と斡旋所について確認したいの」
入り口での話の通り、マァが手続きを進めていく。
「分かりました。ではご説明させていただきます」
話の内容としては身分証を作成後、俺の予想通り掲示板に張られた依頼書を受付に持ってくる事で仕事を受けられるようだ。
ただし身分証のランクによって受けられる仕事に制限がある。
難易度の高いもの、長期のもの、秘匿事項があるもの等はランクの高い人しか受けられない。
これらの依頼は掲示板に貼られる事はなく、職員が適正のある人間に声を掛けるのだそうだ。
「専門的な知識や技術が必要な場合はランクに関係なくお声掛けする場合もあります」
技術に関しては特殊なスキルや装備スキルもこれに含まれる。その場合は斡旋所で確認した上で適切な仕事を割り振るらしい。
ちなみにランクは1~5までだそうで、初めは全員1からのスタートになる。ランクは身分証に刻印され、上がるごとに斡旋所での更新が必要になる。
「説明は以上になります。ここまでで何か分からない事や質問はございますか?」
「大丈夫。特にないわ」
マァは視線を一瞬俺に向けるが、なさそうなのを察したのかそう言った。
「では次に身分証の発行に移ります」
職員はカウンターの下から何かを取り出した。
見ると台座に置かれた水晶玉のようだ。
大きさがテニスボールくらいのそれを俺達の前に置く。
「こちらはクラスⅢの鑑定玉になります」
「これで確認してから身分証を作るのね」
「はい、ですが内容は個人情報になりますので職員は見る事が出来ません」
職員の話によると、ここできちんと鑑定をして自分のスキルを把握してから書類に記入するらしい。
斡旋所に来る人の中には人生で一度も鑑定を受けた事がない人もいて、そういう人の救済措置の面もあるそうだ。
「伝えたくない情報は記入されなくてもかまいませんが、持っていないスキルや家名等を書かれますと処罰される場合もありますのでご注意下さい」
書かない自由はあるが自分を大きく見せたり、仕事を得るために持っていないスキルを書くのはダメ、と。
そもそも、あえて自分の能力を低く見せるような人はあまりいないんだろう。それをやってしまうと受けられる仕事もその分減るだろうしな。
「わかったわ。まず私が先に確認しましょう」
そう言ってマァが前に出る。
「その間に書類を準備してまいります。確認が終わりましたらまたお呼び下さい」
礼をして職員が離れていく。
マァの鑑定はすぐに終わった。鑑定玉から手を離すと俺を見る。
自分のスキルについては前から分かってるんだから当然か。
「次はメグルね」
俺は入れ替わるように前に出ると鑑定玉に手を伸ばした。




