第11話 街へ到着
「やっと出れたわ!」
マァが叫ぶのも当然だ。
襲われてから結構歩いたからな。
「早く行きましょう」
森を抜けた先は草原だった。
遠くに街の姿がうっすら見える。
「ああ、行こう」
俺達は繋いでいた手を離すと横並びで歩き始めた。
ラジエルが胸に飛び込んできたので片手で落ちないよう受け止める。
その様子をマァは羨ましそうな目で見てきた。
「抱いてみるか?」
俺はラジエルをマァの方に寄せて訊いてみる。
「い、いえ大丈夫よ」
ちょっと身を引きつつ遠慮するマァ。
羨ましそうなのは確かだが、実際には恐れ多いといった様子だ。
「抱きたくなったらいつでも言ってくれ」
「分かったわ」
ラジエルの方をちらちら見ながら言う。
ラジエルは基本的に大人しい。
抱き上げれば素直に丸くなってくれるし、自分から寄ってくる。
多分だがラジエル自身もマァに触られるのを嫌がりはしないと思う。
「この辺りまで来れば襲われないよな」
「他の人の目もあるし大丈夫よ」
舗装されていない土が剥き出しの道へ向かう。
知らない動物が荷車を引いていたり、フード付きのローブを着た人物が足早に街から離れたりしている。
草原から街道に合流すると、通行の邪魔にならないよう端の方を歩く。
「ふぅ、とりあえずどうにかなったか」
「ええ、逃げ切れたみたいね」
しばらく歩くと周りの景色が畑に変わってきた。
柵の向こう側では野菜が栽培されているようだ。
何の種類かは分からない。
「あれはコドラーワートね」
じっと見ていたからか、マァが教えてくれた。
「この地方では有名な野菜よ。根の部分を焼いたり煮たりして食べるの」
「へぇ、そうなのか」
「……」
マズい、会話が続かない。
「ねぇ」
「は、はい」
「この辺りの出身じゃないわね?」
さすがに有名な野菜を知らないのはおかしいよな。
「そうだね」
何だか尋問されている気分になる。
「安心して。最初からそうだと思っていたわ」
俺の全身を見て言う。
「……あ」
そうか、この世界の人を見て初めて理解した。
俺と同じ格好をしているやつなんて一人もいない。
上下黒のジャージ姿じゃ浮くに決まってる。
「助けてくれたからこれ以上は聞かないでいてあげる」
「ああ」
「でもその内教えてくれると嬉しいわ」
「……分かった」
その内、ね。
街の入り口まで送り届けたら一度別れるつもりだったんだけどな。
街は遠くからでも分かるくらいには高い壁に覆われている。
そこには当然門もあるはずだ。
何かしら身分を証明する物を確認される可能性がある。
「あー、ちょっと訊きたい事があるんだが」
「何かしら?」
身分を証明出来なければ街に入れないかもしれない。
もしかしたら確認はされないかもしれないが、本番で通れるか試すのはリスクが高い。
「街に入るときに何か確認されたりはする?」
マァは首を傾げた後、あぁと納得したかのように頷いた。
「いいえ、特にないわ。国を跨ぐときには身分を証明する物が必要なんだけどね」
私は鞄と一緒に落としたけど、と気まずそうに視線をそらした。
「なるほどな」
鞄を落としたことは災難だったが、それを聞いて安心した。
本当は別れた後に門を観察して入れるかどうか確認するつもりだった。
「ただ、ラジエル様はちょっと……」
「ん?」
「ラジエル様みたいな生き物を私は見た事がないの」
「見た事がない……」
「そうよ、だから何か訊かれるかもしれない」
それは困る。
叩けば埃しか出てこない身だ。
上手い説明なんて出来ないぞ。
「どうしたらいいんだ?」
言い訳が思い付かない。
「見られない様に鞄の中に入ってもらうか、スキルで出し入れが出来るなら一旦戻ってもらうかね」
「あ」
そうだった。
そもそも見せなければいいのか。
焦って当たり前の事を忘れていた。
すれ違った人には見られてしまったが、幸い近くにこちらを見ている人間はいない。
戻すなら今しかない。
「すまん、ラジエル。そういうことだから一旦戻すよ」
「にゃん」
謝るなとでも言うように頭を胸に擦り付けてくる。
「じゃあ行くぞ、ラジエル返却!」
スキルを自覚してから初めて、宇宙猫の書を返却する。
ラジエルは音もなくふっと消えた。
腕の中からなくなった重みと温かさに少しだけ寂しさを覚える。
「ほら行くわよ」
マァに手を取られた俺はそのまま門へ向かって歩き始めた。
♢
「おお! お二人とも熱いねぇ」
結構な距離を歩くと門の前に着いた。
レンガで出来た城壁が高く上まで伸びている。
遠目から見えた壁がこれか。
「最近は山に賊が出るらしいから気を付けな!」
「ええ、ありがとう」
そのまま門を抜けて街に入る。
門から十分離れたことを確認してマァに訊いた。
「襲われた事は言わなくてよかったのか?」
マァは賊に追われる途中で武器や荷物を失った。
もし盗賊達に回収されていたらそれを取り返せるかもしれない。
「街の門番にも連絡が行っている時点で賊は終わりよ。すぐに街の兵士が山狩りをするでしょう」
「マァの武器や荷物はどうなる」
「いいのよ、大した物でもなかったし。それよりも早く街を見て回りたいわ!」
マァは本当に気にしてないんだろう。
興味は既に目の前の街に移っている。
「そっか」
大丈夫ならいいんだ。
俺はそのままマァと一緒に街中を歩き始めた。




