05 運命のパレード
私一人を除いて。
正確には私の気持ちを除いて。
相変わらず家族の中では、お母さんと私はシンデレラをいじめる役だけど、本心は違うということになっている。
お母さんとシンデレラと私は、仲良し母子。それが家族内での認識だ。
誰も知らない。
私がシンデレラに二心を抱いていることを。
最初は私もシンデレラのことが好きだった。初めて会った時に、その愛らしさに有頂天になったくらいだ。
自分は意地悪な義姉だと聞かされてからも、『シンデレラ』の本を読むよい子達のために、悪役を一生懸命頑張ろう。そう思っていた。
あのパレードの日までは。
* * *
私が十二か十三歳の時だったか、町のメインストリートで王室の方々がパレードを行うという知らせが入った。
噂は町中を駆け巡り、国王陛下や王妃様、王子様が通る時に投げる為の、色とりどりの紙吹雪や花びらを山ほど用意し、皆ワクワクしてその日を待っていた。
そして空が晴れ渡ったある日、パレードが行われた。
白い馬に乗り立派な鎧を着た騎士が先導し、美しい馬車が何台も何台も連なって行進してくる。
その夢のような美しさに、私はうっとりしながら、籠に入れた紙吹雪をせっせと投げかけた。
お母さんに「今からそんなに投げてしまったら、王様達が通る肝心な時に紙吹雪が無くなってしまうわよ」と笑われたが、どちらにしろ王様一家が通りかかる時、私は紙吹雪を投げることが出来なかった。
屋根が取り払われた、パレード用の馬車に乗り込んだ、立派な髭の国王陛下。
今までみたこともないような、宝石がちりばめられたドレスを着た王妃様。そして……
私と同じくらいの年頃の少女達で構成された《プリンス親衛隊》が「キャ――――!」と黄色い声を上げる。
その前を堂々と手を振りながら通り過ぎる、笑顔のプリンス・チャーミング。
この物語のもう一人の主役。
その王子様の姿に私は釘付けになり、微動だにすることが出来なかったのだ。
柔らかくウェーブがかったブルネットの髪、その髪と同じ黒い睫毛に縁取られた瞳は、この日の空のような明るいブルー。
すっと通った鼻筋の下の、清潔感がある少し薄めの口唇は、口角がキュッと上がっている。
まだ少年の年頃だが、既にすらりと伸びた腕は、大人になった時のスタイルの良さを予感させる。
沿道の国民(町民)のリクエストに応えて、皆に見えやすいよう、馬車の一段高い所に座って足を組んでいるが、この足も腕に負けず劣らずしなやかで長く、形が良かった。
瞳の色と同色のブルーのビロードのマントから覗く、真っ白なシルクのブラウスと真珠のボタンは、彼の汚れのない純粋さを象徴しているように見える。
結局籠に残った僅かな紙吹雪さえ投げることを忘れ、私は王子様に見惚れていた。
こんな美しい人、初めて見た。
…………いや、いる。彼と同じくらい美しい人。
私の妹、シンデレラ。
ああ、そうか。
これが《物語の主人公達》なんだ。
《こうして二人は末永く幸せに暮らしました》
それが似合う二人。それが相応しい二人。
…………平凡な私とは違うんだ…………
いや、むしろ本当に平凡な、名もなき存在の方がましだ。
何といっても私は、シンデレラをいじめる義姉なのだから。
来る舞踏会の夜、王子様がシンデレラを見染めるその場面には、私も同席する。
彼は一国の王子としての立場から、会場にいる全ての人に笑顔を向けるだろう。
でもその笑顔の下で、私を見る時「これが愛しいシンデレラをいじめてきた意地悪な義姉か」と思うのだ。
絶望しか、なかった。
この日から、私の心は闇を抱えている。




