王子様のないしょ話8 仲直り
城に戻り、ぼーっとしていると、妻が帰ってきた。
……あれ?
さっきこの部屋に戻った時は明るかったのに、もうすっかり暗くなっている…?
椅子に腰掛けたまま、いったい何時間過ごしてしまったのだろう。
「おか、えり……」
力なく呟く僕の前に、妻が立った。
「もう、帰ってからずっとこうしていたの?」
「……うん……」
「バカね」
そういうと、彼女は僕を優しく抱きしめた。
座っている僕の顔に、彼女のお腹が触れる。
僕も、彼女の背中に手をまわした。
「僕を、嫌いになったんじゃないの?」
僕らは昨日結婚式を挙げたが、その後のパレードや何やかやで疲れ果て、昨日の夜は夫婦としての初夜を迎えずに眠ってしまった。
このまま君が「別れたい」と言えば、清らかな体のまま白い結婚にも出来る。
「もう、本当にバカね。……嫌いになるわけ、ないでしょ?」
「だって君があんなに怒ったの、初めてだったから」
「それは、だって…」
妻は僕から体をはがし、困ったように言う。
「皆の見ている前で、あんな……キス、恥ずかしいじゃない」
「恥ずかしかったから、怒ったの?」
「そうよ」
そう言うと、妻は屈んで僕の唇にキスをした。
さっきほど深くはないけれど、唇の柔らかさを堪能できるくらいには、しっかりとしたキスを。
「もう、怒っていないわ」
そう言った妻の言葉は少し溜息が混じり、どこか官能的だ。
「本当に怒ってない?」
「ええ」
「本当に恥ずかしかっただけ?」
「ええ」
「皆に見られていなければ、大丈夫?」
「そ、れは、まあ……ええ……」
「よかったあ!!」
喜びのあまり、僕は弾むように立ち上がり、妻を抱き上げてクルクルと回った。
「やだ、おろして。怖いわ!」
そういう妻は、怖がるというより、楽しそうに笑っている。
ああ、やっぱり君は可愛い。
抱き上げたまま、軽くチュッと音を立ててキスをした。
妻はくすぐったそうに笑いながら、僕の首に両腕を回す。
……はい、我慢出来なくなりました。
「誰も、見ていなければいいんだよね?」
「え?」
「ここにはもう、誰もいないよ」
「……え」
「ここは僕たちの寝室だし」
「……」
「そして、僕たちは、もう夫婦だ」
顔を赤らめ、いやいやをするように首を振るけれど、そんな仕草さえ僕には扇情的に映るんだ。
僕の愛らしくて、賢くて、勇気があって、寛容な、素晴らしい妻よ。
というわけで皆様、これから先は案内人を辞して、失礼させていただきます。
僕の妻が恥ずかしがるのでね。
そして優しく妻を寝台に降ろし、そっと天蓋を閉じた。
【Fin】




