40 私達の大団円
その後の私達は大忙しだった。
王子様とシンデレラが舞踏会を抜け出したまま、だいぶ長い時間消えてしまっていたので、早く戻らないといけない。
シンデレラと私は、大わらわで互いのドレスを交換した。
着替える時、殿方には後ろを向いていてもらったが、二人とも紳士なので「いい」と言われるまで、ちゃんとこちらを見ないようにしてくれていた。
シンデレラの狙い通り、肩のピンを外して丈を長くしたドレスは、私にぴったりのサイズだった。
そしてガラスの靴も、これまた驚くほど私の足に丁度良いサイズだった。
あれほどシンデレラの足のサイズに作るのが難しかったガラスの靴が、試し履きもしていないのに、私の足にはこんなにピッタリだなんて、驚きしかない。
「やっぱりお姉様がシンデレラになる運命だったんじゃない? これって」と、シンデレラ言うと、王子様が大きく頷いた。
私のドレスと交換したシンデレラが、目立たないようにお父様とお母さんの後ろに回った。
私の代わりにジャボットの役を演じてくれている。
そして私はシンデレラの青いドレスを着て、ガラスの靴を履き、王子様に手を取られて舞踏会会場である大広間に戻ってきた。
――その瞬間、私がシンデレラとなった。
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私を王子様と結婚させようと、家族会議を開いていたお父様とお母さんは、私が王子様と結婚することになったのを、大いに喜んでくれた。
しかし妹が海賊になる話は聞いていなかったらしく、特にお父様は驚きの余り三日間寝込んでしまった。
四日目の朝起きだしてきたお父様は、少しやつれた顔をしていたものの、妹が海賊になるのを認めると言ってくれた。
「反対したところで、この子はどうせ行ってしまうだろう」と。
もはや、諦めの境地だ。
そんなお父様をお母さんがなぐさめた。夫婦の絆が強まったので、まあよしとする。
王様と王妃様は意外なほどに、元ジャボットである私がシンデレラとなって王子様と結婚することを、すんなり認めてくれた。
「何より大事なのは、あなた方二人が、ちゃんと末永く幸せに暮らせることですからね」
この家系らしく、美しい顔立ちの国王陛下は穏やかにそう言って、「よろしく」と握手をして下さった。
隣で微笑む王妃様は、少しエキゾチックなお顔立ちの方で、お優しそうなその笑顔に、どうやら上手くやっていけそうだとホッとした。
シンデレラを公募した時の三つの条件
1.金髪であること
2.瞳の色が宝石のようであること
3.誰もが認める美少女であること
それをこんなに無視してしまってもいいんだろうか、ということは、私の中で最後までひっかかっていた。
でも王子様いわく「まあ、応募者をふるいにかける為の、形式的なものだからね」だそうで、
「私の髪は金髪じゃないわ。亜麻色です」
「でも、そのくらいならOK、OK。金髪って言っても通せるよ」
という具合に、ずいぶん大雑把、いやおおらかに答えてくれた。
「私の瞳は宝石の色じゃないわ」
「いや、ちゃんと宝石の色だよ」
王子様のお母様(つまり王妃様)は、東洋から嫁がれてきた方だそうだ。
「僕のこの黒髪は母ゆずりなんだ」
そして「母が祖母の形見として持ってきた指輪の石が”翡翠”という宝石なんだ。君の眼と同じ色だよ」と教えてくれた。
今、その翡翠の指輪は、婚約指輪として私の左手薬指にはめられている。
そして条件3については「誰もが認める美少女であるより、僕が好きな顔であることの方が重要じゃない?」ということなので、これもスルーさせてもらうことにした。
王家と我が家のいわゆる”ご両家”に関してはこれでよし、となったが、王室の周囲である貴族階級の方々にも、この辺りの事情を根回ししておかなければいけないらしい。
が、これもさほど異論が出ることもなく、了承を得ることが出来た。物語の進行がスムーズに運ぶことが、最も重要とされているから、というものの、少し上手くいきすぎではないだろうか?
後日お茶会の席で、話し相手になってくれた公爵夫人にその当時のことを聞くと、夫である公爵様が「反対したら、物語を邪魔することになる。ネコチャン吸えなくなるなんて嫌だ……」などと不思議なことを言っていたそう。
都市伝説も、役に立つことがあるようだ。
そんな中で一番揉めたのが《プリンス親衛隊》だったと聞く。
《プリンス親衛隊》の中で最もお妃候補に近かったのは親衛隊長の公爵令嬢で、長い立派な金髪をゴージャスな縦ロールにした美人だった。
私がシンデレラとして親衛隊の皆さんに紹介されて(紹介される前は、夢にうなされるほど恐ろしく思っていたのだが)、「私あなたなんか認めなくってよ!」と啖呵をきられた時、なぜか「この人とはいつか友達になれそう」と思ってしまった。
その勢いのよさに、妹を思い出したからだろう。
王子様と私の結婚式は厳かに、そしてその後のパレードは、国民の祝福のなかで華々しく行われた。
何年も前、夢中になって紙吹雪をまいた時みたいに、今度は私が馬車に乗って紙や花吹雪の中をパレードするなんて、不思議な気分だ。
でも、幸せだった。とてもとても幸せだった。
沿道の途中、どこかで見たような一団が、ヒュ―ヒュ―言いながら手を振っているのに気が付いた。
《混沌の森》の男達だ。帽子を目深に被って顔が見えないようにしているのは、ペロー狼ね。
ありがとう、皆。
名有りも名無しも、全ての人に幸いあれ!
結婚式の後、妹はひっそり(というか、こっそり)海賊船に乗り込んだ。
「行ってらっしゃい。体に気を付けてね。シン……じゃなくて……なんて呼べばいいのかしら」
「そうねえ、女海賊Aとでも名乗ろうかしら」
「なんだか呼びにくいわ」と言ったら、その日の雲ひとつないの空のように明るく笑う。
「これで、このシンデレラ町で名前があるのは私だけになっちゃったわね」
感慨深くそう呟くと、女海賊Aから突っ込みが入った。
「あら! ”シンデレラ”は”灰かぶり”っていう意味のあだ名よ。本当に名前があったのは、お姉様だけよ」
……そうか。そう言えば”シンデレラ”という名前は、お話の途中で私がつけたことになってたんだっけ。
遠い昔、お母さんが「あなたは私の自慢の娘。”名有り”の子」とよく言っていたことを思い出した。
ジャボットという名前は、本当に特別だったんだなあ。
ところでその”ジャボット”という名前については、王子様がどこかに残したいと主張した。
「世界で一番スイートな名前だよ」
スイートな名前に合うかどうかわからないが、実家の庭で飼っていた羊をお城で引き取って育てることになったので、その羊につけることにした。
もう少しで元シンデレラにつぶされるところだった羊は、お城住まいの待遇となったのだ。
現在この町で唯一の名有りキャラとなった『ジャボット』は、今日も平和に若い葉っぱを美味しそうに食べている。
【Fin】
お読みいただき、ありがとうございました。
「シンデレラのないしょ話 ~元祖悪役令嬢は王子様に報われない恋をする~」はここで一旦終了しますが、次ページからスピンオフ「王子様のないしょ話」をお届けします。
王子様視点の物語です。
よろしくお願いいたします。




