38 王子様のジェラシー
「そういえば、王子様」
「なんだい?」
顔を王子様の正面に向ける。真っすぐに目を見て、真っすぐな気持ちを確かめたい。
「さっきシンデレラが現れた時、『こっちの方が可愛いな。この子に乗り換えたいな』なんて、思いませんでしたか? ……あ、私が傷つくとか考えないで下さいね。正直な気持ちを聞きたいんです」
何度かパチパチと瞬いた王子様は、ちょっと面食らったような表情だ。
「え、そんなことが気になるの?」
「気になります! 今までシンデレラを見て、見とれなかった人なんていません。私のことを『可愛い可愛い』って言っておいて、シンデレラを見た途端、シンデレラに夢中になる男達を見てきました」
「ふ――ん……君のことを可愛いって口説こうとした男がいるんだ……」
すっと目を細めた王子様は、今まで見たことのない剣呑な表情を浮かべている。
え……? ペロー狼や《混沌の森》の男達がピンチ……?
「口説かれたわけじゃないです。一般論的な意味で、お前も可愛いぞって言われただけで……」
「それなら……いいけど……」と口をとがらせる王子様。
するとフック船長が「ははっ!」と笑い声を上げた。
「ジャボット嬢、王子様はやきもちを焼いているようだぞ」
しかし王子様が冷たい目で一瞥すると、すぐに笑いをひっこめる。
「は――、優男のくせにおっかない目で睨むなあ」とブツブツ呟きながら。
「やきもち?」
「………まあ、認めざるを得ないな。僕より先に君に『可愛い』と言った男に、ジェラシーを感じたのは確かだ」
「……!……」
王子様にやきもちを焼かれるなんて……!
うれしい。すごくうれしい。うれしい……けど。
「本当に、口説かれたわけじゃないんです。私がシンデレラと自分を比較して卑下するから『そんなことないぞ』って励まされただけで」
ここはちゃんと説明しなきゃ。やきもちなんて、焼く必要ないってことを。
「そうよ、卑下する必要なんてないわよ!」
声を荒げるシンデレラを、フック船長が抑えた。
「気持ちはわかるが、お前は今口をはさむな」
「は――い」
はねっかえりなシンデレラの手綱を、上手く引いてくれているようだ。妹の上司として、頼れる人かも知れない。
それより……
「さきほどの答えを聞かせて下さい。シンデレラを見て、どう思われましたか?」
「どう思ったか……そうだな」
すぐに頭を切り替えた様子で、私の問いに答えてくれる。
「確かに、きれいな子だと思ったよ。すごく美人だと思った。うん、今も美人だなと思ってる。それに君の言う通り、性格もいいね。明るくてこう、スパッ!としてて。『竹を割ったような』性格。まさにその通りだ」
「それだけですか?」
「それだけ、とは?」
「私じゃなくて、シンデレラと結婚したいとは……思いませんでしたか?」
「いや、特にそうは考えなかったけど……そうだな……う――ん」
そう言うと王子様は目を閉じて長考に入った。




