36 揺れる思い
「ジャボット、さっきの話を踏まえた上で、もう一度言う。……僕と結婚して下さい」
跪いて私の手をとり、甲にキスをする王子様。
こんなの、心が揺れないわけがない。女の子なら、誰でも夢見るシチュエーション。……たぶんシンデレラを除いて。
でも……
「あの、一応聞いておきたいんですけど、もし私が断ってシンデレラも嫌だとなったら、この物語はどうなるんですか?」
「ああ、そのことか」
一旦立ち上がって、王子様は説明してくれた。
「その場合は《プリンス親衛隊》がいる。どうしても君達の両方とも僕と結婚したくないなら、彼女達の中から僕が一番気が合いそうな娘を選んで、シンデレラになってもらうことが出来る。……そのための《親衛隊》、なんだ」
そうなんだ。彼女達は単に王子様のファンの女の子達というわけではなかったのね。
「彼女達も、そのことを承知しているんですね」
「ああ……」
一つの物語を綴るのに、一体どれだけの人の覚悟を必要とするのだろう。これだけ沢山の人が物語を支える覚悟をしているのに、私だけわがままを言うことは許されるのだろうか。
でも、この場合”わがまま”ってなんだろう。
王子様に恋する自分の気持ちを優先すること?
主人公の重責を放棄して、一市民として生きること?
ついさっきまで王子様と結婚することは、あの日のパレードの道のように、明るい青空の下で花や紙吹雪が舞う中を歩いていくようなものだと思っていた。
それが今は両脇が崖になっている細い道を、踏み外さないように恐る恐る進むようなものに変わってしまった。
果たして私に、こんなちっぽけな私に、シンデレラとして王子様と結婚し、末永い幸せな人生を歩んでいくことなんか出来るのだろうか。
正直に言えば、今の私は完全に怯んでいた。そして、そのことにガッカリしてもいた。
王子様との結婚が幸せなものだと思っていた時は、あんなにシンデレラを羨んでいたのに、そうではないとわかった途端に、逃げたくなるなんて。
私はシンデレラをチラ、と見た。
彼女の表情は晴々として、明るい。私に抱いていた後ろめたさを告白し終え、今や自分の人生を切り開いていく決意に満ちているようだった。
でもそんな妹に、姉として心配していることがある。今まで姉妹として何年も同じ家で暮らしてきて、シンデレラをよく知っているからこそのことだ。




