34 シンデレラの涙
「呪い……」と呟いた私に、王子様は少しだけ悲しげに微笑んで言った。
「呪いと同時に、やっぱり祝福でもあるんだよ。どちらになるかは、僕達次第だ」
宥めるような王子様の言葉が、遠くに聞こえる。
なぜだろう。私は今までずっと、シンデレラは王子様と結婚したら自動的に『末永く幸せに』なれるものと思っていた。疑うこともしなかった。
シンデレラと王子様の未来は、ただただ明るい道だけが敷かれているものと思い込んでいた。
疑いもせず、シンデレラを羨んでいた……
そして、いつだったか鏡の魔女さんが言っていた言葉を思い出す。
『物語の主人公ってのは、本当に大変だからね』
ああ、あれはこういう意味だったんだ。
私は今まで、シンデレラが背負っていた重責を、理解しようとしなかった。重責があることさえ想像もしなかった。
シンデレラが苦しんでいたかも知れないなんて、考えもしなかった。
本当にシンデレラの身になって考えてみたことが、なかったんだ……
後悔の涙があふれだした。
「ごめんなさい、シンデレラ。ごめんなさい……」
「えっ?! どうしてお姉様が謝るの?」
私の涙におたおたするシンデレラを、ぎゅっとハグする。
謝っても、謝りきれない。私、自分のことしか考えていなかった。
「私……私……ずっとシンデレラが羨しかった。妬んでた。シンデレラの気持ちを考えもしないで。……それで、時々、あなたのこといじめてた。役柄にかこつけて、いじめてた……」
こんなこと告白されても、シンデレラだって嫌だろうと思いながら、言わずにいられなかった。
王子様にも、本当の、醜い私を見せなくちゃいけない。王子様が自分との結婚のデメリットを教えてくれたように。
「王子様。これが私です。意地悪な嫌な女の子です。あなたと結婚する資格なんて、ないんです」
「…………………………そうか」
王子様は私の告白に長く考え込んだ後、ため息をつくように密やかに、そう一言だけ言った。
終わった……
私の恋は終わった……
ううん、元々叶うはずのない恋だった。ほんの一瞬、夢を見ただけ。
そう自分に言い聞かせていた私は、王子様の言葉に心底驚いた。
「……つまり君は、思わずシンデレラを羨んで妬んで意地悪してしまうくらい、僕のことが好きだったんだね?」
そっと頬を赤らめた王子様は、何だか嬉しそうだ。
…………え――っ、そう来る?
余りにポジティブな王子様マインドは、これまた私の想像をはるかに超えてきた。
そこに、私にハグされていたシンデレラが、逆に私を抱き締め返してきた。
「私の方こそ、ごめんなさい! お姉様」
シンデレラは泣いていた。初めて見る、シンデレラの涙。
「なぜ、泣くの?」
「だって、私の方こそ卑怯者なんだもの!」
そう言うと、わ――っと泣き出してしまったのだった。




