31 シンデレラのお願い
「そういうわけで、ある日突然こいつが私のところを訪ねて来たんだ。夕飯の買い物の途中とかいって、人参やら玉ネギやら肉やら魚やら抱えてね」
いつの間に知り合ったのかと思ったら……。
「それで『たまには美味しいご飯食べたくないですかー?』とか言って、勝手に飯を作り出して。私の部下達は器量のいい娘が来て、これまで食ったこともないような飯を作ってくれたことで、すっかりこいつに懐いてしまってな……」
「えへへー」
呆れた……。
「そして、ペロー地方のシンデレラだと名乗った後、一つ提案してきたんだ。自分を海賊船に乗せて欲しい、と」
「!」
まさか、本当に海賊船に乗り込もうとしていたとは。そういう冒険譚が好きなことは知っていたけれど、本気で実行に移そうとしていたとは、考えてもみなかった。
「シ、シンデレラ、待ちなさい。あなたみたいな女の子に、海賊なんて危険なこと出来るわけないでしょう?」
「そうかしら。やってみないとわからないわ」
「お姉さん、私達は役の上で海賊稼業をしているだけで、本当に他の船を襲って強奪しているわけじゃない」
「でも……」
「それで、その提案にあなたは何て答えたのですか?」
混乱している私と違って、冷静な王子様が話の続きを促す。(落ち着いた態度が素敵)
「そう、何といっても前代未聞だからな。仮にも物語の主人公が他の話に移ろうというのだから……。それで条件を二つ出した。一つ目は『船酔いをしないこと』。物語上のこととは言え、実際船に乗り込むことになるのだから、船酔いして弱っていたとしても、介抱してやれるだけの余裕はない。自分で自分の始末をきちんと出来ないと話にならない」
「それで、試しに船に乗せてもらったんだけど、全然船酔いする気配はなかったわ!これで一つめの条件はクリア!」
「二つ目は『自分が所属する物語のけじめをつけること』」
「けじめ……?」
「いくら自分の個性と役柄が離れているからといって、無責任に役を放り出すような者を、私の船に乗せるわけにはいかない」
「簡単に言えば、シンデレラの代役を探し出すことが出来るなら、この条件をクリア出来るわけ!」
ここでフック船長、シンデレラ、そして王子様の目が一斉に私に向けられた。
「あ……え……あ……私……?」
「そう、お前さんが承知するのなら、お前さんの妹を船に乗せることを認めざるを得ない」
「『認めざるを得ない』とか言って、部下の海賊さん達から、私を船に乗せてくれって突かれてるくせにー」
「茶化すな。それよりお前は姉君に言わなければいけないことがあるだろう」
「そうだったわ。……はい」
それまでニコニコキャイキャイとはしゃいでいた(思えばいつも以上にハイテンションだった)シンデレラが、真顔で居住まいを正す。
「お姉様、お願いがあります。私の代わりに、シンデレラとして王子様と結婚して頂けないでしょうか!」




