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28 お姉様、貸し出します

「お姉様、どこにいるのー?」


 ハリのある元気な声。竹を割ったような性格と、誰もが魅了される美貌の持ち主。

 この物語の主役。……シンデレラ。


 王子様と結婚する夢想に落ちかけていた私は、その夢が終わりを告げたのを感じた。


 その時何よりがっかりしたのは、シンデレラを裏切ろうとしていたことを、申し訳なく感じる以上に、これから起こるだろうこと――王子様は一瞬で私を忘れ、シンデレラに夢中になるだろう――への絶望を強く感じた自分にだ。


 私はやっぱり悪役に相応(ふさわ)しい女なんだ。

 いつもあんなに良くしてくれた妹から、何ひとつ悪いことをしていない優しい妹から、結婚相手を奪おうと考えていた。

 ……だから、(ばち)が当たるんだ。


 頭をよぎったのは、いつだったかペロー狼や男達が散々私のことを「可愛い」「可愛い」と言っておきながら、シンデレラが現れた途端、一斉にシンデレラに夢中になってしまった時のことだった。


 あれと同じことが、今、王子様にも起こるんだ……


「やっと見つけたー!こんなとこにいたんだ、お姉さ……ま……」

 いつもと変わらない口調でガサガサとハーブの茂みをかき分けてやってきたシンデレラは、そこで動きを止めた。


「あ、あらあら――――! お、お邪魔しちゃいましたぁ?」

 言われて、はたと自分の状況を思い出す。


 まだ王子様に抱きすくめられ、手を握られていたのだった。思い切りラブシーン的状況だ。

「あ、ち、違うの、シンデレラ。私は、別に……」


 これは言い訳出来ない。焦って何か言おうとするけど、上手い言葉が見つからず、余計に焦りが募る。

 浮気がバレた人ってこんな感じなのかしら。いや、この場合浮気?しているのは私ではなく、王子様なんだけど……。


 だが当の王子様は私をホールドした体勢を崩すことなく、鷹揚(おうよう)に微笑んだ。

「やあ、君がシンデレラだね。僕はこの国の王子だ。今ジャボットから君の話を聞いていたところなんだ」


「はい、私がシンデレラです。姉がお世話になっております」

 いつになく優雅な仕草でスカートを摘み、王子様に挨拶するシンデレラ。


 ちょっと待って、何で二人ともこの状況でこんなに落ち着いているの?!


 そして、気が付いた。

 今までの、シンデレラを見た男達と、王子様の反応が違っていることを。


 これまでは、皆シンデレラを見た途端、彼女の美貌に魅せられメロメロになっていた。でも、王子様はシンデレラの美しさに目もくれず、普通に会話している。


「今ちょっと、君のお姉さんをお借りしているよ」

「どうぞどうそ、なんならそのままずっとレンタルしていてもいいですよ」


 ………会話の内容は全然普通じゃなかった。


「人を勝手に貸し借りしないで――!」

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