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21 いざ、舞踏会へ

 今朝、久しぶりに見た夢は、王子様がシンデレラを差し置いて私を選ぶという、ご都合主義極まれり、というものだった。


 もう、なんて夢なの! 思い出すだけで、顔から火が出そう!

 ありえない! ありえない! ありえない!

 シンデレラの幸せを願っていたんじゃなかったの?! シンデレラと王子様の幸せを願っていたはずじゃなかったの?!


 図々しい。恥ずかしい。結局私は自分のことしか考えない、独りよがりの人間なんだああああ。


「お姉様、コルセット締めすぎた?」

 シンデレラに慌てたような声で聞かれて、我に返った。あまりの恥ずかしさに足をジタバタさせていたようだ。

「あ、だ、大丈夫よ」

「でも……」

「大丈夫、本当に大丈夫!」

「なら……いいけど……」


 シンデレラはまだ心配そうだ。

 ごめん、本当に。あなたは何にも悪くないの。悪いのは、私。

 いい姉になろうと決めたのに。


「大丈夫!これからお城に行くんだと思ったら、興奮しちゃって……」

「そうね、初めてだしね」

「……もう少ししたら、そのお城がシンデレラのお家になるのね。すごいわ」


「お城になんて、住みたくないなー」

「え?そうなの?」

 びっくりして、思わず叫んだ。


 小高い丘の上にあるお城は、この町のどこからでも見ることが出来る。

 美しくて立派な宮殿で、皆の憧れなのに。


「お城じゃなくて、お城の庭に住むならいいわ。騎馬民族みたいなテントを張ってそこに住むの。そして羊をたくさん飼って、馬で羊を追うのよ」

 お城の中でおしとやかにしているシンデレラと、お城の庭で馬にのって駆け回るシンデレラを両方想像してみた。

 うん、どう考えても後者の方がしっくりくるな。


「結婚してから、王子様に頼んでみたら?庭にテントを張って住みたいって」

「え――、反対されそう」

「言ってみないと、わからないじゃない」


 以前見た王子様は、とても優しそうな方だった。シンデレラが真剣に頼んだら、ちゃんと聞いてくれるんじゃないかしら。

 シンデレラにお願いされたら、()れた弱みで何でも聞いてくれるかも……可愛い愛しい花嫁のお願いだもの…………


 いけない、勝手に傷つきだしてる。両手で押さえた頭を、ブンブンと回した。


「お姉様、髪型気に入らなかった?」

「あ、だ、大丈夫。気に入らないなんて、ないわ……あら」

 気が付くと、鏡の中の自分の髪が乱れていた。


「ごめんなさい。せっかくセットしてくれたのに……」

「いいのよ、ちょっと直すだけで済むから」

 シンデレラは器用に、はみ出たおくれ毛をすっすっと櫛でまとめて、ピンで留めた。乱れた跡なんて全然わからない。

「舞踏会の会場でも、もし髪がほつれたらすぐ言ってね。ちゃちゃっと直しちゃうから」

「ありがとう」


 改めて鏡の中の自分をまじまじと見る。シンデレラの隣で自分の顔を見るのは、心に墓穴を掘ることになるので、なるべく髪型に注視してみた。


 髪をアップしているので、正面から見るとシンデレラの髪型とそっくりだ。違うところといえば、私の方は顔の両サイドに一房ずつ髪を下して、アクセントにしていることくらい。


 シンデレラは普段から家事などで動きやすいようにと、まとめ髪にしていることが多い。(だから直すのも手慣れているわけだ)

 今日はそこに真珠のピンを留めて少しだけおしゃれにしている。


「うう――――ん……」

 眉間にしわを寄せたシンデレラがうなる。

「やっぱり、お姉様にヘアアクセサリーが全くないのは、どうかと思うわ」

 そう言うと、自分の頭につけていたパールのピンを数本抜いて、私の頭にさした。


「ちょ、ちょっと何するのよ、シンデレラ」

「だって、このままじゃ寂しかったんだもん」

「いいのよ、私なんて」

「だ――め。大体お姉さまは自分に自信がなさ過ぎよ!」

「だって……」


(だって、所詮私は意地悪な義姉。あなたの引き立て役)

 心に浮かんだ言葉は、さすがにシンデレラには言わずに飲み込んだ。


「私、お姉様は可愛いと思うわ」

「そんなこと」

「本当よ。ずっと思ってたわ。私のお姉様は可愛いって」


 なんだか涙が滲みそうになる。シンデレラにこんなことを言われるなんて。そして、シンデレラが嘘やなぐさめじゃなくて、本気で言っていることがわかって。


「ありがとう、シンデレラ。でも私はやっぱりあなたがこの国で、ううん、世界で一番可愛いと思うわ」

「うふふ、私達美人姉妹ね」

 シンデレラは嬉しそうに笑いながら「よいしょ」と立ち上がり、

「やっぱりドレスもちょっと直しましょ。セリフから大きく離れなければいいわよね」

 と言いながら、私の衣装をごそごそといじりだす。


「え?もう、いいわよ。今夜はこれで諦めるわ」

「だめだめ。せっかくお城に行くんだから」


 そう言うと、派手な赤いビロードの服の上の派手な金の花もようのマントを、引っ張ったりギャザーを寄せたりした後、もう一枚白い薄絹の布を羽織(はお)らせ、例のダイヤを一粒つけた帯でウエスト部分をギュッと締める。

 薄絹とマントがボレロのように赤い服をさりげなく隠し、派手派手しさが押さえられた。


「うん、ちょっとはましになったかしら」

「セリフにはない布を羽織(はお)っても、大丈夫かしら。《物語進行委員会》に怒られない?」

「大丈夫よ。薄絹を羽織(はお)る、っていうセリフはないけど、羽織(はお)らない、っていうセリフもないんだから」

 そ、それは屁理屈じゃないかしら。


 不安になったものの、満足そうなシンデレラに促されて鏡を見ると、私の衣装はさっきよりだいぶ落ち着いた清楚な印象に変わっていた。


「本当はお姉様には、瞳の色に近いグリーンか、グリーンと相性のいいブルーの方が似合うんだけど、セリフには『赤い服』ってあるから仕方がないわね。でも顔の近くから赤い色が離れるだけで、結構印象がよくなったでしょ?」

「……うん……」

「少しは自信がもてた?」

「うーん…………うん」

「ぃよーし!そんじゃあいっちょ、パーティーに繰り出そうぜい!!」


 シンデレラが男らしい掛け声を上げた。いや、あなた女の子なんだけどね。

「あなたはいつも楽しそうね」

「そうよ。人生一度きり。楽しまなきゃ!ね?」

「そうね」


 シンデレラみたいになりたい。

 もっと人生を楽しみたい。

 シンデレラや……鏡の魔女さんみたいに。

 辛いことを色々経験していても、いつも笑っていた強い女性(ひと)

 あんな風に人に優しくしたい。両親にもシンデレラにも、これから出会う人にも。


 そう、この舞踏会が終わってシンデレラが王子様と結婚したら、私も新しい人生を開こう。

 私の人生はまだ真っ白、これから何色にでも染められるのだ。


 さっきのシンデレラの口調をマネしてみた。

「じゃ、いっちょ行きましょうか!」

「……そうこなくっちゃ!」


 驚いたように少し瞬きをした後、シンデレラは嬉しそうに笑った。

 私も笑った。


 いざ、舞踏会へ。

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