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20 夢、それは夢

 舞踏会当日の朝を迎えた。


 通常では義姉二人の用意の為にシンデレラがてんてこまいになっているのだが、今回のお話の義姉は私一人だけだし、舞踏会本番に備え家事一切は前日の夜のうちにメイドさん達が済ませてくれているので、実際はそれほど忙しくはない。夕方までにシンデレラがしなければいけない仕事は、今日の食事の用意と私のヘアメイクくらい。

 それ以外では留守番してくれる執事さんやメイドさんの夜食を作ったりもしたのだが、これに関しては執事さん達が遠慮しようとしていたのだけど、シンデレラの方で「もう私がこの家で食事を作ることもなくなっちゃうんだから」と言い張って無理矢理作ったのだった。


 昼食を終えた後、シンデレラは私のヘアメイクをしてくれた。メイクもヘアセットも、シンデレラはすごく上手だ。

 シナリオ上、この家に来て以降、家族の世話を全部シンデレラにさせているという設定である。

 その設定に忠実にシンデレラが私やお母さんの美容関係を全部ケアしてくれていた為、肌や髪の質まで把握していて、今やお化粧もヘアセットもプロ並みの腕前になっている。

 最初の頃こそ頬紅が赤すぎたり、結った髪がいびつだったりと失敗したものだが、すっかり手慣れたものだ。


「お姉様は色白だから、その肌の色味を生かした方がいいのよね」

 私の後ろから鏡を覗き込みながらシンデレラが言った。

「元はあなたの方が白かったじゃない」

「元は、ね。今は日に焼けて、そばかすも少し出来てるわ」

「日に焼けないように気をつけなさい、って言ったのに」

「いいの。日に焼けた自分も気に入っているの」

 私は思わず苦笑いした。


 シンデレラの日焼けとそばかすは、家事をしていて日光を浴びやすかったせいでもあったが、それだけでなく、外で駆けまわったり木に登ったりとお転婆してきた結果でもある。

 しかし例え日に焼けていても、やっぱり私よりはるかに美しい。


「あまりアイラインをはっきりさせずに、お姉様のグリーンの瞳を引き立てる淡いブルーのシャドウを少しだけのせて、ルージュは淡いピンクがいいわ。ローズ系のやつ」

「あなたにおまかせするわ」

 とは言いつつ、前もってイメージだけリクエストは出しておいたのだ。それは……


《なるべく目立たなく》


 ただでさえシンデレラの義姉、ということで注目を浴びる可能性があったし、何しろ今日の私の衣装がすごいのだ。


「お姉様、そろそろセリフ……」

 シンデレラに小声で促され、仕方なくその衣装の説明のセリフを言う。


『私ぃ、今日はイギリスの飾りのついた赤いビロードの服にしようと思うのぉ。それからスカートはいつものでぇ、金の花もようのマントを着てぇ、ダイヤモンドの帯をするわぁ。お城に集まった皆様、きっと私を見て驚くわぁ』


 かなりヤケになってセリフを言った。元は二人いたはずの義姉達が着る勝負服。そう、ここ一番という時に着る衣装二人分を一人で着なくてはいけないのだ。

 おかげで私はいつものスカートの上にイギリスの飾りの付いた赤いビロードの服(これだけでも派手だ)を着て、金の花もようのマントを羽織り、ダイヤモンドの帯をする羽目になった。

 どれかアイテム一つだけなら「おしゃれしてきたんだな」って感じだけど、全部盛りなんてやりすぎだ。

 でもまあ確かにお城の皆様は私を見て驚くことだろう。


 ちなみに、我が家ではダイヤモンドの帯について、どんな帯なんだろう?と皆で首をひねった。

 シンデレラは帯一面にダイヤモンドを散りばめたものにしようと言い出したが、元々不必要なほどゴテゴテした衣装にそんなものを付けるのは嫌だったので全力で却下した。

 それでなくても飼っている羊の毛を、他の町に売りに行くくらい貧乏な我が家なのだから、そんな高価なものは買えない。


 そんなわけで成金趣味を絵に描いたような衣装を着て行かなければいけないのに、これで派手なメイクなどしたら道化っぷりに拍車が掛かり過ぎてしまう。

 シンデレラに目立たないメイクをお願いしたのはそういうわけがあったのだ。


 そしてこれほどゴテゴテの派手衣装を、それでも着る気になったのには理由がある。それは衣装が派手であればあるほど、私本人の印象は薄くなるだろうということだ。

 皆に笑われかねないドレスだからこそ、当然ドレスに多くの目が集まり、私自身は印象に残りにくくなる。

 それが狙いだ。


 ……いけない、また気分がダウンしている。


 今朝、久しぶりに夢を見た。以前よく見た夢だ。夢の間は幸せだけど、目が覚めると憂鬱(ゆううつ)になる夢。

 ここ最近は見ていなかったのに、何もシンデレラの晴れの舞台の日に見なくたって……。それとも晴れの舞台の日だからだろうか。


 夢の舞台はまさにその舞踏会なのだ。


――シンデレラより先にお城に着いた私は、王子様に迎えられて舞踏会会場へと歩を進める。

――王子様の瞳は私だけしか映さず、私だけの手をとり、私だけとダンスを踊る。

――そう、まるで私がシンデレラであるかのように。

――遅れて到着するシンデレラ。

――でも王子様はシンデレラに目もくれず、ずっと私を見つめている。

――王子様は私の手にキスをして、こう言うのだ。

――「あなたこそ、私の運命の人」


 いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!

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