芸術ボムの爆発が号令だ
健真「俺のストーリーはまだまだこれからが上昇していく時だ」
巧矢「そのようですね、僕も微力ながら牽引させていただきます」
健真「引率といえ!」
サッカー部の体験入部で他校との親善試合に参戦というのは無茶ぶりというもんだが、俺には五月雨巧矢がいる。おかげでこの試合で最初のゴールを俺が決めることができた。
状況が落ち着いてきたので俺はさっきから気になっていることを通信機で尋ねる。
「今さらなんだが……対戦相手はどこの学校だ?」
“島剣高等学校のサッカー部、Bクラスの方々です”
公式戦には出ない二軍ってことか、それなら俺の対戦相手として出てくるのも納得だ。
“健真様。お気をつけください、彼らは失点したことで動きを変えています”
「ふっふ、未経験の俺に点をとられたんだからな。二軍とはいえ面目丸つぶれだろう。あいつらは俺をただの体験入部と思っているかもしれないが、この俺だからな!」
俺は遠くにいる巧矢の姿を確認する、相手ゴールを見つめているように思えた。
“ええ、健真様に得点を許したことでリベンジに燃えていますよ。健真様がボールをとった時は戦略を無視して総力で奪いに行くぞという勢いで”
「それが本当ならあいつらはやっぱり二軍だな」
俺がゴールを目指してドリブルしていくと真正面からやたらとデカいやつが突進してきた、背番号は1番、サッカー部よりも相撲部が似合いそうなコイツの対処に少々迷いつつパスはせず撒こうとしたが……。
「へぶっ」
バランスを崩した俺は倒れ込んだ。
「ぐ、このまま追加点も貰うつもりだったが……」
接触などはなく俺が勝手に倒れたために試合はそのまま続く。立ち上がって周囲を確認する。
「あいつ、俺でもビビるぞ」
俺のボールを奪ったあいつは一直線にゴールに向かって突進していく。だが後方から走ってきた巧矢にボールを蹴り飛ばされて飛んでいった方向に急旋回する。
「ペギャアー!」
その途端、豪快にズッコケたデカブツは競技場が揺れるような爆音で叫ぶ、ざまぁ。
「最初はビビったがアイツは単細胞だな、恐れるだけムダだ」
俺はディフェンスのために自陣へ走る。
“相手の1番にご用心ください、彼は二軍にてキャプテンを務めるフォワードです”
ただひたすらボール目がけて走っていき、ゴールに向かって突っ込んでいくのをフォワードと呼んでいいのか疑問であるが。
「あんな単細胞が? ただのイノシシ武者だろう、統率できそうには見えんぞ」
“圧倒的な突進力が評価されているのは事実ですが、ユーリス運送社長の息子さんであるためです。どうやら若旦那様に敵愾心を持っているようです”
「そこはライバル意識とかで表現してくれ」
“それが適切な表現ですからね、我々の界隈では有名な話ですよ?”
確かにさっきの特攻ぶりは怨念すら感じるが、俺なんぞに敵愾心を抱くか? ウチとユーリス運送との関係などよく知らんし。
――井ノ川アリサは身を乗り出す、いよいよ試合が大きく動き出したことを感じた。あの1番フォワードのことはアリサもよく知っている、彼女は白藤に語る。
「彼はタンクのようであり、タンクローリーのような男ですわ」
白藤はアリサのいう意味がよく理解できなかったのでしばし考えた。たしかにあの巨体は貯蔵容器のように脂肪が詰まっていそうで、燃料をタンクに詰めて輸送するタンクローリーは大きいが。
「タンク……貯蔵容器ではなく戦車の方ですか?」
相手選手に対して突撃をしかけていく様はまさに戦場を駆ける戦車を連想させる。
「その通りですよ。彼の親が経営するユーリス運送は軍の物資輸送にも関わっています。機甲師団の機動力はユーリスの輸送力で成り立つとまで言われているのをご存じありませんか?」
「彼の家はそれほどの大企業なのですか?」
疑問形の白藤、本人の印象で家柄を論ずるのはよくないがそういう環境で育った男には見えなかった。
「貴方が不思議に思うのも無理ないですね。だから私はあの男が受け継ぐ前に会社を手中に収めるつもりです」
そういう信仰とは無縁な政財界の話は判断しかねる、そう思った白藤は無言で試合を見ていた……。
「! 井ノ川さんっ」
白藤は井ノ川の手を引っ張る、その直後に爆発音が轟く。地響きとともに床が崩れ落ちるので白藤は井ノ川の手を取って避難する。
「ご心配なく、この程度の爆発で私を脅かすことはできません」
「な、なにが起こってんだ!? 試合中に爆破解体すんなぁ!」
俺はありえない出来事にかえって冷静に爆発した競技場を見ていた。爆風で吹き飛んだ観客たちは着地すると降り注ぐガレキを避けていく。
「若旦那様、ご無事で?」
飛び込んできた巧矢が俺の身を案じる。いくらこいつでもテロに巻き込まれるとは思っていないだろうが、こんな時も冷静だなあ。
「あ、ああ……」
“競技場の爆破解体により、試合はこれで終了です”
アリサのアナウンスが響く。
「おい、本当に爆破解体だったのかい!」
“なお、試合の勝敗判定は……”
無効試合とはならずこの時点で1-0なのでウチの勝利。俺の入れた点により、俺チームが勝利だ。それは当然だが競技場が爆発するとはどういうことなんだ。
「いやあ、試合があまりにもショボいから観客席に座っているだけじゃウズウズしてたからちょうどいい」
「オンボロ競技場だからド派手に吹っ飛ばすのが最高のエンタメだ」
ガラクタガレキとなった競技場から帰る観客たちがススまみれになりながらそんなこといっている。なんだ、俺がおかしいのか?
「あら、健真さん何かご不満がおありで? あなたの得点のおかげであなたのチームは勝利したんですよ」
「いちいち説明しないとわからないのか?」
「全ては天竜様の思し召しですよ」
白藤が真顔でそう語る。
「お前の神は使用中の競技場を爆発させるのか」
「皆さんがご無事であることだけはそうです」
「なにはともあれ、試合は無事健真さんの勝利で終わりました。食堂で祝勝会を開催しましょう」
「そういや後で食堂で紅茶飲むとか言ってたな、俺はコロッケが食べたい」
食堂は大盛況、サッカーの試合よりも熱気があるじゃないか。庶民的なひと山ワンコインのコロッケから一皿2000円の豚カツまで幅広い価格帯のメニューが揃っている。
「このコロッケも熱くておいしいな、サクサクだ」
「コロッケ愛好家とはいかにも貴方らしいですね、健真さん」
ティーカップ手に微笑むアリサ、こいつを上品なお嬢様だと感じたのは初めてだ。
「ツッコミたいことは山ほどあるがなんで爆発したんだ?」
「爆竹でいたずらする悪ガキなんてそこらじゅうにいるでしょう」
いねぇよ。
「更地にして見栄えの良いものを造りなおしたほうが土地を有効活用できると考えた人がいるんでしょう」
飲み終えた紅茶のカップをそっと置くアリサ、巧矢のように優雅な貴族的振る舞いだ。
「部活選択に熱心なようですが、見通しはどうでしょうか」
「いろいろ調べてはいる。この前は美術部で今日はサッカーというわけだ」
「芸術もスポーツも高貴なる者の嗜みですからね、肉体と精神の双方を鍛えねばなりません。腐っても大鈴家の御曹司、向上心があるのですね」
「お、おう……そうだよな」
適当に選んだとか言えねえ。
「それで明日はなんでしょうか? 文芸部あたりが良さそうですが何か決まっているのでしょうか」
「文芸部? 俺が本を読む事ができないと知っているか」
「あら~それでは夜寝る前は五月雨さんに絵本を読み聞かせもらっているんですね」
井ノ川アリサ、この上なく上品に笑う。
「……そうなんだ」
「はいっ!?」
俺は顔を紅くして巧矢の方を向く。
「他人に打ち明けるとはどういう心境の変化ですか?」
巧矢の瞳に見つめられると体が熱くなって視線をそらす。
「幼稚園に入る前から母親から布団の中で読み聞かせてもらったからな……」
俺がそんな告白をするとアリサはますます笑みを浮かべる。
「今もなお母親の愛を忘れられないのですねえ、男は誰もがマザコンですか」
あ、これは嘲笑だ。
健真のマザコンエピソードを聞くアリサ、その隣に座る白藤明良は大きなパフェを小さなスプーンで味わう。彼の正面に座るのは五月雨巧矢。
「五月雨さんは大鈴さんの執事なんですよね、名門一族に仕える執事というのは責任重大でしょう」
「そうですね。まあ僕はまだ修行中ゆえそこまで大きな責任を負っているわけではありませんが」
巧矢はカフェオレのマグカップを両手を持ち語る。
「健真さんはその歳で実家を出て暮らしているんでしたね。ご立派です」
「大旦那様に実力を認められたいんですよ、若旦那様もそういうお年頃です」
……果たしてこれは健真と同年代の者同士が語る内容なのか。
「とはいえ学生の身分でできることは限られている気がしますね」
「そのためにいろいろな部活を見て回っているんです。いかに大鈴家の子としても若旦那様ご本人は普通の男子学生ですからね」
それゆえに父親からも権力財力は与えられていない。ふたりが会話していると突如アリサが大きな声を出す。
「この土地を私が買い取ります」
明良「健真さんは執事の五月雨さんに引率されていくんでしょうか? そうだとしてもどこへ運んでいってもらう気なんでしょう」




