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健真を守る盾・五月雨さん=健真を貫く剣・巧矢くん

巧矢「若旦那様は世間から見れば名家の御曹司であり、ご家族からは一族の恥と呼ばれています。僕から見れば我々と変わりない人間ですが」

健真「ひとつも褒めてないぞそれ……って、お前のいう『我々』に該当する人間はそんなにいねーよ!」

 俺の目の前に現れた井ノ川アリサなるお嬢様。不敵に微笑み、胸を張って立つ姿から察するに高貴だが高慢というタイプの貴族だ。

「それにしても、大鈴家が一番人の目に触れさせたくない健真さんと出会うなんて今日の私は幸運ですねえ」

 皮肉たっぷりな爽やか笑顔。たじろぐ俺を察したのか巧矢が口を開く。

「ユーリス運送の件で大旦那様はアリサ様を大いに評価していましたよ。健真様もご存じでしょう?」

「あ、うん……井ノ川って親父の大学時代からの友人だっけ」

 巧矢から受けたパス、ミスる。アリサが攻め込んでくる。

「健真さん、ご両親の交友に疎いのは親不孝ですよ? 私は大鈴家の事情は父様から聞いております。あなたは一族からの冷たい視線に耐えかねて実家を飛び出し、それを憐れんだ同い年で学園でも同クラスというよしみのある五月雨巧矢がその補佐を申し出たのでしょう?」

「お前……初対面でそういうジョークはやめろ」

「まあ、庶民の競技場で出会うというだけでインパクト絶大の奇跡ですからこういうスパイスは不要ですか」


「この競技場は今まで存在すら知りませんでした、私が利用するにはささやかな規模ですから当然ね」

「学生執事の五月雨さんに抱っこされているあなたには相応しいレベルですけど?」

 アリサは人差し指の上にボールを乗せてクルクルさせている、本当にやるヤツいるのかい。

「それなりに広大な駐車場がガラガラなレベルです、そもそも収容人数に対して大きすぎですが。この不釣り合いは身の程を知らない男みたいです」

 お前の言いたいことはわかるぞ、タカビー。

「アリサ、自分に不釣り合いな競技場になんの用件だ」

「学生サッカーの視察ですよ、下々の民と触れ合うのも役目ですから。エリートとは頭数が強みの大衆を知らないとけませんからね。本日は平民学園のサッカー部が試合をするのでしょう」

「俺もここで試合をするんだが?」

「言わずともわかりますよ、貴方は現場で動くタイプの雰囲気ですから。先の運送会社の案件も尽力なさったのはご長男の健介様でしたからねえ」

「そうなん? 確かにこの前兄さんがそんな感じのことを言ってたような」

 俺は現場どころか蚊帳の外だったからよくわからん。話題を変えよう。

 

「ずいぶんとプライド(選民思想)が高いやつだが、一人で来たのか」

 これほどの令嬢ならいつもお付きをずらりと連れているくらいの待遇はありそうだが、彼女の周りには誰もいない。

「私は自分の車は自分で運転しますので。高貴なリーダーたる者、人任せはありえません」

「乗り物好きな所は親譲りなのですね」

 巧矢がそう述べた。こいつ、親父の交友だけでなくその子供のことまで知ってるのかよ。

「我が一族のコレクションを展示する会場にしようかしら? あれだけ広い駐車場なら飛行機も余裕そうですし」

 俺は巧矢に耳うちする。

「なあ井ノ川家って何をやってんだ?」

「燃料メーカーですよ、自家用車からロケット燃料まで様々な用途の燃料を製造しています」

 燃料ってエンジンによって種類が違うって習ったな。天ぷら油は重油としては使えないみたいに。


「まあ、我が一族と縁のある大鈴家の人間とここで出会った奇縁を捨てるのももったいないですし、試合後はここの食堂にてアフタヌーンティーをご一緒しませんか?」

 アリサはそう申し出る。俺はこいつが紅茶を飲む姿を想像する。手入れされた庭園にて、洒落たティーセットで高級紅茶をすする、テーブルにはスコーンやサンドイッチ……。

「まあ、断るのは失礼だからな」

 俺は了承する。

「というか、この競技場食堂に紅茶があるのか? そんなお上品なやつ」

 スポーツの観戦に来て紅茶やその茶菓子を味わうことはしないような。いや、貴族的な娯楽とも言えなくもないが。俺の逡巡はアリサの言葉で止まった。

「当然ですわ」

 ピシッとそう断言したので俺はそれから何も言えなかった。

「この競技場はあの駐車場を埋めるだけの人が呼べませんが、食堂なら可能でしょう」


 アリサは観客席に向かって歩いていくが、俺たちは競技者向けの入口へ向かっていく。

「今日は部活の体験というつもりで気軽にやるつもりだったが、あのご令嬢に目にモノ見せてやりたくなった。全力フルパワーでいくぞ」

「若旦那様、部活は真面目にやってください。理由がないと全力を出せないのですか?」

 そのカウンターはキツイ……。

「いや、そういうつもりじゃなくて。今日の試合はあくまで学園対抗の親善試合、全国大会の予選じゃないだろう。だから俺のような体験入部の人間が参加できるんだ」

 俺の弁明に対して巧矢はあきれ顔。

「部活動はプロスポーツではありません、ですが真摯に取り組む気がないなら楽しむことはできませんよ?」

 同い年である巧矢の苦言はグサッとくるが、こういう諭す言葉は寸鉄のようにチクっと刺される。

巧矢「やはり健真様は普通の男子ですね、女子のために本気になるのは」

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