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光の扉  作者: 杉山薫
スター・ストレンジャー
7/20

帝都大橋事件

 グレッグ艦長とバッソが密談をしている一時間前、僕はピーター公爵の屋敷にいた。

帝都での出来事を聞いてやってきたのだった。


「ところで、なんでアンヌがいるの?」


僕は不機嫌そうに言う。


「あんた、バカ。ここはあたしの家なの!! ホント、ジルはバカなんだから」


「そういうことじゃなくて、なんでデュランとの密談の場所にお前がいるのかって言っているんだよ」


その状況を見るに見かねて、デュランが口をはさんできた。


「まあ、三人いれば文殊の知恵っていうじゃないか」


「お兄さまが起つべきだわ。だって、そうじゃない。民衆は今の皇帝に疑惑の念を向けているのよ。この状態で統治なんてムリよ!! それにこっちには空飛ぶ化物がついているのよ。圧勝よ!!」


「グレッグ艦長は他国に軍事介入しない方針らしいよ。僕たちだけでどうやって帝国軍と戦うの?」


デュランがアンヌを諫める。


「じゃあ、なんでここにこいつがいるのよ」


「ジルさんはアンヌたちが暴発しないように僕と打ち合わせをしに来ているんだよ」


「まあ、そんなとこだね。このじゃじゃ馬はちゃんと監視していないと絶対暴発するからね。ハハハハハ」


「うぬぬ」


アンヌがうなっている。


「本当に怖いのはアンヌの暴発よりも帝都にいるレギーヌ伯爵の一派の暴発なんだよね。そっちは同僚のジャックが打ち合わせに行っているんだよね」


「確かにね。反対派が帝都で暴発したらすぐに民衆のデモと結びついて暴動になってしまうよね」


デュランは冷静に分析をする。

三人で今後の展開を打ち合わせていたらグレッグ艦長がやってきた。

ピーター公爵の挙兵を止めるためだそうだ。

こちらは問題ないと僕が答えると、何かの拍子に暴発して挙兵にならないように見張っておけと言って帰っていった。


グレッグ艦長がピーター公爵の屋敷を離れたころ帝都では暴動がおきていた。

反対派の貴族たちはレギーヌ伯爵の制止を振り払って、デモをしている民衆たちをたきつけて武器を渡して暴徒化させていった。

一方、レギーヌ伯爵を説得しようと帝都にやってきたジャックはすでに暴動が起きていることを知り揚陸艦チャレンジャーに引き返していた。

そして、ついに帝国軍が暴徒化した民衆の鎮圧に乗り出した。

帝都大橋において鉄騎兵たちを先頭にして重装歩兵団や歩兵団などを総動員しての鎮圧である。

これが暴徒化した民衆を皆殺しにした後の世に言う『帝都大橋事件』である。



 帝都から帰還したジャックから暴動の情報を聞いたグレッグ艦長は決断する。


「第二種警戒態勢発令。これよりこの艦はピーター公爵の屋敷付近の上空に移動する」


揚陸艦チャレンジャーはコンウォール基地を離陸して、ピーター公爵の屋敷付近で停止した。


「艦長、前方より帝国軍が大挙押し寄せています。いかがしますか」


情報収集班が報告をする。


「その前まで移動して威嚇射撃をする。砲撃手、絶対に当てるなよ」


グレッグ艦長は指示を出し、帝国軍の前に三発の威嚇射撃がなされた。

帝国軍は大いにひるんで退却を開始した。


帝都にジャックの応援にいったバッソは帝都での暴動を目の当たりにして、ほら手遅れだったっすと思いながら、ジャックを捜した。


ジャックはもうチャレンジャーに戻ったっす。じゃ、俺なりに一仕事やってから帰りましょうかっす。


やがて、バッソは帝都大橋の惨状を目の当たりにして、決意を強くした。


ターゲットはあいつだ。


 反対派の貴族たちは『帝都大橋事件』で暴徒化した民衆とともに惨殺されてしまっていた。

矛の収めどころを失った帝国軍はレギーヌ伯爵の屋敷に突入して、レギーヌ伯爵を拘束した。そして、形ばかりの裁判を経て、レギーヌ伯爵の処刑が決まってしまった。

そんな中で事件が起きた。



 帝都にある閑静な屋敷が立ち並ぶ地域にそこに似つかわしくない男がある屋敷を物色していた。やがて、その男はお目当ての屋敷を探り当て、その屋敷に侵入していった。

その男のターゲットとである人物が広大な庭園で優雅にワインを傾けている。


このご時世にワインとはいけないっすね。


そう、この侵入者はバッソであった。レッドスター軍の諜報員であるバッソはブルースターやグリーンムーンでの諜報をしていたので、こんな帝都の警戒網などどうということもなかった。

バッソは静かにターゲットの前に立つ。


「あんた、今回ばかりはやりすぎったす」


「多数の警備がいたはずだが」


「ああ、全員お休みタイムっすね」


「ずいぶんとふざけた喋り方だが余が誰か知っての狼藉かのう」


「ハハハハハ。おめえもおかしな喋り方っす。ジェームズ」


バッソのターゲットは皇帝の父ジェームズであった。

その瞬間、バッソが放った銃弾はジェームズの眉間を貫いていた。


帝国の最高実力者ジェームズの死亡により今回の暴動に対する粛清は収束することになった。レギーヌ伯爵の処刑も中止になり、レギーヌ伯爵は釈放された。

民衆の帝国に対する不満は静かに、かつ大きくなっていった。

この帝国への不満は大きなうねりとなり、のちに大事件に発展することになるが、それは別の物語(はなし)である。


話はバッソによるジェームズ暗殺の一時間前にさかのぼる。


「艦長。帝国政府からの使者がいらしていますが、いかがしましょうか」


情報収集班がグレッグ艦長に尋ねてきた。


「帝国政府の正式な使者となれば疎んじることはできないな。艦長室にお通ししろ」


グレッグ艦長はそう言い残して、艦長室に戻っていった。

しばらくして、帝国政府の使者が艦長室に入室してきた。


「私、帝国子爵ステファン・ドリーと申します。この度は帝国政府の使者として参りました」


そう言って、一枚の書面をグレッグ艦長に渡してきた。


「チャレンジャー艦長のグレッグです。まあ、そんなにかたくならずにそこにお掛けください」


ドリー子爵から書面を受け取り、ソファーを指さしてそう言った。


「グレッグ様もご存じのことと思いますが、帝都は現在大変な状態になっております」


「まあ、そのようですな」


「これに対処するため帝国政府は戒厳令を発布して、事態を収拾することになりました。つきましては貴艦には即時国外に退去するようにお願いします」


「まだ帰還していない部下もおりますので」、即時は無理かと」


「おっと、言葉を間違えましたな。お願いではなく、命令します」


「もし、即時退去に応じない場合には帝国政府はいかがするおつもりかな」


「帝国に敵対するものとみなして、貴国に宣戦布告をする所存と政府より承っておりまする」


「承知しました。即時退去します」


ドリー子爵と別れて、グレッグ艦長はブリッジにゆっくりと歩いていく。


ジルとバッソが帰還していないはずだが、まあバッソがいればジルの面倒くらいみてくれるだろ。


ブリッジに戻ると、情報収集班にグレッグ艦長は尋ねた。


「ジルと連絡はとれたか?」


「いえ、ジル・ベイヤーとは連絡はいまだに取れません。というよりも、ジル・ベイヤーの行方がわからない状況です」


「仕方ない。十分後にここを離脱して、大気圏外へ退避することになった。準備しろ」


揚陸艦チャレンジャーは大気圏をぬけて地球周回上で待機することになった。


ジルになにか起きてなければよいが。


グレッグ艦長はそうつぶやいた。

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