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光の扉  作者: 杉山薫
スター・ストレンジャー
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帝都動乱

 そんな騒動があったことも僕は知らずに日々をまったりと過ごしていた。ところが、事件が起きたのはあの日から一週間後のことだった。帝国軍が大挙して帝都からコンウォール領に向けて進軍をしていた。反対派の貴族たちは我先にとピーター公爵の屋敷に入ってきて、レギーヌ伯爵がこう告げた。


「ピーター公爵、コンウォール遺跡上空に不審な飛行物体が飛んできているということで帝国軍が大挙してコンウォール領を目指して進軍しております。何か手をうちましたな。流石ですな、公爵殿」


僕は何となく事態を察して部屋を出て、アンヌを探した。メイドさんがアンヌの行き先を教えてくれた。どうやらまたあの遺跡に行っているらしい。

多分、その遺跡が今回の騒動の発端なんだけどね。

そんなことを考えながら駆け足でコンウォール遺跡に向かった。

発着場に何か白い……ダンゴムシ? がいる。その近くにアンヌと見知らぬ男がいた。


「お前が呼んだんじゃないのか。毎日毎日、こっちは救難信号を受けて出撃しているんだぞ。人の迷惑も考えろ。おねいちゃん」


「おねいちゃん? はあ? あたしはあんたのおねいちゃんじゃないんだけど。やめてくれる」


どうやら相性は最悪のようなので、僕があいだに入った。

アンヌと喧嘩しているのはジル・ベイヤーという軍人さんだった。アンヌが面白がって救難信号を毎日発信させたもんだから、その度に出撃命令をさせられているので怒っていらっしゃるらしい。

そりゃ、怒るでしょうね。


「ジルさんが怒るのはもっともなのですが、少し、いや非常にまずい状況になっておりましてね。ジルさんが毎日ここの上空にいらっしゃるので帝国軍が大挙してここに進軍しているんですよ。とりあえず、ここは僕の顔に免じて一旦お引き取りをお願いできないでしょうか?」


「はあ? お前の顔で何を免じるんだとふざけるな!! よし、そこで待ってろ。今その帝国軍っていうのを黙らせてきてやる」


ジルはそう言ってダンゴムシに乗り込んでいった。


ジルは真白のホワイトウィングで東に飛んだ。帝国軍はピーター公爵の屋敷を包囲して今にも総攻撃をかけるようだ。


「緊急事態発生。グレッグ艦長に指示を求める。至急グレッグ艦長に通信をつないで」


「承知しました。今、艦長につなぎます」


通信班の人がそう言って、グレッグ艦長に通信をつないだ。


「なんだ。ジル、しょんべんでもちびったか?」


「緊急事態です。軍事介入の許可を」


「何も説明受けないで許可できる訳ないだろ。今、そっちへ行く。しばらく上空を旋回して威嚇でもしてろ」


あ、威嚇はいいんだね。

ジルは艦長の命令通りに上空で旋回して帝国軍を威嚇した。

帝国軍は動揺して屋敷の包囲をとき、後退し始めた。

動揺したのは屋敷の人々もなんだけどね。

やがて、グリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャーがその巨大な姿とともに屋敷の上空に現れた。ここに至って帝国軍は撤退を開始した。


僕が屋敷に戻ると反対派の人たちは返されていて、父さんとグレッグ艦長がなにやら真剣に話し合っていた。


「事情は大体わかりました。でもね、我々も正規軍なので帝国軍と一戦を交わるためには必要な手続きがあるんですよ。その辺をどうかご理解をしていただけると」


グレッグ艦長は軍事介入には慎重なようだった。


「グレッグ艦長殿のお立場は十分承知しています。ですが、強大な軍事力を持つものが私的な事情で弾圧をかけているのはお分かりでしょう」


父さんはなにやら含みのある言い方をした。


ん、なんだろう。この違和感。


「それは承知の上ですよ、ピーター公爵殿。何も状況を打開することに協力しないなんて言ってないでしょう。要はね、我々は帝国軍とは戦わないが、この弾圧の構造を断つお手伝いをしようと言っているのですよ」


グレッグ艦長は不敵に笑った。なにか考えがあるようだ。


 それから三日後、事態は急変した。皇帝の父ジェームズの側近三名が帝国の公安に逮捕されたのだ。容疑はこうだ。側近三名は共謀して床に臥せていた前皇帝の寝所に侵入して致死量に達する毒を前皇帝に飲ませた上で、服毒自殺をしたように現場を工作したというのだ。もちろん側近三名は容疑を否認しているが、公安がこれを帝都中に公表したのである。民衆はこれに反応して連日各地でデモを行っているという。

そんな中、反対派の貴族たちはピーター公爵の屋敷を訪問してきた。


「やはり皇帝は暗殺されていたんだ。もっとよく調べれば皇子も暗殺かもしれない」

レギーヌ伯爵は意気込んで言った。


「滅多なことを言うもんじゃないよ。どちらにしたってこの国の危機だってことには変わらないんだから」


ピーター公爵は貴族たちをなだめる。


「あの巨大な飛行物体はこちらの味方なんでしょ。あれを使えば現政権を打倒できるのではないか」


貴族たちはみな口々に言う。


「グレッグ艦長からは別の国の正規軍のため本国の許可なくしては他国に軍事介入できないという回答をもらっているから無理ですよ」


ピーター公爵はため息交じりに言った。


「じゃあ、そのグレッグ艦長というのは本国からの許可を待っているのか?」


レギーヌ伯爵はピーター公爵に詰め寄った。


「本国からの許可を待っているかどうかはわからないですけど、何か考えはあるようですよ」


ピーター公爵は冷静にそう言った。

その日は、納得できていないものの反対派の貴族たちは帰っていった。




グレッグ艦長は艦長室である男と密談をしていた。


「帝都が大変なことになっているらしいぞ。皇帝暗殺が露呈して民衆がデモを起こしているっていうじゃないか」


「フフッ、あっしが帝都でひと暴れしてきてもいいっすよ」


「やめといてくれよ。こっちは正規軍なんだから動けないんだぞ。一人で何ができる」


「こういうときは単独行動のほうが動きやすいんっす。アイルの姐さんがいればひと暴れしていたはずでさぁ」


「ホント、アイルさんを連れてこなくてよかったよ。虎の子のホワイトウィングを使ってひと暴れしそうだよな。あっ、バッソふりじゃないぞ」


「へぃ、グレッグの旦那。わかってるっす。ガハハハッ」


バッソは豪快に笑った。


「あっしよりジルとジャックの心配をしたほうがいいっす」


「なにか動きでも」


「ジルはデュランに、ジャックはレギーヌ伯爵に接触してるっす」


「本当か?」


「ホントっす」


「デュランはコンウォール、レギーヌ伯爵は帝都か、レギーヌ伯爵が動いたらこちらではどうにもならんぞ」


「管理責任を問われるっす。ガハハハッ」


「面白がってるな! こっちの苦労も知らないで」


「よし、バッソ! 俺はコンウォールでジルを止めるから、お前は帝都でジャックを止めてこい」


「ガハハハッ。帝都はもう手遅れじゃないっすか」


「やってみなけりゃわからんだろ」


「じゃ、気楽にいってくるっす。たぶん手遅れだろうっす」



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