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エゴで窒息  作者: 夏至
第2章
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9話「ジレンマ」潤side

夢を尊のお見舞いに誘ったのはダメ元だった。

案の定「行かない。」という選択をした夢。「そうだよな。俺は夢の気持ち分かってるよ。」と心の中で思った。


夢は尊の告白で人生狂ったんだ。お見舞いに行きたがらないのも当たり前だ。それなのに何故、倒れたと聞いた時あんなに動揺した?目を覚ましたと伝えたら安堵した?


正直な話をすると、幼馴染が倒れたと聞いて動揺して心配する夢を見て、俺は安心したんだ。

あぁ、夢はずっと変わらない、優しい奴なんだ。って。


数十分前、渉兄さんから電話があった。机で勉強していた俺は兄さんの口から『尊が倒れた』と聞いた時、思わず立ち上がり、勢いで椅子を倒した。

その後『で、さっき病院着いたんだが、目は覚めたみたいだ。』と続いて、胸を撫で下ろした。

そして、今俺は侑を誘って尊のお見舞いへ行こうとしている。

夢にも言ったが心配ではあるんだ。もともとは大切な存在だったんだ。心配ぐらい、普通のこと。

侑の家へ向かう道のり、ずっとそう自分自身に言い聞かせた。


ピンポーン


病院へ行くルートから少し遠回りした位置にある侑の家に着くと俺はチャイムを鳴らした。

家の中から物音は無く、車庫の方から犬が吠える声が聞こえる。足音が段々とこっちへ向かってくるのが分かった。


ワンッ!


元気よく柵から頭を突き出したのは中型犬のチャッピー。侑の愛犬だ。

名前の由来は、好きなアニメに出てくる犬の名前だとかなんとか。そういえば、みんなでノリでそのアニメのガチャガチャを回したことあったけど、夢はそのストラップをまだスマホに付けてたな。


チャッピーの頭を撫でてやると舌を出して喜んだ。


「あら、潤くん」


車庫から侑のお母さんが出てきた。


「ご無沙汰してます。」


軽く頭を下げると「随分かっこよくなったわね。」と口元に手を当てて小さく笑った。


「いや、そんなことないです」

「そんな謙遜して。夢くんと尊くんも元気?」


尊の事はなんともなさそうだし、あんまり大ごとにしない方がいいかなと「みんな元気ですよ。」と嘘をついた。


「侑、夏くんの話はよくするんだけど、なかなか潤くんたちの話聞かないから…」


今の俺たちの現状を考えるとなんて言ったらいいか分からず、返事に困ってしまった。


「おーい、そっちは準備できたか?」


庭の方から今度は侑のお父さんが大きな荷物を抱えて出てきた。


「こんにちは」

「おお、潤くん久しぶり」


おじさんは荷物を一旦おろして腰をトントンとたたいた。


「お出かけですか?」


俺が問いかけるとおばさんが地面に置かれた荷物をよいしょと持ち上げながら言った。


「これからお盆まで帰省するの」


「お前も一緒になぁ」とおじさんはチャッピーの頭をわしゃわしゃと撫でる。チャッピーは大きなしっぽをぶんぶんと振っている。嬉しいようだ。


「あの、侑は一緒に行かないんですか?」

「あの子、部活があるから今年は行かないって。あ、そうよね侑を訪ねてきたのよね、あの子ちょっと前に出かけるって家を出たの」

「どこ行ったか分かりますか?」

「どこに行くかは言ってなかったけど、歩きで行ったみたいだから近場だと思う」


おばさんは続けて「そういえばあの子、傘持って行ってないみたいだけど大丈夫かしら」と空を眺めて言った。


「すみません、俺行きますね。」

「またみんなで遊びに来てね。」


「お気をつけて」とお辞儀をすると、おじさんとおばさんは手を振った後、車庫の中へと入っていった。チャッピーは少し寂しそうな顔でばらくこっちを見ていた。



侑の家を離れてからしばらくして雨が降り始めた。大きなビニール傘を開いて差した後、髪の毛に付いた雫を首を振って払った。


友達とはいつの間にか疎遠になるものだし、小学生の頃の友達とかはもう名前も顔を思い出せない奴ばかりだ。

でもこうやって五人の事となると、友達の親からずっと覚えていてもらったり、いつも一緒みたいな認識をされることが多い。そして、みんなが思っている俺たちでいないと。という感覚に陥ることがよくある。

それは多分、俺自身が本当はそうでありたいと思っているから…なのかもしれない。


そんなことを考えているうちに病院に着いた。

屋根のあるところまで入って傘を払う。傘に付いた雫が自分の方にまで飛んできて、思わず舌打ちをした。

なんだか、らしくないこと考えいたせいで若干イライラしている。


「あれ、これ。」


病院の入口付近に見覚えのあるものを見つけて拾い上げた。


「夢のスマホに付いてた、ストラップ?」


夢じゃない誰かのものかもしれないが、俺たちが小学生の時に出回っていたものだし、夢が落としたと考える方が可能性は高い。

でもなんで、ここに。夢も来てる?


俺はストラップをポケットにしまって病院の中へ入ると、兄さんにメッセージで送ってもらった部屋番号を確認してその部屋に向かった。


扉の前で息を飲む。


取っ手に手をかけて扉を開けた。


「え、あ、夏。」


扉を開くと足元に夏がしゃがんでいた。ペットボトルを拾っている。


「潤…久しぶり」


夏とは生徒会室(このあいだ)の事もあって気まずい。夏も尊が無事だったというのになんだか元気がない。


「夢、来てる?」


夏は「え?」という顔をして俺を見た。どうやら会ってないみたいだ。


「いや、何でもない。侑は?」

「侑も、来て…な…い…。」


夏の顔が急に青ざめる。


「おい、大丈夫か?」

「やばい、約束してたのに。僕、最低だ…」

「夏?どうした?」


夏は慌てた様子でズボンのポケットからスマホを取り出すと、電源ボタンを押した。


「電池切れてる…。い、行かなきゃ…!」


持っていたペットボトルを俺に押し付けて、夏は走り出した。


「俺のスマホで連絡っ…」


「すればいいじゃん」とすべて言えないまま、夏の姿はすぐに見えなくなってしまった。


「足速すぎだろ」


俺は夏から渡されたペットボトルを握りしめて、病室の中に一歩入り扉を閉めた。

夏とわりと大きな声で会話をしたおかげで、尊には俺が来たことバレてるだろうし、後には引けないよな…。

顔だけ見て何も話さずってわけにもいかないことぐらい初めから覚悟の上だ。


カーテンをめくったら、尊がベッドの上に上半身だけ起こして窓の外を見ていた。

「尊」と俺が名前を呼ぶと尊がこっちを向いて気まずそうに笑う。

目元が赤かった。あの尊が泣いたのか?


「夏、帰った?」

「ああ、なんか用事あったみたい」

「そっか。」


弱々しい尊のその姿を見て、俺は何故だか泣きそうになってしまった。


「悪かったな。」


追い打ちをかけるような尊の謝罪。

俺はペットボトルを棚に置いて、大袈裟に椅子を動かしてからどっしりと座った。

腕で目を擦って「泣くな、泣くな」と心の中で唱えた。


「別に心配なんかしてない。」


嘘をついた。逸らした顔は依然変わらぬまま。


「今回の事じゃなくて、今までの事だ。」


顔を上げたら尊が真剣な顔付きでこっちを見ていた。逸らせないほど、真っ直ぐに。


「なんの事。」

「俺ら、五人の関係に亀裂を入れたのは俺だ。」


予想外だ。こんなにもあっさりと言われるなんて。

何も言えない俺を見て、尊は続けた。


「俺は四人のことを引っ張っていける存在になりたかったんだ。でも自分の好き勝手に行動して、夢を傷付けた。」


この際だから、全部知ってるよ。って言いたかった。

なんなら、今までの鬱憤を全て吐き出したかった。

でも、何も出てこない。

尊が弱っているから?怪我人だから?


「バラバラになったのに俺が居なくてもみんな平気だった。俺、自信過剰だったんだ」


自ら白状したから?正直に思いを伝えてくれているから?


「今からでもやり直していきたい。だから、俺にチャンスをくれ」


違う。違うな。

俺が尊のことを幼馴染として大好きなままだからだ。


「お前がそう認めるなら、俺は尚更許せない」


俺の振り絞って出した言葉を聞いて、尊は一瞬びっくりしたが、直ぐに「そうだよな」と嬉しそうに笑う。


「なんで嬉しそうなんだよ」

「いや、潤が潤のままで、嬉しくて」

「お前は急に素直で気持ちわりぃ。」


尊が珍しく素直だから、俺も素直になってみようかな。なんて気を抜いた。


「俺だって、五人でいることは心地よかったし、好きだった。ずっとこのままだったらいいなと思ってた」


尊は俺の話に小さく頷いて相槌をした。


「…まぁ、でも、そりゃ人間なんだ、俺たちは変わってくよ。」

「うん。」

「夢は独りでいることを望んでるし、夏は必死に何かを隠してる。侑は何か知ってるのに、一人でどうにかしようとしてる。」


黙る尊をチラッと見て躊躇う口元から小さな声で


「かっこよくて、俺の憧れだったお前は、こんなにもかっこ悪い。」


と、言ったら顔がめちゃくちゃ熱くなった。

尊は黙ったままだったけど、心做しか嬉しそうな顔をしている。


「お前は、俺は俺のままだった言ったけど、あの頃みたいなガキじゃない。俺は、今どうしたらいいか分からなくて、迷ってる」


色々迷ってるんだ。

尊のことを許してやりたい。けど、夢の味方でいたい。

夏みたいに今まで通り接したいのに、それが出来ない。

侑みたいに冷静に周りを見たいのに、それが出来ない。


「だから、夏と侑と夢がお前を許すまでは、俺は許さない。」


こんなこと言って、この間、俺も夏のことを傷つけた。謝らないと。


「俺、もう帰るわ」

「じゅ、潤」


席から立つ俺に尊は腕を伸ばして引き止めた。


「ごめんな。」


俺らのリーダー。

ずっとずっと、俺のライバルで、憧れ。


「俺じゃなくて、夢に謝れよ。」

「あぁ、そうだな。」


ずっと勝ちたいと思っていたけど、どこかで勝ちたくない。とも思っていた。


「じゃあ、お大事に。」


手を振ってカーテンを捲る。


「潤、ありがとう。」


カーテン越しに聞こえた感謝の言葉に、少し胸がキュッとなって今度こそ少し涙が出た。


病院を出て小降りになった空を見上げたら、顔に雨が落ちて冷たかった。傘を広げると、傘に残っていた水滴がパッと跳ねる。


そういえば、なんで尊が倒れたとか聞き忘れた。

でもまぁ、今度聞けばいいか。きっと今まで通りこれからは話せるし。



二章 第九話 「ジレンマ」 終わり

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