表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/187

95.糖衣『薬とメープルシロップ』

 変質者をうまくまいて、町中散策の続きを始める。


 見通しが悪く、何だかんだそこそこ広い町のようだし、多分もう変質者と鉢合わせることもないだろう。


 ふと、視界が急に明るくなった気がして止まると、そこにはひときわ大きな木が一本だけ生えている広々とした広場があった。


 時折風に揺られる木の葉が落ちてくる他は何もないただの広場ながら、不思議と緊張感を感じるのは気のせいだろうか?


 ちょっと興味はあるが、明らかに見通しのいい場所に目立つ緑のポンチョで入り込む勇気はないので、後日服装を変えて来てみたいと思う。


 もちろんポンチョを脱げば、オリーブ色の地味な作業着ではあるが、緑には違いないので、さっきの変質者に見つかるのは避けたいところだ。


 広場には入らず、広場沿いの道を歩き、時折見える建物を眺めていると、見慣れた看板がちらっと見えた気がした。


 近寄ってみると案の定で、瓶に何か液体が入ったような図柄の看板が立っている。


 すなわちこれは薬屋の看板で間違いないだろう。何せ新人の街でも薬屋のお婆ちゃんの店の前に同じ図柄が掲げてあった気がする。


 外観は白を基調として緑で彩られた洋風の木造建築だが、若干おしゃれな店の様な気もして、入るのがためらわれる。


 もっと村の露店とか食堂みたいな感じとか初心者の街の裏通りみたいなのだと入りやすくもあるのだが……。


 「ねぇテル~?ウイリアム~?」


 どこからともなく聞こえてくるやたら通る声に驚き、思わずおしゃれなお店に入ってしまった。


 「あら?いらっしゃい?メープルシロップ専門店にようこそ!」


 するとおしゃれな店に似合いとしか言いようのない明るい茶色の髪色をした綺麗なお姉さんが声をかけてきた。


 「あ、あ、あ~どうもこんにちは……」


 何も気の利いたことは言えなかったが、さりげなくお姉さんの足元を見てNPCであるという事は確認できた。


 「本日はどのグレードのものがご入用ですか?」


 「グ、グレード?」


 「はい!当店ではゴールデン、アンバー、ダーク、ベリーダークと等級を分けさせております!」


 「えーっと……看板見て薬屋さんだと思ったんですけど……」


 「確かに!メープルシロップはお薬にも使用できますね!」


 「そうなんですか?」


 「はい!そうですよ!お薬に使用するとなんと!お薬が甘くなります!」


 「……それは飲みやすくて助かりますね」


 「冗談です!」


 「ああ、冗談だったんですか……じゃあ薬は甘くならない?」


 「なります!」


 「じゃあ、冗談じゃないんじゃ?」


 「甘くなるのはあくまで副次的な効果で、本当はお薬の効用時間が延長されますよ!」


 「効用時間?」


 「はい!お薬の事を知ってらっしゃる方なら知っているかと思いますが、HP回復のお薬は一定時間HPの自然回復速度が高まりますよね?その時間が伸びます」


 「あ~確かにじわじわと回復していきますよね」


 「はい!更には解毒関連のお薬の場合、毒にかかる前に飲めば耐性が上がるかと思いますけども、その時間も延長されますので、毒を使う獣と戦う前に服用しておいても安心ですね!」


 「そうだったんですか!それは便利ですね!ちなみに毒の方にメープルシロップを混ぜるとどうなりますか?」


 「毒が甘くなります!」


 「冗談ですか?」


 「いえ!本当です!ただ、時折甘い餌が好きな獣なんかは思わず食べちゃうって噂ですよ!」


 薬屋さんだと思って間違えて入り込んだメープルシロップ屋さんだが、これは中々自分向きの素材なんじゃないだろうか?


 「ちなみにメープルシロップってお高いものなんですか?」


 「グレードにもよりますね~ただ通常お食事に使われる場合はゴールデンが一番癖がなくておすすめではあるんですが、一番お高くもなります。ただ、お薬として使う場合木の風味の出るベリーダークの方が効能が高くなりますから、お客様の場合大変お買い得ですね!」


 これはいい事を聞いたかもしれない。


 「ちなみにお値段って……」


 「そうですね~通常のお薬タブレット100錠分で50000クレジットくらいでしょうか?」


 「え?お安い!お買い得品じゃないですか!」


 「ただ、お客様の服装を見る限りただ者ではないとお見受けします」


 「……いや普通ですけど?」


 「残念ながらこうしてお店をやっていると他人の事を見るだけで何となく分かってしまうんです。お客様は銃で獣を穴だらけにするだけの方じゃないと」


 何を言ってるのか分からないが、確かに自分はディテクティブスペシャルしか使わないし、穴だらけってタイプではないだろうけど。


 「一応クロスボウを使ってますけど、銃も使わなくはないというか……」


 「ええ、それではビジネスのお話です!メープルシロップの原液を採取してきていただけたら相応のお値段で買い取りますし、更には割引もさせていただこうと思うのですが、いかがですか?」


 「え!メープルシロップって自分で採れるんですか?」


 「はい!ただし、加工にはそれなりの技術が必要になりますので、実用のものをご自分で作るとなると少々大変かもしれません」


 「なるほど!それならメープルシロップ採ってきます!」


 「お気をつけて行ってらっしゃいませ!ちなみに適当に木を切っても手に入らないので悪しからず」


 「え?じゃあどうやって?」


 「メープルシロップの手に入るメープルの木は攻撃してきますのですぐ分かりますよ!」


 ニッコニコの店員さんに送り出されたんだけど、これってもしかして騙されたのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ