92.『TEAM戦(見学)』タツ
「RPG!!!!!」
叫び声の語尾をかき消すようなタイミングで響く爆発音。
廃墟とみられる建造物の扉は無残に砕かれ、粉塵となって舞う。
その煙も落ち着かぬ間に先頭を切って入り込んでくるのは、限界まで鍛え上げられ筋肉が透けて見えそうなオレンジ髪の巨漢。
隙なく周囲を見渡しているのだが、同時にどこか余裕を感じる風情に頼もしさを禁じ得ない。
そもそも扉を爆破したからと言って、正面から歩いて乗り込む度胸はどう考えても尋常じゃない。
何しろ、そもそもこの廃墟は敵の本拠地であり、十分な防衛力を有している事が分かりきっているのだから。
現に今も外では絶え間なく鳴りやまない銃声が、銃撃戦の激しさを物語っているし、そして外で狙われているのは、太平洋戦争時代を思わせるようなジープを運転してるタウルスのメンバー達だ。
「乗り込んだ。これから敵フラッグ奪取に向かう」
「りょ……」
「パンツァーファウストだって何回言えば分かるんだっての!!!」
直後に鳴り響く爆発音と揺れる建造物、天井からは埃が舞い落ちてくる。
しかし、そんな事はお構いなしに建造物の奥へと歩みを進める巨漢は、右手にMP5を提げてあくまで自然体を崩さない。
そこに、パタパタと足音が聞こえてくる。
それまでとはうって変わったかのように駆け出した巨漢が一つの扉にショルダーチャージをかますと、ちょうど扉を開けた敵を跳ね飛ばす形になり、体勢を崩したところを至近距離からの頭部への連射であっという間にとどめを刺した。
扉の向こうは階段になっており、人の降りてくる音を確認して、後ろ飛びに扉から元のフロアに戻った瞬間、巨漢の前で手榴弾が破裂し、軽傷を負う。
敵の一手先を読んで無理に押し込まない姿から、直感が冴え、筋力ごり押しでないプレイスタイルも伺える。
更には軽傷を物ともせずに、階段を下りてきた敵を連射であっという間に屠り、マガジンを交換して、敵の次の動きに備えた。
どうやら、この建造物は一階が一フロアぶち抜きになっており、上に上がるのは一つしかない階段を使わねばならないようだ。
階段を挟んで上と下とで消耗戦というのもやり方としてなくはないが、現状は悪手だろう。
その時また爆発音が鳴り響き、建造物が揺れた。
外の仲間達も健闘しているという事に、力をもらったのか、偶々そう見えただけなのか、定かではないが、それでも首を一つ回すと、そのまま階段に走りこんでいった巨漢。
上方を見れば、踊り場に一人敵がいたので、あっという間に射殺し、更に円筒のピンを口で引き抜き、そこに投げ込む。
すると、大量の白い煙が発生し、あっという間に階段すら視界から消えていく。
さりげなく下に向けた左手がわずかに動き、煙に飛び込んでいったものの、その違和感に何人が気が付くだろうか?
巨漢とは思えぬ密やかで微かな足音しかしない。多分直前の手の動きは何かスキルを発動させたのだろう。
そのまま、踊り場を折り返し二階へと突入した巨漢を待ち受けていたのは、アサルトライフルを構えた敵達だった。
半円状に5人が配置されていたものの、煙の中から急に現れた巨漢に一瞬とも言えない時間怯んだようだったが、すぐさまトリガーに指をかける。
しかし、走っていた巨漢が飛び込むように正面の一人の足にタックルをかまし、転ばせ、そのまま後ろに回って首を締め上げながら盾にしつつ、MP5の弾を右手一本で雑にばら撒いた。
味方ごと撃つというのはたとえゲームでも忌避感があるものなのだろう。
躊躇した敵達は弾切れまで撃ちまくられ、3人が死亡。一人は足に重傷を負いその場に転び、一人は肩を撃たれたのか武器を取り落とした。
盾にしていた一人が、武器を捨てたのを見計らい、巨漢もMP5をその場に捨てて、敵のハンドガンを奪ってまず盾の一人を射殺。
更に転んでる一人の頭をぶち抜き、武器を取り落とした一人と目が合うと同時に眉間に一発食らわせて処刑する。
ハンドガンをその場に放り、MP5を拾うと、弾を再装填してフロアを伺う。
どうやら巨漢はMP5と数個の手榴弾のみの装備らしく、代わりに多くの予備マガジンを携行しているようだ。
スッと壁に背中をつけて廊下を伺う巨漢が、手榴弾を腰から引き抜き廊下に投げ込むと、乾いた軽い金属音が数回鳴り響き、つづいて人の足音が聞こえた。
爆発音が鳴り、爆炎の向こう側に向けてMP5の弾をばらまくと、爆炎の向こう側からも撃ち返してくる。
壁に体をくっつけたまま、マガジンを取り換え再装填を終える巨漢と、廊下の向こう側にある部屋で様子を伺う敵の睨み合いが始まった。
そんな時でも焦れた様子を見せずに、じっと我慢を続ける巨漢。
その場だけ時間が凍ったかのように何も動かず、ただただ尋常じゃない緊張感が崩れたのは、何分後だろうか?
「悪りぃ!バギー壊れちまったわ!」
言いながら巨漢のいる部屋に上がってきたのは肩にロケットランチャーを担いだ青髪に眼鏡の男だった。
急に弛緩した空気……続いて黒人の様な肌色の筋肉質の巨漢に、街中とは思えない緑のジャングル迷彩の男と続く。
しかしその空気とは裏腹に、あっという間に制圧されてしまう建造物。
最上階には文字通り旗を立てた置物があり、それを破壊して終了。
場面は変わり、とある政府の公共施設に両者メンバーが集う。
「やっぱブルのところには敵わねぇか~~」
「いや、うちもいい練習になった。またやろう」
「久々のレギュラー招集だったし、俺たちも気合入ってたからな~」
「そんなこと言っても、タウルスの方はTEAM一人落ちだったろうが!守備側であれだけの数配置したのになぁ……」
ついさっきまで殺しあっていたとは思えない空気だが、タウルスの模擬戦の様子を見ていた自分はいまだ興奮冷めやらない。
「……ツ!タツよい!感想はどうだった?」
何しろ、いつの間にか声を掛けられていたのにすら気が付かないほどだ……って!
「すみません!いや凄すぎて、感動しました!4人であの数相手に制圧とか、意味分かんないっす!」
「くく……あそこにスナイパーをどう布陣するかっていう話なのに、スナイパーが……スナイパーが……」
完全武装のいつも無口なメンバーに笑われてしまった。
「まぁな~まだ、TEAM戦は経験ないんだし、仕方ないんじゃないか?いいか?あそこで対面の建物にタツがいるだけで、どれだけ戦況が変わったと思う?それこそブルが膠着状態になる前に、先ずバギーを迎撃に来てた連中をおとなしくさせることができるんだぞ?」
「すし詰めにして爆破ってのも面白いかもしれないよな!フォード!次はC4盛々とかどうだ?」
「おいギャロ!今タツにレクチャー中なんだからよ!」
「ギャロ、怒られてやんの!くくく……」
ほんのちょっと模擬戦を見せてもらっただけで、先輩たちの格の違いを見せつけられる。
本当に自分は追いつけるのだろうか?




