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8.溝鼠『見れば分るらしい』

 家に帰って早速のログイン、今日の目標は敵を倒す!


 と言っても、対人戦でいきなり勝てるなんて全く一つも思ってない。


 何しろ皆はアサルトマシンガンやらサブマシンガン装備なのに、自分だけクロスボウ装備なのだから仕方ない。


 フルダイブVRならハンデは関係ない、全く平等なんだと思っていたら、まさかの壁にぶつかった。


 しかし、不思議と気持ちが萎えるとかそんな事はない。


 何かこれでいいって感じ?一応他の人と同じように聞こえてるんだから、文句を言うのが寧ろおかしい気がするし、何より気分が前向きなのでこのまま進めていく。


 自分中で腹が決った所で、今日進めるべきは試射場で聞いた害獣駆除クエストをやってみる!だ!


 依頼を受けられるのは試射場から程近い保安官舎という事だが、多分昨日色々見て回った感じ、この周辺は本当に初心者や新人達が利用する施設が固まっている様だ。


 つまり、この保安官舎って言うのも初心者用の建物?保安官って言うくらいだから街を守る公務員の事だと思うけど、西部劇の警察的なアレ。


 とりあえず入っていくと、入り口に程近い場所に少し大きめの机が置かれ、そこに足を投げ出して座る初老の男性がいた。


 「よう、蛆虫!何の用だ?」


 「蛆虫って言うのは、蝿の幼虫ですか?新人だから育つと蝿になるって言う?」


 「ただ、街のおこぼれに預かって食いつなぐ事しか出来ないから蛆虫ってのさ。もし、お前にやる気があるなら、仕事を斡旋してもいいがどうする?」


 「是非お願いします!」


 「ふん、じゃあ三番街区の地下水道に湧いてくる溝鼠を倒して来い。10匹倒せたらお前を蛆虫から溝鼠として認めてやろう」


 「ドブネズミ……ってどんな鼠ですか?」


 「くっくっく!お前と同じ質問をした奴が6062人いたぜ、これだから地球出身は……お綺麗な場所でぬくぬくと育ったんだろうが、今は火星に住んでるんだここに常識を慣らすんだな」


 「はい、ドブネズミは火星じゃ常識なんですね」


 「ちげーよ。これから駆除するんだから見れば分るだろっての。場所はお前の簡易MAPに表示されてるから、それを頼りに行くといい」


 なるほど、保安官舎だから街の治安維持の為に働いているのだろうが、何故ネズミなんか倒すのだろうか?


 ん~ゲーム的な都合で最初の一番弱い敵はネズミって事にしてるのかな?


 でも、ネズミって小さくてすばしっこいイメージだし、果たして矢が当たるかどうか……。


 でも小さければHPも少ないだろうし、それこそ一発当てれば倒せるかもしれない、クロスボウは攻撃力が低いって話しだし、まずは油断せずにネズミ狩りに行くとしよう。


 簡易MAPを開くとまだ画面上に目的地は現れていないが、矢印だけは見えている。


 「……これって不便だよな」


 思わず呟いてしまうが、この状態だと進行方向しか分らない。それこそ自分はお使いを昨日やりこんだからモノレールに乗って三番街区に行けばいいと分るが、他の人は大丈夫なのだろうか?


 多分、大丈夫なのだろう。まさかに銃の音で耳がおかしくなってクロスボウしか使えない変なプレイヤーは自分位だろうし、それより駄目な人がいたら生活できないだろう。


 そんな事を考えつつ移動していたら、大きな空洞?トンネル?の前だ。


 中央下部からは汚水が流れ出ていて、下を見下ろすと更にどこか街の外へ繋がっている。


 何か臭い気がするが、多分気のせいではないだろう。フルダイブVRって臭いまで再現するのはいいが、汚い場所までちゃんと再現するのは尖った仕様だな~。


 仕方無しに暗い下水道に入っていくと、思っていたよりは内部に光が入っている。


 遠くを見渡す事はできないが、一寸先は闇とか言う程ではないので、そこまで恐怖を感じるモノでもない。


 何となく狭い空洞内に自分の足音が響き渡るのを聞きながら、なんとなく新鮮な気持ちと初狩の緊張感と下水の臭さがないまぜになってちょっと気持ち悪いかも。


 そこに、遠くから赤い点が二つ近づいてくる?


 何となく察してクロスボウを構え、矢のセットを確認。


 徐々に近づいてくるのは確かにネズミだが、大型犬くらいの大きさがある?


 こんな大きな種類のネズミ、カピパラみたいだけど、ドブネズミって言うのもいたのかと、妙に感心しつつ、顔に向けてクロスボウを構えた。


 動物とは言え、ゲームだし、害獣駆除と言われているのだ。きっと人に迷惑をかける獣なのだろう。


 よく狙って引き金を絞ると、ネズミの耳を掠めて矢がどこかへ飛んでいってしまった。


 すぐさま次の矢を番える為にクロスボウの紐を引っ張っていると、腹部に衝撃が走り、そのまま仰向けに倒される。


 目の前にはドブネズミの顔が迫り、妙に不気味と言うか嫌悪感を感じる表情に息を飲む。


 そのまま左腕に噛み付かれ、痛みが走り、飛び跳ねたかったが、ドブネズミに押さえ込まれてしまっている。


 「ハァハァハァ……」


 気持ちが落ち着かず、過呼吸になっていると、ネズミの顔が自分の顔に近づけられ大きく口を開けた。


 その時脇腹に火傷したかのような熱を感じ、思わず右手で触れると、ディテクティブスペシャルの感触に、殆ど反射でネズミに向けて発射した。


 キーーーーーーーーン


 耳が全く聞こえない。頭の奥に響くこの音にやっぱり慣れないと思いつつ、這って何とかネズミの死体に触れると、いきなり死体が溶ける様に消えて、手に肉が残った。


 気持ち悪いとは思ったものの、多分アイテムドロップだろうという事は自分にも分る。そそくさとアイテムボックスを開いて仕舞う。


 「ねぇ、そのアバターやっぱり可愛いよね~」


 「そ、そうかな?」


 「うん、でも何でこのゲームにしたの?可愛いのが好きならもっとファンタジー寄りとかあったじゃん」


 「だって、もし知ってる人に会ったら、何か言われそうだし……」


 「そんな事無いと思うけど、このゲームで知り合いに会ったらどうするの?」


 「……小さい方が弾に当たらないとか?」

 

 「ええ!そんな言い訳……ひゃっひゃっひゃ、相変わらず面白……え?大丈夫ですか?」


 タイミング悪いというかなんと言うか、頭がクラクラシテ何とか壁を這って立とうとした所を見られてしまった。


 しかもよく見ると、小柄な可愛い女の子とちょっとボーイッシュだがやっぱり可愛い女の子。


 自分のように何となく目立ちたくないからとあえて地味にする様な事もない、多分元々自信のある子達なんだろう。


 正直、こういう子とはあまり関わらない方がいい気がする。


 「あ、あの大丈夫です」


 それだけ言って、さっさと立ち去る。


 「変な人だったね」


 「う、うん……あ!ネズミいたよ!」


 何となく反響して聞こえてしまった会話に続き、バラバラバラと弾を乱射する音が追いかけてくるが、距離を置いた所為か、何とか耳は無事だ。


 問題はネズミ一匹で満身創痍のこの状態、本当にこのゲームで良かったのだろうか?

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