86.遺跡『面倒事に巻き込まれている予感』
蝙蝠のいた横穴は大した深さも無く、特に見るべき所も無かったので、すぐに元の道へと引き返した。
可燃性ガスが所々に溜まっているという話だったが、本当なのだろうか?
上は草が覆っているとは言え、光が入って来る程度には開けてるし、道幅も結構広い。
横穴も別に腰を屈めたりする必要すらなく難なく入れる程度、何なら今でこそ何も置いていないが、休憩所としてあえて掘ったのではないか?と言う程度には壁も床も綺麗に平らにならされていた。
道なりに進み、時折横穴があるたびに覗いて、出てくる蝙蝠を撃ち落す。
村のお婆ちゃんが言う通り、簡単なお仕事だ。
〔病爪〕ってのだけが気がかりなので、ダメージを食らわないように慎重に行動はしているものの、現状コレと言った問題はない。
どれ位奥に来ただろうか?目の前に壁が立ちはだかり、上の光が入って来ていたスリットもここで終わりのようだ。
コレで引き返していいなら何も問題ないのだが、目の前には扉がある。
扉があるって事は、奥も見ろって事だよな?それとも獣がわざわざ扉を開けて中に入る訳ないし、ここで引き返していいのか?
多分見ろって事だとは分かっているのだが、不思議と嫌な予感がして何とか見ないで済む言い訳を探す。
取り合えず、扉に手をかけてみるが、取っ手のようなものはない。その扉は土壁と一体化したように赤土が付着している。
にも関わらず、何故自分が扉と分かったかと言うと、下の方が少しばかり開いていて、明らかに奥から風が流れ込んできているからだ。
つまり、この奥にも空間が続いていて、さらにはそこが外につながっているということなのだろう。
少し離れた場所に寝そべって中を覗くと、完全な暗闇が広がっているように見える。
試しに扉の下縁に手をかけて持ち上げてみるが、残念ながら扉はピクリとも動かない。
その場をゆっくりと歩き回りながら、呼吸を整える。
何しろこの状況で出来る事は決まっているのだ。バックパックをアイテムボックスに入れて、匍匐で扉を潜るしかない。
しかし、向こう側は真っ暗だし何が起こるともわからない場所だ。緊張しないわけがない。
どれ位うろうろしたか、自分でも分らないが、意を決して荷物をアイテムボックスにしまう。
クロスボウも持ったまま入るには少々嵩張ってしまうし、何より手に武器を持ったまま匍匐できる気がしない。
腰のベルトに作業ナイフと投げナイフだけ挿して、扉を潜るべく腹ばいになる。
まず顔と肩を通す為に、地面に擦るようにギリギリ通り抜け、前に伸ばした腕の力で、体を引きずる。
端から見たらどれだけ不恰好か分らないが、仕方ない。どうせ誰にも見られないのだし、今自分が一番動きやすい方法で無理やり抜けよう。
数分位だろうか悪戦苦闘して扉の下を潜り抜けて、暗闇に立つ。
「やっぱやめとけばよかったかな……」
あまりの暗さに心細くなり、思わず独り言が漏れた。
「メェ~~~」
急に聞こえた音に心臓が飛び跳ねながらも、反射でそちらを向くと、赤い二つの点が闇の中に浮いていた。
思わず飛び上がり、後頭部に激痛が走り、頭はパニックに陥っているのに体が動かない。
ゴゴゴゴゴゴ……
嫌な重低音が鳴り響き、またもや心臓を鷲掴みにされる。
そして、唐突に寄る辺を失い、仰向けに転び、またもや後頭部を打った。
少し仰向けの体勢のまま動けずにいると、やっと状況を理解する。
どうやら、驚いた自分は扉に激突し、そのまま背中を扉に預けて座り込んでいたらしい、そして何故かその拍子に扉が開いたので、そのまま仰向けに転んでしまったと……。
「メェ~~」
いつの間にか自分の顔を覗き込む……羊?
……!!!
すぐさま横に転がり、膝立ちで起きあがるが、どうやらその羊に攻撃の意思はないようだ。
なにやらこっちを見ていたかと思ったら、勝手に奥へと歩いて行ってしまった。
どうした物かと思ったが、元々獣が入ってないか調査しろって話だったと思うし、放っておくわけにも行かないだろう。
扉が開いた事で、幾らか様子の見えるようになったその通路の両壁は、どうやら石でできている様だ。
更に壁にはなにやら幾何学的な模様が刻まれている。
それにどんな意味があるのかは分らないが、取り合えず中は一本道、真っ直ぐ慎重に進む。
扉から離れかなり暗くなったなと思った時、丁度突き当たりになり、右側に通路が続いているので進む。
入り口からの光はとっくに届かない筈なのに、何故かボンヤリ見える程度の薄暗さに保たれている。
よくよく観察してみると、天上際に細いスリットがあって、そこからうっすら光が入って来ている様だが、どういう構造になっているのだろう?
結構深くまで降りてきたはずなのに、地下に光を届けるなんて何か仕掛けがあるのだろうが、残念ながら自分には構造が思いつかない。
時折曲がったたりはするものの、一本道を進み続け、ふと急に広い場所に出た。
右も左も石造りの円形の広場の奥には、何か祭壇?の様な物があった。
通路から緩い下り階段を降りて、祭壇に近づき見上げるが、残念ながらコレと言った遺跡知識のない自分には、これが何を意味するのかとか、様式とか何も分からない。
ただ、なにやら台座があって、その後ろの壁が綺麗に彫刻されているなとそれだけだ。
周囲を見回しても、それ以上奥への道は見当たらない。
もしかしたら、この祭壇を探れば何かギミックの一つもあるかも知れないが、果たしてそこまでした方がいいのか?
そもそも廃鉱と聞いてた場所が、なんかの祭壇っていうか、遺跡みたいな場所だったわけだし、その辺の話を聞いてからの方がいい気がしてきた。
問題の入り込んでた獣である羊に声を掛けようかと振り向くと、
「メェ~~~~~~~~~~~~~~~」
フラフラと足から力が抜け、そのままうつ伏せに倒れこむ。
すると丁度そこに羊の背があり、何とか顔から倒れこむ事だけは避けれたものの、全く身動きが取れない。
「ああ……またか……」
羊の背の柔らかい感触に身を任せ、目を閉じた。




