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84.目的『まだ遠く先の事を考える』

 「はい、お待ちどうさん!」


 そう言って山盛りの羊肉を置いていく食堂のおばあちゃんはいつの間にか白いエプロンをつけていた。


 そして、斜め向かいに座るコットさんが流れるような手つきで肉を焼いていくのだが、この人もしかして鍋奉行タイプだったのだろうか?


 「んで、まぁ決闘の話だよな。今日初めてやっていきなりアレもコレもと詰め込まれたら訳分からなくなるだろうし、触りだけ説明しておくぜ」


 そう言って、向かいの席のジョンさんが切り出す。


 決闘の後、おばあちゃんが『戦いの後は肉だよ!』とか言い出したので、三人揃って村の食堂へと向かった。


 そして、決闘についてジョンさんからレクチャーして貰えるというのが今の状況。


 「その、決闘って言うのは一対一の撃ち合いって事でいいんですよね?」


 「あ~まぁ、基本はそうだ。だが村や街みたいな場所での戦闘全般に対しての意味もあるんだよな~……。まぁ難しく考えなくていい。決闘に関しては必ず立会人がつくし、突発的に行われる事はないから、その点は安心していい」


 「安心って言われても……」


 「基本的にフィールド上でのPKに関してはゲーム側からのペナルティはない。プレイヤー同士の暗黙の了解とかはあるがな。問題は街中なんだが、正直それぞれのルールに乗っ取った形でしか戦えない事になってる。ソレを決闘って言うわけだ」


 「?」


 「街中での戦闘の場合、お互いの利害の不一致からくる衝突を解決する為に、立会人の下闘うって言う意味がある」


 「えっと、法律とかそういう……」


 「んなもん、火星じゃあって無い様なもんだ。仮にNPCに攻撃してみろ?そのNPCの所属する集団に襲い掛かられて、終いにはその街には出入りできなくなるぞ」


 「じゃあ、牛車を攻撃してきた人達は?」


 「あれはフィールドだからセーフだ」


 「なるほど」


 「ほれ!焼けたぞ!」


 そう言いながら丁度よく話の切れ目でコットさんが肉を配り、更に新たな肉を鉄板の上に広げていく。


 「おお!美味そうだな!やっぱ生産職の作る飯は美味いからな」


 「そうなんですか?」


 「そうだぞ?作り手で味が結構変わるんだこのゲーム。ああ、それより決闘だよな。まぁ、街ごとのルールはおいおいとして、この村は一番ベーシックなルールだし、分かりやすかったろ?」


 「はい、まぁ、合図で撃つだけですから」


 「そうは言っても完全に読み勝ってたじゃないか」


 「読み?」


 「……運が良かっただけか……まぁ基本中の基本なんで、今後例外だらけの話にはなっちまうんだが、一応じゃんけんみたいな相性があってな」


 「相性ですか?」


 「ああ、まず一番早く撃てるのが、腰だめで撃つファスト・ドローなんて呼ばれる良く西部劇で見られるアレだな。決闘を主戦場にしてる奴なら大抵は使える」


 「決闘が主戦場?」


 「ああ、そこからか……俺なんかが正にそうさ。街から街へ移動して、街中での戦闘に特化してる。【用心棒】ってのも所謂5段階目の肩書きさ。それでステータスやらハンドガンのバフやらが掛かるって訳だ」


 「ああ!自分もいつの間にかハウンドって言うのになってたんですけど、それですかね?」


 「え?もう4つ目の肩書き持ってるのか?じゃあもう駆け出しじゃねーじゃん!ゆっくりマイペースに見えて、そうでもないのな……」


 「ほれ肉追加!早く食わないと冷めるぞ?あと今は決闘の話だろ?」


 「ああ、すみません!」


 そう言いながら更に盛られた肉をガンガン口に運ぶと、確かに自分が焼いた時よりジューシーって言うか、脂の旨味が口に広がって美味しく感じる。


 「そうだったな。相性の話だったか?ファストドローは早いんだが、敵に動かれると弱い。それでムービングショットっつって、ラビの相手もやったろ合図と同時に体を動かすやつ。アレで回避してから撃つってやり方がある訳だ」


 「ははそへでひょみはひ(ああそれで読み合い……)」


 「まぁ、言いたい事は分かるが、慌てなくていいぞ?んでそのムービングショットに当てるにはラビがやったみたいに、サイトを覗いて撃つとステータスのSNSが仕事して相手を追尾するんで、有利になるって訳だ」


 「んぐ!じゃあ、自分みたいに顔の前に銃を持ってくるより、腰の辺りで撃った方が早い?」


 「ゲームのシステム的には、な。現実の競技じゃ皆サイトで的に合わせるんだから、その限りじゃないんじゃないか?それにゲームの中だって今のはあくまで基本の相性であって、俺はファストドローで動く相手に当てられるし、多分さっきの決闘だって相手が仮にファストドローを使ったとしても、ラビが勝ったろ?」


 「そうなんですか?」


 「気づいてないと思ったか?ラビは明らかに合図より先に動いてただろ?タネは聞かないが、何がしか確信が無きゃあのタイミングじゃ抜けない。どうやら決闘にも適性があるんだな?」


 「どうでしょうか?偶々この村のルールにあってただけかもしれないですし、今まで考えた事なかったので」


 「そうか……、まぁコレは気の早い話なんだが、ラビは大会に興味あるか?」


 「大会ですか?」


 「ああ、運営が色んなルールでプレイヤーを集めて勝負させるイベントなんだが」


 「無いといえば嘘になるかもしれないですけど、考えた事なかったですね」


 「ふーん、そうか……じゃあこのゲームをやる目的ってなんだ?」


 「目的?」


 「そんな重いもんじゃなくて、あれだ当面の目標とかそういうやつ」


 「いや、特にないですかね?装備をアップグレードしながらレベルとか上げていこうかなとしか?」


 「それなら、折角決闘証明書も貰ったんだし、決闘の大会目指してみないか?」


 「決闘の大会ですか?」


 「ああ、実は俺もそのうち出るつもりなんだけどな。まぁ、なんだ?ラビのレベルですぐに出られるもんでもないし、もし興味あるなら俺達と村や街を回って、色んな決闘を見てみないか?勿論ラビが自給自足タイプなのも知ってるし、その辺の情報も分かる範囲で教えるからさ」


 「それは、ありがたいですけど」


 「警戒すんなって!新人への世話焼きみたいなもんだし、決闘が苦手そうなら別の目標を立てたっていいんだ」


 「そういう事であれば、一緒に行きます。よろしくお願いします」


 「おっ!ラビ!そういう事なら景気づけにもっと食え!」


 更に焼いた肉を山盛り皿に盛り付けてくるコットさん。本当に同行しても大丈夫だろうか?

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