83.決闘『正々堂々とか言う人に限って裏があるんだろうけど』
「おい!どうすんだよ!」
「いいから黙って見ておけって、正々堂々やるってんだから俺達の出る幕じゃないだろ?」
村の建物の陰からコットさんとジョンさんの声が聞こえてくる。
そして自分は牛車襲撃犯、それこそ自分が罠に掛けた二人に前後を挟まれて歩き村の中央の方へと連れて行かれているところだ。
何しろやる事もなく村の射撃場でナイフやクロスボウの練習をしていた所、急に後ろから声を掛けられ逃げ出せる状況でもなかった。
この前立ち聞き?伏せ聞き?まぁ、女子二人との会話を盗み聞きした感じだと、諦めると思っていたし、村の中で襲われる事もなかろうと油断していたとしか言う他ない。
襲撃犯二人いわく、今回は正々堂々正面から決着つけるからついて来いという事だ。
しかし今回も何も、向こうから仕掛けて来たから罠を張って迎撃しただけなのに、まるでズルしたかのような言われ方は釈然としない。
とは言え、罠も何も無しで二人に挟まれて戦う方法が無いのも確かだし、こうなる前に逃げ出せなかった自分が未熟なのも分かるので、文句もいいづらい。
村の中央市場の外れに着くと、襲撃犯の一人が露天の店主に声をかける。
すると、食堂から例のワイルドなおばあちゃんが出てくるが、相変わらず黒いレザーの上下によくよく見ると腰の太いベルトに大型のナイフと小型の投げナイフを提げているのが見て取れた。
太いベルトは所謂ガンベルトなんだろうけど、ナイフ用に作られているのが、ちょっと個人的に惹かれる物がある。
そして、更によく見ると無造作に右手に銃を握っていた。
剥き出しで平気な顔してリボルバーを手に提げたまま自然体のおばあちゃんは何者なんだろうか?
「さて、立会人も来た事だし始めるか」
「えっと……何をですか?」
「いや、正々堂々勝負するっつったろ?もしかして決闘した事無いのか?」
「っぽいな。もう何がなにやらって顔していやがる。何かこういう雰囲気昔の映画とかで見た事無いか?アメリカとかの何かアレ」
そう言われて周囲を見回してやっと理解した。西部劇のアレだ。喧嘩やいざこざを一対一の撃ち合いで決めるアレ。
「この村じゃルールはシンプルだよ。合図があるまでは得物に触れちゃいけない。必ず手を空の状態で待機それだけさ。あとは先に当てた者勝ちだね」
NPCのおばあちゃんがちゃんとルールを教えてくれるが、それってステータスの高そうな向こう有利なんじゃない?何が正々堂々なんだ?
文句を言いたいところであるが、逃げようも無いのも確か……いや走れば何とかなる?
無理だな。それはそれで追いかけまわされそうだし、どうすればいいんだ?
「よう!何を賭けるんだ?その辺の取り決め無しで決闘なんてのはナンセンスだろ?」
フラッと現れたジョンさんが対戦相手の後ろから急に声を掛け、驚かせていた。
そのお陰か、自分はフッと肩から力が抜けて取り合えず準備しなきゃと、アイテムボックスから最初から支給されているホルスターの一つを取り出す。
「あ?誰だ……ジョンさんか……」
「まぁ、俺の事はいいが、決闘を知らん駆け出しに随分と不親切じゃねぇか?」
「そんなもんは痛い目を見て覚えるもんだろ!」
二人がジョンさんに気を取られている内にクロスボウの矢や生産用の大型ナイフに薬類なんかは全部しまってしまう。
代わりにベルトにホルスターを取り付けて、ディテクティブスペシャルを挿し、引き抜く感触を確かめる。
ポンチョの切れ目を肩に掛けてしまえば、引き抜くのも違和感はなさそうだ。
「お前のいう事も分かるがな?取り合えず最低でも決着いかんに関わらず粘着は無しって条件はつけないってのは、裏があると思われるぞ?」
「そんな事は分かってる。別に何も賭けなくたって殺られたのに落とし前つけないんじゃメンツに関るから来たってだけだ。勝負が終わりゃ、元の自分の狩場に帰るさ」
「メンツに関るっていうのは、誰かに何か言われるんですか?」
準備が出来たので、気になってつい聞いてしまった。
ジョンさんが、微妙な顔をしているのは、やっぱり時間を稼いでいてくれたのだろうか?
「そりゃそうだろ?明らかに駆け出しに殺られてんだぞ?そこらで噂が流れりゃ、笑いものは仕方ないとしても、狩り易い獲物だとでも思われりゃ、こっちが面倒な事になる」
「別に言いふらしたりしないですけど?」
「んなもん信じられるか!珍しい罠使いだったから偶々やられた。はっきりさせとかなきゃ面倒なんだよ」
「そういうものなんですか?」
「考えすぎだと思うが、こういう連中も一定数いるし、決闘なら諦めて勝負するしかないだろうな。まぁお互い専門職じゃないなら反射神経と読みあいだからよ」
どうやらジョンさんは決闘については肯定的と言うか前向きのようだ。
勝てる気はしないのだが、多分ここで勝負するのが一番面倒が少ないって事なのだろうと、ジョンさんを信じる事にする。
肩に掛けたポンチョが落ちないかもう一回確認して一つ頷くと、正面に襲撃犯の後からバスに乗り込んできた方が立った。
大体5m位の距離で向かい合うのだが、妙に近いような遠いような変な感覚だ。
自分から見て右手側対峙する5mの丁度中間点に立つおばあちゃんがリボルバーを空に向ける。
撃鉄は引かれていないようだ。
向かいの相手に目を戻すと、耳にチチチと鉄の擦れる音が聞こえる。
ここ!
何となく音が変わる瞬間に動き、そこからはディテクティブスペシャルを抜いて、真っ直ぐ両目の間にサイトを合わせると、正面の相手が体を横に反らす様に動くので、そのまま追って撃つ。
耳がキーンと鳴り、思わず顔をしかめてしまうが、それでも正面の相手を見ているとゆっくり背中から倒れこんだ。
「はは!完全に読み勝ちだな!ほら……約束ださっさと自分の狩場に帰れ。約束守れないなら次は俺が……」
「いや、ジョンさんとやる訳ないだろ。すぐ村を出るよ」
それだけ言って、襲撃犯はさっさと村の外に行ってしまった。倒れた方はどうするんだろう?あとで合流するのかな?
目で追っていると、肩を軽く叩かれ振り返る。
すると目の前には紙があり、食堂のおばあちゃんが差し出していた。
そこには『決闘証明書』とあったのだが、コレは何なんだろうか?




