82.取引『羊の毛が売れてやる事もなくなった』
「あ……」
「ああ!素材屋さん!もしかして今ログインした所?」
羊肉を食べた翌日、ログインした所でちょうどよく女子二人組みに出くわした。
「そうですけど……えっと〔羊毛〕買いますか?」
「勿論!それでどれ位採れたの?10個くらい?」
「いや!素材屋さんだよ?多分30個位は手に入れたんじゃない?」
「え?いや300個ちょっとですけど?」
村の中に風が吹きすさび、草原の草が擦れる音が耳に心地よく鳴り響く。
「300?って言うとそれはどういう300?」
「うん、だよね~?何かあれかな羊毛的な何かが300あって、くっつけると30になるとか?」
「あ?ええっとそういうのは分からないので、見てもらってもいいですか?」
どうやら自分が集めてきた〔羊毛〕は羊毛じゃないらしい?あれかな?撚り合わせて毛糸にするとかそういうやつかな?
そこまで考えが至らなかったので、取り合えず取引画面を起こして<裁縫>をやってる女子に見せてみる。
「ああ……紛れもなく〔羊毛〕じゃん……」
「ええ……流石すぎるんだけど素材屋さん流石本職なだけあるっていうか……」
「これで良かったんですか?」
「うん、しかも私達が集めたやつより品質もいいし、どうしよっか?」
「どうしようも、こうしようも、買い取る約束で採ってきて貰ったんじゃん」
依頼があったものを集めてきただけの筈が、何故か意気消沈する二人に、どうしたものか戸惑っていると……、
「よう!どうした?そんな暗い顔して!」
フラッと現れたのはコットさんだった。
「ああ、コットさん!お金貸してください!」
「ええ!駄目だよ!ひまちゃん!あの……素材屋さんが〔羊毛〕集めてくれたのにお金が足りなくて……」
二人が意気消沈していたのはそういう事かとやっと理解し、自分から提案をする。
「そういう事だったら、お代はいつでもいいですよ!」
「駄目だよ!」
「そうだよ!こういう事はちゃんとしないと!」
「そうだぞ!前にも言ったが、取引ってのはそういう適当な事から信用がなくなって、にっちもさっちも行かなくなるんだからな!」
三人から怒涛の勢いで説教をくらってしまった。
いや、何か服飾の仕事は任せる事になったんだし、いいのかなと思ったのだが、駄目だったみたいだ。
「でもどうする?もう一回お金稼ぎに行く?」
「300個分だよ?ドローン狩りとジャンクパーツ集めでどれ位続ければいいんだろ……」
結局意気消沈する二人の肩に、コットさんが手を乗せる。
「いい方法がある!物々で交換って形にすればいい」
「ぶつぶつで交換?」
ぶつぶつって何のぶつぶつだろう?ぶつぶつ?
「えっと、つまり私達が素材屋さんの〔環境服〕を修理した分、安く素材を手に入れられるって話でしたよね?」
ああ!ぶつぶつって、物と物って事か!
「他に何か渡せるものってあったっけ?」
「えっと……矢も薬も自分で作れるし……何だろう?」
「いや<服飾>やってるんだからそりゃ、服だろうが!見ての通りこいつはほぼ服装備なんだから、全身コーディネートしてやって、その分素材で払ってもらえばいいじゃないか!余った素材で作った物で、売れるものを作って、それから次の段階に進むって感じだな」
どんな感じなんだろう?
「そっか!確かに素材屋さんは殆ど服装備じゃん!」
「え?でも、何で服なの?素材屋さんって戦って素材集めてるんだから、防具の方がいいんじゃない?」
「どういう事ですか?」
「ああ……いつものよく分からずにやってるアレか!いいか?基本的に戦闘職の連中は金属を使用した防具を装備して、少しでもダメージを減らしたいものなんだ。ただ、服装備には服装備のメリットがある!」
「うん、服は防御力が低い代わりにステータスの補強が出来るから、私達みたいな生産職とか、攻撃をもらいにくいポジションの戦闘職の人も服装備なの」
「そういう事!そして防具より服の方が可愛いから、あえて服にこだわる人もいるって聞いたから、こうやって<服飾>育てにきたって訳!」
「ああ、武器を強化する時に木材を使うみたいなアレだ!」
自分が理解した事に満足げな三人。
「じゃあ、素材屋さんの服の全身コーディネイト任されてもいい?」
「それでも〔羊毛〕300個には安い気もするけど?」
「フルコーディネイトで、一品ものなら結構な額になる事もあるし、現段階じゃ素材を出す方がちょっと損をしたとしても、二人が真面目にコツコツ<服飾>鍛えて上級のプレイヤーになったとして、今の借りを忘れなければ、いずれWinWinになるんじゃないか?」
「つまり二人のこの先に投資するって事ですか?別にいいですよ?」
それだけ言って〔羊毛〕と〔旧型環境服〕を取引で渡す。
「え……うん!分かった!凄く可愛い服にするから待っててね!」
そう言って二人連れ立って、どこかへと駆けていく。
「良かったな可愛い服だってさ」
「別に可愛くなくてもいいですけど、自分の<製造>で作った服より強くなってれば十分ありがたいです」
「ふーーん?そっか!じゃあ俺はまたそこらにいるから何かあればいつでも声掛けろよ」
それだけ言って、コットさんもどこかへと立ち去ってしまう。
さて……〔羊毛〕狩りも終わってしまったし、自分はこれから何をすればいいのだろうか?




