7.立読『幼馴染に彼氏がいた件』
フルダイブVRをはじめた日が土曜日でよかった。
何しろ初日を殆ど移動とお使いクエストに費やし、一日の限界連続ログイン時間である8時間をあっという間に使い切ってしまった。
撃ち合いのゲームでそれもどうかと問われれば、完全に浮かれた自分のミスなので、どうしようもない。
寧ろミスを挽回できる方法があって、最初の一歩目で脱落とかにならなくて良かったなと、尚且つ思ってた以上にリアルなフルダイブ仮想空間を存分に楽しめたかなと、思わなくもない。
これが一緒に遊ぶ相手が決ってたなら迷惑を掛けてしまったかもしれないし、誰かと競っていたなら置いていかれたと思うのかもしれないが、自分はあくまでソロプレイだし、マイペースが一番。
一気に全部遊びつくすより、じっくり一個一個楽しんでいった方が、長く遊べる気がしなくもない。
いずれは、誰かに勝ちたいとかそんな事を思う日も来るのかもしれないが、初日としては十分だったと思う。
と、まあ概ねプラス思考でいるいるのだが、現在日曜日の昼間となっている。
何しろ、夕方から8時間通したので、眠いわ眠いわ……学校がある日はセーブしないとと、一応アラーム機能を見つけて、設定だけしてきた。
できれば今日もいっぱいまでプレイしたい気持ちはある。
しかし、日がなゲームをして、寝て、ゲームをするなんて言う廃人みたいな事をして母親に心配されたくもない。
いや、本心を言うなら折角のVRのハードを取り上げられるのは困る。
一応昼はちゃんと食べたので、夕飯時に間違いなく止められる様、自分でもセットをしたし、母親にも外部的に知らせる方法を伝えたので、大丈夫の筈。
その上で、今は一応軽く外に出ている。
中学生が外に出た所で、買えるものはたかが知れているし、スポーツなんかの趣味もない自分が向うのは本屋だ。
ちょっと調べたい物があるのだが、ネットだと若干分かりづらいと言うか、参考の画像にしっくり来なかったと言うか、折角だからちゃんと健康的な生活もできるよアピールをしたかったと言うのもあるか?
まあとりあえず、手に入れたばかりのディテクティブスペシャルについてちょっと調べてみようと言う気持ちで、本屋に向った。
家からそう遠くないショッピングモール内の本屋、普段はあまり近づく事のないミリタリー系のコーナーにお目当ての本を探すが、殆どがガスガンやエアガン、しかもアサルトライフルを模した物が多い?
ハンドガンもあるにはあるが、リボルバーと言うのはあまり数は無いのか、何よりディテクティブスペシャルをピンポイントで見つけるのは難しそうだ。
仕方無しに今度は図鑑の方に向ってみると、武器関連の並びにアメリカ軍の銃だったり、世界の警察正式採用拳銃だったりと、一つ一つ見ていくと、世界の名銃の中にディテクティブスペシャルを見つけた。
自分が思っていた通りの木製グリップに小さな丸い金属が埋まってる奴だ。
書いてある事は殆どネットで調べられる事と一緒?って言うかネット記事がこの本から幾らか情報を引っ張ってきているのかもしれない。
それでも色んな角度から撮られたその銃を見ていると……。
「あきちゃん!」
急に名前を呼ばれて驚いた……が、自分を見てあえて大きな声で喋りかけてくる女性の声は本当に片手で数えるくらいだろう。
「さっちゃん久しぶり」
幼馴染のさっちゃんに声をかけられ、何となく気恥ずかしさから本を棚に返す。
買わないのかと問われたら、ちょっと中学生が買うには苦しい金額の図鑑だったので、大人になったら買いますと心の中で言い訳させて貰いたい。
「ね!どうしたの?銃の図鑑なんて見て!」
「え?いや……ちょっと興味があって?」
うん、折角棚に戻したのに思いっきり確認して尋ねてくる。確かに昔からそういう幼馴染だった。
「そうなんだ?実は私もちょっと興味があるんだけどさ。PDWってどれに載ってるか分る?」
「え?PDWって……そんな銃があるの?」
「いや、う~ん、あんまり大きくないんだけど~連射出来るみたいな?」
どうやら本人もよく分ってないらしい。中学に上がってお互い男子校女子高に分かれた事で、すっかり会うこともなかったのだが、知らない内にミリヲタにでもなっていたのかと思ってしまった。
自分のイメージでは昔から活発だったし、それこそサバゲーをやっていてもそんなに違和感はない。
まぁ、でもさっきパラパラと見たサバゲー雑誌に書いてあるエアガンの値段は中学生が揃える物には見えなかったが。
スマホで何か調べてるさっちゃんだが、ちらっと見る限り、サブマシンガンの類らしい?
「あっ!これこれ!PP-2000っていうの知らない?」
「う~ん……これかな?ロシアの銃図鑑」
とりあえず引っ張り出して渡してみると、凄い勢いでめくり始めた。
「そう!これだ!へ~照準機にフラッシュライト……弾倉を銃床に……44発撃てるんだ~小さいのに徹甲弾てなんだろ?7N……31……」
図鑑に熱中してるさっちゃんを眺めていると、スッと後ろに長身の男が立った。
流石に後ろから影がさし、振り返るさっちゃんだが、知り合いだったのか談笑している。
「…………」
何かこちらを向いて喋っているが、声の小さいタイプの人だ。
っていうか、背は高いのにすらっとして、髪はサラサラだし、うっすら化粧もしてる?
「イケメンだ……」
思わず、心の声が漏れた瞬間。
「イケメン……ぶふ!そ、そうだよね!イケメンだよね。ひゃっひゃっひゃ」
とやたら、さっちゃんにうけてしまった。
「それじゃ私、友達も来たし行くね!」
そう言って、颯爽と何処かへ行くさっちゃんだが、ちょっと前まで一緒に小学校通ってた子が、いつの間にかあんなイケメンの彼氏作るんだから、女の子の成長って早いな~なんてしみじみ思う。