75.ラム『当面の拠点を確認し、肉を食う』
羊毛集めを頑張ると決めたものの、村について早々狩りに出るというのも性急な気がする。
という事で、まずは当面の拠点となるであろう村の探索から始めようと思う。
ちなみに女子二人とは既に別れた。何でも皮を買うお金が全く足りないとの事なので、皮は売らずに持っていて欲しいとだけ言って、どこかへと立ち去ってしまった。
一人取り残され、ゆっくり再度周辺を見渡すと、村の中の道は草が刈り込まれ、覗いているのは火星らしい赤い土の道。
最初の街ほど埃っぽく感じないのは、周辺の大草原のお陰だろうか?
とりあえずすぐ近くの村の中でも特に目立つ大きな建物に向うと、パッと見で体育館のようなちょっと古びた建物だった。
大きく横に両開きに開く扉が中途半端に開いていたので、そっと中を覗いてみると、さっきの牛が中で干草をむしゃむしゃとやっていた。
仕事終わりの一服って感じなのか?あまり邪魔をしないでおいた方が良さそうだ。
うん、象を思わせるほどでかくて黒い筋肉質な牛は飼えるし牛車を引かせる事も出来るのに、外の羊は食うか食われるかの仲だと言う。
羊の方がよっぽど大人しくて、人に馴致されそうなものなのに、やっぱり火星ってのはちょっとおかしいのだろう。
羊の毛狩りは十分に気をつけて行われなければならない。
体育館のような牛舎の横には石造りの塔の様な物が立っているが、コレが所謂サイロってやつだろうか?
昔、牧場の社会科見学で見たことがあったと思うけど……ちょっと自信がない。
とりあえず牛牧場風の敷地から離れ、村の中心地と見られる家屋の並ぶ通りに出た。
なんか、こう……田舎村そのものって感じ?もしくは中世の街づくりゲーの初期の頃みたいな?
民家に家庭菜園があって、井戸があって、市場がある。それが村なのだ!みたいな主張をどことなく感じる。
開拓村づくりゲーみたいな雰囲気は結構好きだし、中々惹かれる雰囲気と言っていいだろう。
まず市場といっても露店がちょろっと並んでいるだけの田舎の物々交換所を軽く見て回ると、銃の弾がそれなりの種類売っているのは、流石FPSって感じ。まぁ外に出れば羊と命のやり取りだし、そこまでおかしなこともないのか?
あとは、食料と衣服関連、あとは薪でいいのかな?枝を束ねたやつなんかが売ってた。
衣服もあくまで趣味用って感じの簡易的なものだったので、すぐに使う用事もなさそうだし、とりあえず買うものはないか。
金属類はこの辺では取れないのか、徹底的に近代的な電子機器らしきものは置いてない。
さて、簡素な市場も見終わって次はどうするかと、特に意味もなく空を見上げると、どこからともなく、
カーンカーン
と、金属のぶつかり合う音が聞こえるので、向かってみる事にする。
コレが、もっとカンカンカンと焦らせるような音だったら警戒もするが、牧歌的な雰囲気に良く馴染み溶け込む、いい音なので、多分悪い事は起こらないだろう。
そこは煙突から煙の出る一軒の普通の家屋?
ただ扉の上には表札代わりか、大きな金床のマークが刻印された鉄板が埋め込まれている。
鍛冶屋さん?鉄具屋さんかな?分らないがそんな所だろうと、思い切って扉を開けると、おばさんが一人掃除中ながら、多分お店だろうと分かるカウンターの置かれた狭い部屋だった。
「あら~?お客様かしら~?鍋の修理?それとも包丁砥ぎ?」
「あ、いえ……何のお店だろうと思って」
「冷やかしかしら?一応鉄具の修理屋かしら?銃みたいな複雑な物じゃなければ、直す事も作る事も出来るわよ?」
「ああ……なる程……」
「よく見たら、あなたナイフ持ってるのね?ん~品質は最低だし、もう少しいい物を持った方がいいわよ~」
「そうですか?そうかもしれないです……」
「そうよ~そんなんじゃ羊の毛も刈れないわよ?」
「え?それは困る!どうすれば?」
「3000クレジットで、そのナイフ少しマシな物にして上げる。そうすれば羊でも全然大丈夫よ!」
それを聞き、思わず慌てて生産用ナイフと3000クレジットをカウンターに置く。
「お願いします」
「はいはい~!あなた!久しぶりの仕事だから超特急!」
女性の声に、奥の部屋からのっそりと現れた豊かな髭の熊のような男が、ナイフを無造作に掴む。
うんうんと、何かに納得してそれを持って奥に向かうが、大丈夫だろうか?
「そんな顔しなくても腕は確かだから安心して頂戴!それよりあなた、羊の毛が目的だったのね?あまり見ない顔だけど、服でも作るのかしら?」
「いえ、自分は素材集めだけなんです。羊の毛を集めて欲しいって頼まれまして……」
「そう?外の羊は凶暴だから気をつけてね~眠らせないと碌に毛も刈れないから、どこか大きな街の薬屋さんで眠り薬かなんか買って来たらいいわよ」
うん、相変わらずこのゲームのNPCのヒントはあからさまだ。そして眠り薬なら既にしこたま持っているので、問題ない。
もう少し情報を集めようかと世間話を始める頃には、ナイフを持って旦那さんが現れたので、話は中断。
ナイフを受け取って、外に出た。
すると、どこからともなくいい匂いが漂ってきたので、釣られる様に匂いの元を辿っていくと、どう見ても村の食堂だった。
そっと扉を押し開けると、白いエプロンの結構お年を召したおばさんが佇んでいた。
「好きな席に掛けな!」
おばあちゃんとは思えないワイルドな接客に、思わず空いてる席の椅子に座ると、目の前に独特な山を模したような鍋?プレート?の様な物が置かれた。
「どれ位食べるんだい?ああ!目をみりゃ分かるよ!あんたの胃の最大値と、今の空腹度は……ラム盛々だね!1000クレジットだ」
そう言って、もやしとニラとキャベツにタレたっぷりの肉を山盛り出され、更にぶっかける用のタレまである。
まぁ、ゲームだし太るもんじゃなしと思って思い切って全部鍋?に乗せてかっ込んでいく。
空腹度満腹のその先まで、ガンガン口に放り込むと、HPバーの横に何やら見慣れぬ表示が出た。
どうやらバフの様だが、スタミナとは何の事だろうか?勿論体力の事だとは分かっているが、このゲームの場合の解釈が、ちょっと分らない。
とりあえず、バッドステータスじゃないので、そのまま置いておき、会計して店から出ようとすると、おまけとばかりにおやつ用の干し肉と何かスースーして清涼感のある根っこのような食べ物を貰った。
うん、とりあえず妙な満足感の所為か、動く気がしない。




