74.服飾『駆け出しの服飾は羊毛かららしい』
「そりゃあ、まぁ、かなり運に助けられたな~」
「いや、相手は格上二人、運を味方にできたのがラビの実力って事だろ」
「だといいんですけど、やっぱり正面切っての戦いって言うのは、難しそうですね」
「そりゃな~確かに人によっちゃ芋ってるとか言いかねないが、そもそものスタイルが突撃じゃないんだから、仕方ないよな」
「いいんだって!ラビが選んだそのスタイルはラビだけの物だし、間違ってない。ただアレだな、グレネードの扱いだけはもうちょい覚えておかないと、駆け出し卒業したらフレンドリーファイアも解禁になるだろうし……」
「フレンドリー?」
「自分の攻撃で、自分や仲間にダメージを与えない制限さ。今回は自分のグレネードに巻き込まれなかったかもしれないが、今後は自分も巻き添え食らうって事さ」
「だな。サイレントキラーにグレネードみたいな音の鳴る武器が似合うのかどうかって問題もあるしな」
「サイレント?」
「ん?ああ……なんでもない!とにかくその、なんだ?ラビは密やかに隠れて罠を設置したキルゾーンに追い込む事で、その力を発揮できるわけだから、その辺の研究が必要なのかもな」
「そ、そうだな!毒で身動きできなくしてから、静かに近づいて処刑スタイルのディテクティブスペシャルで決める。美学を感じるぜ」
二人がちょっと何を言っているか分からなくなってきた頃、不思議と牛車の音がやわらかくなった気がして、外を覗くと、いつの間にやら一面緑の景色へと変貌していた。
「うわー大草原だー」
特に何が面白いという訳でもないが、そうとしか言いようのない地平線まで緑の光景が、風にたなびき波を打っているかと見間違える程に雄大で、それでいて、どこか他者を拒絶するかのような暗さも感じてしまうのは、何故だろうか?
「おっそろそろ村も近いか!ここは通称『羊の村』だ。そのままのネーミングセンスだが、この一帯は見ての通りの牧草地帯でな。ここを縄張りにしてるのが、羊達だ」
「ああ、くれぐれも油断するなよ。ここに人に飼われるような生易しい羊は存在しない。いつも人と羊のどちらかの死でもって成り立ってる。そんな村だ」
「えっと……」
どうやら、ここも森の狼犬や猿同様、人の支配など受け付けない、動物の楽園らしい。そして結局奪い合う事で成り立ってるそんな荒涼とした土地であることは変わりない。
まぁ、望むところか……。
ゆっくり呼吸をすると、ゲームとは思えないほどリアルな草の香りが肺に充満する。
そして、牛車が停まると、目の前には簡素な木の柵で囲われた居住地が広がっていた。
大量に生える草が刈り込まれているにも関わらず、あちこち建物の壁の縁から茫々と生える様は、牧草の生命力を感じさせる。
「あっ!!!」
「あーーー!!!!」
牛車から降りた途端、不意の叫び声に思わず耳を塞いでその場に伏せると、見覚えのある女子二人がこちらに走ってきた。
「あれ?いつかの二人?」
「いつかの二人って……素材屋さんだよね?」
「素材屋さんだと思うけど?弓とか持ってる人、他に見た事無いし……」
やっぱり、あの二人だったらしいが、何故か不審げな目でこちらを見てくる。
すると、首筋に何かを感じ、そのまま謎の浮遊感に振り返ると、コットさんが自分を見ていた。
「いつまでも伏せてると、変質者だと思われるぞ」
「ああ、こいつさっきPKに襲われたばかりで、ナーバスなんだ勘弁してやってくれ」
「そうだったんだ!最初の街でも撃たれてたし、大変だね」
「うん、やっぱり色んな素材持ってると思われて、狙われちゃうのかな?」
「あ、あのすみません。お久しぶりです」
「お久しぶり!そうだ!素材屋さんは何か素材持ってない?」
「ねぇ!急に言うから困ってる。あの私達最近服飾始めたんですけど、皮とか毛とか布の素材になりそうなものとか買取させてもらえないですか?」
「へ~!二人は服飾始めたのか!俺は銃専門だけど、生産の横の繋がりもあるし、何かあったらいつでも相談に乗るぞ!」
「ラビ、丁度良かったんじゃないか?あの昼夜兼用適応服見せてみたらどうだ?」
ジョンさんが、アドバイスをくれたのでアイテムボックスから壊れた服を取り出し、女子二人に差し出す。
「えっと、皮もあるので後で売れますけど、自分はコレの修理でこの村に来たんですけど……」
そう言うと、すぐにちゃんとこちらの言いたい事を察してくれたのか、一人が差し出した適応服を確認する。
「おしい!」
「おしいね……もうちょっとスキル上げできれば直せるんだけど……」
「なるほどな!ん?なんだよジョン……ああ~確かにな。よし!ここからはお若い人達に任せますので、ワシら老人は村で休ませてもらいますよ。ふぉっふぉっふぉ」
「いや、老人とは言ってないんだが、折角だし駆け出し同士、上手く話し合ってみろよ。何でもかんでも上から押し付けたら面白くないだろ!」
そう言って、コットさんとジョンさんはさっさと村の方へと行ってしまった。
「えっと……ええっと……まず持ってる皮出しますね」
そう言って、大量に持っている猿皮と狼犬からの報酬で何故かもらえた犬皮も取り出して見せていく。
「う、うぇぇぇぇ」
「す、凄いねコレ!丁度欲しいレベル帯の皮なんだけどどうやってこんな大量に……あっ!素材屋さんだもんね!出所はトップシークレットか!
「あ、いや森ですけども」
「森?」
「森?まぁ、いいや!コレだけ買い取らせてもらったら、さっきの直すくらいは訳ないけど、出来れば、もうちょっと欲しいものもあるんだよね」
「欲しいもの?」
「羊の毛!その為にこの村にいるんだけど、何か私達がいくら羊倒しても皮と肉ばかりで、毛はレアドロップ過ぎて、中々先に進めなかったんだよね」
「そう……なんなら弾代が高すぎてちょっと心折れてたくらい」
「ああ、だから自分が素材で集められないか?って事?」
「「お願いします!」」
うん、どういう成り行きなのか自分でもさっぱりだけど、羊の毛を集めてくるように頼まれてしまったので、ちょっと頑張ろうかと思う。




