70.旅行『旅は道連れ世は情け』
イヤーマフを耳に着けたり、外して首に掛けたりしながら使用感を試しつつ街中を歩く。
そもそもイヤーマフは余計な音を消すとは聞いていたのだが、想像以上に色んな音を消してしまう。
正直な所、いつもそこらで<聞き耳>を使いながら情報収集して歩くのが趣味でもある自分としては、あまり装備し続けたいものではない。
幸い耳につけるか首に掛けるかでON・OFF切り替えが聞く装備だったので、当面は銃を撃つ場面になるまでは基本首に掛けたままにしておこうと思う。
ちなみに気が付いたのは偶然街中で、イヤーマフを首に掛けて話しながら歩いてるプレイヤー達を見かけたからだ。
しかし、そうなるとやっぱりライフルやサブマシンガンと言った武器を装備するのは少々、自分には合わないだろう。つまり当面はクロスボウメインで進む事が、決定したような物だ。
「どうしたものか……」
「何がだ?」
無意識の呟きに急に応えられ、ビクッと体を竦ませるが、すぐに相手が分かり緊張が解けた。
「コットさん!何か久しぶりな気がしますね」
「最近見なかったから、てっきりどこかに拠点を移したのかと思ってたんだが、まだ居たんだな。それとも何か素材集めか何かで戻ってきたとかか?」
「いえ、コレ手に入れるために森にこもってたので!」
そう言って、首に掛けたイヤーマフを指差すが、小首をかしげて何かを考えている風だ。
「まぁ……いいか。それで、メインウエポンは何にしたんだ?メンテが必要なら安くしておくぞ!」
「相変わらずコレですけど?それに自分でも少しづつグレードアップしてるので、何とかやれてます」
「……イヤーマフ手に入れたんだよな?何で店売りの安物じゃないのかは分からんが、そこはまぁ自給自足タイプのラビだし、まぁいい!問題は、銃使えって言ったじゃんよ?!その為にイヤーマフ手に入れたんだろ?何で使わないんだよ!」
相変わらずコットさんは銃を使う事に拘りがあるらしいが、ガンスミスだとやっぱりそういう思想になるのだろうか?
「一応使えるようにはなりました。今も試射場で撃ってきたばかりですし」
そう言ってディテクティブスペシャルを懐から出すと、若干苦い顔でこちらを見てくる。
「うん、ジョンの奴もよく美学っていうが、相手が雨のように弾降らしてくる中で、どうやってソイツで戦うんだ?いや、まぁ……うん……このゲームは色んなシチュエーションで撃ちあえるし、必ずしも無理って事はないんだろうが……」
コットさんがいつも自分を心配して言ってくれてるのは分かるのだが、まだ自分の中でコレだという戦い方に出会ってないものはしょうがない。当面は罠を張って地味にクロスボウで敵の動きを止める方針でやっていこうと思っている。
だが、とりあえず難しい顔をするコットさんをこの場だけでも納得させる方法は、それはそれで考えないと、話が長くなりそうだ。
「実は自分、次の街っていうのに行ってみようかと思うんです」
「ほぅ、そいつは面白そうな話だ」
コットさんの反応を見る前に、後ろから話しかけられて、またもや体がビクッとしたが、今度はジョンさんだった。
「次の街か!まぁ、流石に最初の街にここまで長居する奴も珍しいし、拠点を移すのはいいと思うが、どこか行きたい場所でもあるのか?」
コットさんの質問に、思わず答えを返せなくなる。何しろ全くのノープランだからだ。しかしここで、言い淀むとまた質問責めになりかねないし……。
「ああ!あの手に入れたこの〔旧型環境服〕を修理したいんですけど、情報収集してから行き先を決めようと思ってて……」
二人して自分がアイテムボックスから出したそれを確認する。
「へ~この街に昼夜兼用の服装備なんてあったんだな?」
「攻略にあったかも知れないが、大抵はさっさと先の街に進んで普通にNPCから購入する物だからな……」
「と、いう訳でまずは情報収集と思って、街中のNPCに……」
「コレなら街じゃないよな?」
「だな~……寂れてるから人がいるか分からんが、序盤の服飾用の村があるからそっちだな」
「村ですか?」
「ああ、そこからか?だよな!一般的に街って言うとココみたいにマスドライバーがあったり、政府機関の置かれてる大きな都市を指すんだわ。火星の物資買取なんかもしてるし、大抵のプレイヤーは街を拠点にして活動してるのは間違いない。対人の大会も大抵は街で行われるしな」
「ただ、火星にはもっと色んな拠点があるんだよ。サイズで町とか村とか言ってるが、その辺は曖昧な基準だと思ってくれればいいさ。それで、この最初の街近くにも拠点が幾つかあってだな」
「そのうちの一つが、服飾用の村ですか?」
「そういう事だ。服系装備生産が大人気って事は全くないが、一定数必ずいるんだなコレが!」
「新人プレイヤーに服飾目指す奴は見てないが、運が良ければある程度戦闘関連を鍛えた奴が、趣味で始めるところに出くわすかもしれないし、一度寄ってみるのもいい」
「なる程!ありがとうございます!それじゃ、まずそこを目指してみます!」
そう言って、高速リニアの駅の方に向うと、肩を叩かれて止められた。
「今どこに行こうとした?」
「聞かずもがなだろ!あのな、高速リニアってのは街と街しか繋いでないんだわ。だから村や町に行くには別の手段がいる。勿論徒歩って手もあるが……」
「じゃあ、歩きで……」
「まぁ、そう焦るなって!俺達も偶には顔を出そうと思ってたところさ!」
それだけ言われ、ほぼ強引に出発の日を決められてしまったので、とりあえずそれまでは準備を万端にしておくとしよう。




