69.成長『最初の街に引きこもるのも限界らしい』
キカザルの<解体>が終わると詳しく内容を見る間もなく、灰毛狼に引っ張られ狼達の拠点へと戻る。
いつの間にそんなに時間が経ったのか、空がうっすら白み始めた頃、いつも二匹の灰毛狼達が護るあの広場に着き、さぁ解散と思ったのも束の間、広場の奥へと引っ張られ……引きずり込まれた。
キカザルと戦う為、コレまで狼犬達とは協力関係にあったが、正直これ以上深入りするつもりもなかったので、強引なお誘いに足が止まったものの、問答無用。
キカザルがあれだけ巨体で凶暴だったのに、もしこの奥に狼のリーダーだか王だかがいたとしたら……何を要求されても拒めない。普通に灰毛狼二匹で、十分自分なんかは殺せてしまう。
思わず引きつる顔を隠す間もなく、木々の合間を抜けると大きな洞窟があり、そこから勢いよく駆け出してくる白い何か!
「「「「「「キャンキャンキャンキャン!!」」」」」」
6匹ほどの小さい真っ白な子犬?灰毛狼たちにまとわりついて、甘えるしぐさから、この狼達の子供か?
一匹やたらおっとりとした小さい毛玉が自分の足を嗅いでいる。
「ウォン」
白い子犬?に気を取られているうちに、いつの間にか横に回りこんできた灰毛狼が、小さく吠えるといつも通りウインドウが表示され、その中には何やらアイテムが入っていた。
どうやら報酬の様なので素直に受け取ると、
〔旧型環境服〕(損壊)
となっていて、このままでは装備できないようなのだが、コレは誰かに聞いてみるしかないか?
あとはドッグタグが一個だ。誰の物かは分からない。
とりあえず、これで用は済んだらしいので、その場を立ち去り街へと戻る。
色々気になる物を手に入れたが、そろそろ一日のログイン時間いっぱいなので、ここは素直にログアウト。
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翌日学校を終え、すぐにログイン。宿題は休み時間にやったので、とやかく言わないで欲しい。
まずは、何はともあれキカザルの討伐報告に保安官事務所に向う。
「よう、中々いい面構えになって戻ってきたようだな。これからはもうベイビーとは呼べないな……ハウンドとでも呼ぶとしようか?少しばかり格好良すぎる気もするが、まぁいいだろう狼達の猟犬なんだしな」
「えっと、自分はこれからも狼犬達と仕事しなくちゃいけないんですか?」
「いや、そんな事はないな。寧ろ聞か猿を倒したんだし、もうこの街に居ても仕方ないだろう。そろそろ他に行く時期じゃないか?」
「……何でキカザル倒した事知ってるんです?しかも狼犬達の事まで……まさか!保安官も狼犬達の知り合い?!」
「そっちが疑問なのか?まぁ、いい。そりゃ顔つきを見れば大体分かるってもんさ。どれだけこの街で保安官やってると思うんだ?とりあえず報酬を渡しておくぞ」
そういいつつ、足を乗せた机から袋を取り出し投げつけてくると、その袋がスッと消えた。
「えっと?」
「金はお前のアイテムボックスに入ってる。他に用はあるか?」
「いえ、無いで……ドッグタグを拾ったんですけど、コレってどうすれば?」
「全く先に言えばいいものを……ドッグタグは各地の保安官事務所か政府機関で金と交換出来る。行方不明者リストからコレで一つ名が消えるな」
そう言いつつ、またお金を投げ渡してきたが、そのまま帽子を顔の上に載せ、手で追い払うしぐさをしたので、とりあえずここまでと言うことだろう。
保安官事務所を出て次に向うのは、当然試射場だ。
何しろここ最近自分はずっとイヤーマフの為にキカザルを倒す方法を探ってきたのだから、実質コレが自分にとって最重要の報酬とも言える。
いつも通り受付をし、ディテクティブスペシャル用の弾を貰って、的の前に立つ。
大きくて安心感のあるイヤーマフを頭に被り、銃を構える。
音が聞こえなくなると聞いたが、どれ位のモノなのか、何故か妙に緊張しながら引き金を引く。
「タンッ!」
乾いた音が鳴るが、耳がキーンとなる程でもない。寧ろ前よりクリアに音の輪郭を捉えたようなそんな不思議な感覚だった。
すると、後ろから足音が聞こえたので振り返ると、試射場のおじさんがこちらに近づいてきていた。
「聞か猿のイヤーマフか。それはいい物を手に入れたな。余計な音が遮断されて、足音が聞こえやすくなる分、索敵に便利だぞ」
「そうなんですか?流石名前に賢者って付くだけある!凄い装備だったんだ……」
「イヤーマフの効果付き装備としては初期のものだが、使い勝手はいい筈だ。それで?」
「それで?」
「アビリティはどうする?現在『急所攻撃』『Knife throwing』の二つだろう?そろそろ他の街に行ってもいい頃なのに、枠を余らせておく意味はないだろう」
「え!自分て、もう他の街に行っても大丈夫なんですか?」
「……それはドッグタグを取得した時点で可能だが、実力的な部分を含めても、そろそろこの街では成長の限界じゃないか?聞か猿を倒して保安官事務所に行ったなら、経験値も貰えるだろうし、レベルも上がってるんじゃないか?」
「……上がってる!」
「それで、どんな事に困ってる?出来る範囲で相談に乗ろう」
「えっと……何だろう?クロスボウの矢の装填速度とかもう少し上げたいかもしれないです」
「ふーむ……それだとAGIを上げてスキルを取得した方がいいかもしれないが、スキル枠はいっぱいだろう」
「確かに……」
「どうやら今必要なのはアビリティではなく、武器の方かもしれないな。やはり他所へ行って、もう少し見識を広げた方がいいだろう」
それだけ言うと、いつもの受付に戻りいつも通りの仁王立ちに戻ってしまったので、残りの弾も的に向って撃ち切る。
しかしその間も頭の中を巡るのは、他所の街の事ばかり。