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68.大猿『キカザルとの戦闘』

 月を背景にいまだシルエットしか見えないそれは、それだけで十分な程の濃密な殺意を撒き散らし、岩山をぶん殴ると、同時に砕かれた岩の破片が周囲に飛び散り、狼犬達を蹴散らす。


 思わず顔を庇うように腕を上げ、飛び散る岩の破片が体の横を通過するのを確認してキカザルの方を向くと、さっきまでそこにあった影が消えていた……。


 すぐさま周囲を見渡すと、途端に何故か視界が一瞬暗くなり『え?』っと声を上げたかどうか、気がついたら衝撃で転がされ、近くにあった木にぶつかってやっと止まる。


 体がフラフラとしていたが、何とか立ち上がり、HPを確認すると今の一発で最大HPの半分を持っていかれていた。


 〔錠剤〕を取り出し、その場で噛み潰すと口の中に清涼感が広がり、ジワジワとHPが回復していく。


 その間に灰毛狼がキカザルに取り付き、片腕を封じる事で時間を稼いでいたが、キカザルの腕力に振り回され、そう長くは持ちそうにない。


 すぐさま、フォローに入ろうとクロスボウを構えるが、振り回される灰毛狼が邪魔で、狙いが上手くつけられない。


 已む無く腕に巻いたスリングを解き、酸の瓶をセットして大きく振りかぶって投げつける。


 勿論直接当てようとすれば灰毛狼に当る可能性もあるし、コレはあくまで牽制と割り切り、キカザルの足元で破砕させた。


 それでも飛び散る酸に驚いたキカザルが飛びのくと同時に、灰毛狼も一旦後方宙返りで距離を取り、着地するなり低い姿勢で唸り声を上げる。


 飛び退いたキカザルもさるもので、待ち構えていた狼犬達を文字通り一蹴し、体勢を崩すかと思いきや、片手で軽がる体重を支えて、逆立ちした体勢からクルッと回転して、着地した。


 しかしその着地直後を狙った矢が一本刺さり、こちらを思い切り睨みつけてくる。


 灰毛狼はキカザルに唸り、キカザルはこちらを睨みつけ、自分はと言うと麻痺矢一本で片がつかずに大慌て。


 やはりボスだし、もう少しダメージを与えるべきか、はたまた酸で弱らせるべきか……?


 キカザルがゆっくりとお辞儀をする様に立ったまま全身を屈めていく。


 とりあえず、ダメージ用の〔炸裂ボルト〕をセットし、警戒していると、キカザルが地面の石を握った?


 すかさずその場に倒れこむように伏せると、頭上を音を立てて通り抜ける小ぶりのメロンサイズの石!あれくらいのサイズが何だかんだ一番おいしいんだよな……なんてね!ゲームじゃなかったら滝のような汗をかいているだろう。


 どこかで石が木に当る鈍い音がした。


 同時に再び灰毛狼が仕掛け、そこに応戦しようと構えたキカザルだが、灰毛狼のフェイントに一瞬動きが止まり、伏せ撃ちした自分のクロスボウの矢が刺さり、炸裂する。


 火薬が入っただけの矢が何故爆発するのか、正直理解出来ないのだが、まあいい。


 上腕から肩口当りに当った矢が炸裂して、キカザルの左顔面が焼ける。


 そして徐々に逆立つ毛、いよいよこちらに対して本気の殺気をぶつけてくるのが、何となく分かり、無意識に後ずさってしまう。


 しかし、それでも次の矢を装填するのは忘れない。次は酸の矢だ。もう何が正解か分らないが、とにかく今は削る他ない。


 ゆっくり再び身を屈めるキカザルに狙いを定め、撃つ。同時に今度は体ごと飛び込んできたキカザルに矢が刺さり、勢いのまま自分は再び転がされた。


 ……視点がおかしい?何故か自分は高い位置から地面を見下ろしてる?


 首をゆっくり回して後方を見ると、キカザルが片手で自分を吊り上げてるのか?


 何故かニヤッと笑ったように見えたキカザルに、自分はクロスボウを取り落とす。


 そして、地面にクロスボウが跳ね返る音と同時に、腰の矢筒から適当に引き抜いた矢をキカザルの顔に突き立て、更に腰にお守り用として提げていたグレネードを左手に持つと、キカザルに地面に叩きつけられ、一瞬息が詰まった。


 それでも、コロンとグレネードを放ると爆発し、キカザルの背後で爆発音が鳴り響く。


 吠え声を上げるキカザルが今どんな状況なのかもよく把握出来ていないが、偶然手に触れた生産用ナイフで、キカザルの足を貫いてやった。


 飛び上がるキカザルを横目に、そのまま転がって距離を取り、無意識に自分が最も安心を感じるそれを右手に引き抜いた。


 野性の本能なのか逃げる自分を追うように飛び込んできたキカザルを、横合いから突き飛ばす灰毛狼、そして群がる狼犬達。


 その場に倒れ貪られる様を幻視したはずが、あっという間に狼犬達を弾き飛ばしたキカザルは、光の加減か?それとも本当にそういう姿なのか?目が燃える炎の様に真っ赤だ。


 だが同時に、その真っ赤な目の間、眉間も赤く見えるのは、自分の<急所>スキルの所為だろう。


 何故か吸い込まれる様にディテクティブスペシャルの照準をそこに合わせていく。


 他の獣と比べれば狭い狭い筈のその赤い点が、徐々に近づき当ると確信した時、意識せずとも引き金を引くという不思議な体験をした。


 星と青い月が照らす夜、コダマする銃声に思わず首をすくめる。


 ビクッとはしたが、立ち上がれない程ではない。


 ゆっくりとその場に仰向けで倒れたキカザルに近づき、銃口をもう一度急所に当て、引き金を引く。


 今度は耳がキーンとなり、思わずその場でふらつくと、足にさっき取り落としたクロスボウがぶつかり、それを左手で拾い上げた。


 右手の銃をしまい、クロスボウに麻痺矢をセットしてキカザルに撃ち込むと、その場で仰向けに倒れ、力なくノビたキカザル。


 そこに狼犬達が群がりトドメを刺すと、スッと波が引くようにそのままあっさり狼犬達はその場を離れた。


 灰毛狼が検分するようにその場で自分を見て立っているのを横目にキカザルの死体を<解体>する。


 毛皮に牙に目玉に爪にと猿系の素材、そして


 〔賢者の耳あて〕を手に入れた。

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