67.奇襲『寝込みだろうと容赦なく』
一匹狼犬が川を渡ろうとすると、素材集めの小さい猿が一匹飛び出してきて騒ぎ出した。
すぐさま木陰からクロスボウで狙撃して麻痺させると、狼犬がそのまま小さい猿を噛み殺し、ひきづって近くの低木の影に隠れた。
一匹、また一匹と浅瀬を渡ってくるが、その後は邪魔も入らずに何とか猿のテリトリーに入りこみ、小さく唸る灰毛狼の声で狼犬が岩山に向ってそろりそろりと近づいていく。
今回は襲撃する側であり、罠を仕掛けて待ち構える戦法が取れない以上、自分も覚悟を決めて自分自身の武器を確かめる。
まずはクロスボウ、メインは麻痺薬の詰まった〔改造ボルト〕だ。勿論毒が詰まったタイプと酸が詰まったタイプも用意はしてある。
しかし、即効性があって敵の動きを止められるものといえば、やっぱり麻痺だろう。
毒は確かに継続的にダメージを与える事が出来るし、攻撃力の低い自分には大事なダメージソースだが、何分倒しきるまでには時間がかかる。それは空の〔改造ボルト〕を撃ち込んだ時の継続ダメージも同様であり、一応毒と空を一発づつ撃てば野猿位は10数秒くらいで倒せるは倒せる。
それでもまあ、不利は不利だし、トドメは任せて動けなくする方を優先した方がいいだろう。
そして酸に関しては未だにちょっと良く分かっていないのだが、ドローンの様な機械だと防御が下がり、動物だとダメージだと思っていたのだが、どうやらちょっと違うっぽい?多分だが耐性が下がるっていうのか、状態異常にかかりやすくなっている様に見える。
まぁコレは戦闘猿に麻痺矢を撃ち込んだ時に、先に酸のトラップをくらってたかくらってないかで。差があった様に見えたって言うだけなので、今後の課題としておく。
あとは少数だが火薬を仕込んだ炸裂矢も、今回はボス戦だし使ってみてもいいかもしれない。
メインウエポンはこんな所か、あとは投げナイフと生産用のナイフだが、こちらも一瞬動きを止めたり、フォロー用に積極的に使って行こう。
最後に懐にしまってあるディテクティブスペシャルを服の上から撫でて、気持ちを落ち着かせる。
他の誰もが当たり前のように銃をぶっ放してる中、自分はそう軽々しくは発砲出来ない。その状況を変えるため、ここが正念場だ。
岩山を望める位置に着いた時、一匹の野猿が狼犬に気がつき、騒ぎ出したのですぐにクロスボウをやや上空に向けて、矢を放つ。
すると放物線を描き野猿に突き刺さり、その猿はそのままその場に倒れるように動かなくなった。
クロスボウは放物線を描く微妙な軌道ゆえに有効射程はないと聞いていたが、結構な距離からでもちゃんとヒットしてくれて、ホッとした。
まぁ元々ダメージより状態異常をばら撒くのがこの武器の利点だし、それこそ当りさえすればいいのだが、やっぱり生産用にDEXに振ったのが効いているのだろうか?
そんな事を考えている内に、ちいさい猿が騒ぐも起きてこない戦闘猿やキカザルを横目に、狼犬達がどんどん岩山に侵入していく。
なんならふもとの寝ている猿達も片っ端からトドメを刺しているみたいなので、自分も近づいていき、寝てる小さい猿や野猿の急所に毒矢や空の〔改造ボルト〕を撃ちこみ、制圧を手伝う。
こんな時、寝てた猿が飛び起きてこちらに襲い掛かるのを他の狼犬達に助けられたりしていると、やっぱり自分も早く銃を撃てる様になって、どんどん敵を減らしていく事に憧れたりもしなくもない。
……いや憧れる!もし仮に自分がアサルトライフルを持っていたならば、今ここでばら撒くだけで何体の猿を倒せるか!きっと効率も今の比じゃないはずだし、なんなら狼犬達の協力すらなくてもキカザルを倒せたかもしれない……。
……でも本当にそれでいいのか?動きこそすばしっこいものの、近接攻撃しか出来ない猿を幾ら倒した所で、このゲームは対人戦が売りだった筈。
まだ駆け出しの自分ですら既に一回殺され、一回殺してる。そんな殺伐とした世界で、火力のぶつかり合いで果たして生き残れるのか?
確か殺された時は遠距離から不意を突かれ、殺した時は隠れて罠にかけたのだった。
いつまでも獣ばかり狩ってる訳でもないのに、正面からの火力頼りじゃ、この先生き残れるとは到底思えない。
うん……今は遠回りでも持てる武器をちゃんと使いこなしてから考えよう。
狼犬と協力してまた一体仕留めた。
更に近くの狼犬が野猿二体に絡まれていたので、投げナイフで一体を硬直させ、麻痺矢で動きを封じる。
急所攻撃のダメージ量に関しては余り実感はないが、硬直は結構使える。やっぱり2秒あればこの世界では奪われてしまうんだ。硬直からディテクティブスペシャルの一撃を無意識に体が追う。
まだ手に入れたわけでもないイヤーマフを装備して、ディテクティブスペシャルを撃つ瞬間を夢想する。こういうのを虎と狸の何とかって聞いた気もするが、まあいいか。
猿達の寝込みを襲撃する事で、大方岩山の猿達を片付けたと思ったが、そう言えばキカザルはどこに行った?
暗い周囲を見渡しながら、耳を済ませていると、岩山の山頂に丁度月がかかり、その光を薄青く全身の毛に纏わせた二足歩行の獣が、咆哮する。
そのシルエットだけで強大なボスだと自覚し、さっきまでのアサルトライフルがあれば一人でも倒し得たなどと言う甘い考えを一瞬で捨てる事になった。




